話題沸騰のアニメ「キルラキル」第2話放送直前!
トリガーのクリエイターインタビュー、2人目は「キルラキル」でクリエイティブオフィサーを務める若林広海が登場。
「キルラキル」はもちろん、「天元突破グレンラガン」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」の製作秘話をがっつり聞きました!
今回も2回にわけてのお届けです。


1個のクリップで、ガイナックスに入社!?

───「天元突破グレンラガン」(以下、グレン)では設定制作を担当されている若林さんですが、制作の仕事をやりたくて入社した形ですか?
若林 実は最初、制作進行に応募したんですが、進行のポジションがいっぱいになってしまったと連絡をもらって。でも僕の送った資料を見て気になってくださったのか、一度面接に来てくれって言われたんです。そこで社長の山賀(博之)さんと佐藤(裕紀)さんとお話をさせてもらって、「設定制作をやる人を探していたから、やらないか」って声をかけていただきました。
───資料って、何か作品やアイデアとかを送ったんですか?
若林 いや、普通の自己PRのテキスト資料でしたが、その資料を家にあった適当なクリップでとめていったんです。そしたら佐藤さんに、「このクリップ、プラモを作るときに使った?しっかりマスキングして塗装しているんだね」って言われまして(笑)。
───えっ!クリップで突然その話になったんですか!?
若林 当時、僕は趣味でプラモデルを作っていて、マスキングしたパーツをクリップではさんで塗装していたんですよ。
その資料をとめたクリップに、マスキングしてスプレーをしたあとが残っていたっていう(笑)。そういうところを見抜く、佐藤さんはすごいなって思いましたね。その後は、趣味の玩具やガレージキットの話で盛り上がって(笑)。
───ちなみにガイナックスでの初仕事は何だったんです?
若林 J.C.STAFFさんと共同で制作していた「忘却の旋律」というアニメの中で、2人乗りのバイクが出てくるんです。そのバイクの設定を吉成(曜)さんがデザインしていて、その資料用にバイクのプラモデルを作りました。まさか趣味が初仕事になるなんて(笑)。
おもしろい会社だなって思いましたね。

「グレン」の設定制作で今石洋之監督作品に参加

───では「グレン」に参加した経緯を教えてください。
若林 もともとガイナックスでエヴァ以来のロボットアニメのテレビシリーズ企画があったんです。そのときは別の方が監督や脚本を担当することになっていて、デザインや世界観も「グレン」とは全然違う作品でした。その企画の制作を僕が唯一の担当として何年もやっていたんです。
───全く別の作品の担当だったんですね。

若林 そうですね。でも、さまざまな経緯があって監督は今石さん、脚本は中島(かずき)さんにお願いしてリスタートすることに。それが「グレン」になったわけです。僕は元のロボットアニメ企画の担当だったので、そのまま設定制作として「グレン」チームへ入ることになったんです。
───設定制作ってどんなお仕事をやるんですか?
若林 漠然と資料を集めたり、整理したりする仕事かなってイメージしていたんですけど実際は少し違っていて、実写で言えば助監督に近いっていうか。常に監督の横にいて、監督が次の作業を円滑にすすめるために、先回りして動く感じですね。
あと、クリエイターとは別の視点で意見を言うのも大事な役割だと思っています。
───それから今石監督作品には必ず参加されていますよね。
若林 そうですね。「グレン」で設定制作、「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」(以下、パンスト)でコンセプトプランナー、「キルラキル」ではクリエイティブオフィサーとしてかかわっています。

自分の視野を広げるためにアニメ業界の外へ

───若林さんの謎の肩書きについては後でじっくり掘り下げていこうと思います。「パンスト」の後、今石さんや大塚(雅彦)さんたちはガイナックスを辞めていくわけですが、若林さんはどうされたんですか?
若林 「パンスト」が終わった年明けに、今石さんから「また中島さんとアニメを作るから、手伝って」って声をかけていただいたんです。
それはガイナックスにいても、別の会社にいても、どんな状況でも手伝いたかったんで。「僕でよければ、もちろん力になりたいです」って言いました。そして春頃に今石さんたちがガイナックスを出て、夏にトリガーを設立したんです。
───若林さんもそのままトリガーへ入られたんでしょうか?
若林 その頃、僕は体調を崩してしまっていて。夏ぐらいにどうにか復帰したんですが、9月から放送する錦織さんの初監督作品「アイドルマスター」のお手伝いという形でA-1Picturesさんに出向したんです。結局、ガイナックスに戻れたのは翌年で。
そこで、今後何をしようかと考えたんですが、外で試したいことも出てきたので、長年お世話になったガイナックスを出ようと思ったんです。
───試したいこととは、具体的に何でしたか?
若林 「パンスト」でやったアパレルとのコラボがおもしろかったんで、作品単位ではなくトリガーというアニメスタジオとアパレルのコラボ商品を提案させてもらいました。他には、ニコ生の公式番組で毎月MCをやらせてもらったり、わりと自由な感じです(笑)。とにかくアニメ業界外の人たちと関わって世界を広げたいって思っていました。
───個人活動を経て、トリガーに入られたわけですね。
若林 ですね。数カ月間でしたがアニメスタジオで働いているとできないようなことをやって、いろんな人たちと会えたことが今に繋がった気がしています。

「キルラキル」の肩書き、クリエイティブオフィサーとは

───「キルラキル」ではクリエイティブオフィサーという肩書きになっていますね。
若林 正直な話、肩書きは何でも良かったんですよね(笑)僕の役割って、脚本やデザインチームに入ってアイデアを出すのがメインの仕事で今作ではさらに宣伝もやらせてもらっている。そんな仕事をしている人の肩書きってなんだという話になって(笑)。
───吉成さんはセットデザイン、コヤマさんはアートディレクターですね。
若林 最初はコヤマさんにクリエイティブオフィサーって役職を推したんですけど、意味合いを考えたら「むしろお前のほうがいい」って、跳ね返されたんですよ(笑)。ちなみに吉成さんの肩書きは「ドリームファクトリー」ってのを推してました。夢工場ですよ、吉成さんを通せば何でもかっこよくなるんですから。でもふざけすぎだって却下されちゃいました(笑)。

クリエイティブオフィサーが教える「キルラキル」のポイント

───「キルラキル」で若林さん的に注目するポイントって?
若林 「キルラキル」ってそれが多すぎるんですよね。画で言うと、セル時代を彷彿とさせる荒々しくも暖かみのある背景、すしおさんの漫画チックでポップな絵柄はアニメファン以外にも引きがあると思いますし。動きの面では今石アクションが随所にちりばめられていて。そんな各セクション大暴れな素材をお馴染みの撮影チームが上品な画面に仕上げてくれている。「キルラキル」はハイブリットなんですよ。「グレン」の荒々しさと、「パンスト」のクールなグラフィティと、これまでの今石作品の文脈の1つの集大成と言いますか、歴史がぐっと凝縮された画面づくりになっています。
───パステルや油絵調の背景、エフェクトはどう作っています?
若林 基本は手描きです。美術監督の金子(雄司)さんと他に4、5人でやっていて、アニメーターの横で背景も描いています。キレイになりすぎていないアナログ独特のタッチがよくて。さらにそれをスキャンしたときにほこりや空気感が加わることで、完全デジタルで作った背景美術とはまた違う良さが生まれるんですよ。
───ストーリーも中島さんがほぼ全話をやっているという。
若林 こんなに豪華な話はないですよね。大塚さんのインタビューでもありましたが、僕と「進撃の巨人」で活躍中の瀬古(浩司)くんがベースを書いた回が2本だけあるんですけど、それにも中島さんの手は入っていますから。満艦飾マコなんて中島さんじゃないと書けないキャラですからね。
───たまごまごさんのレビューで言うと、この作品を体現するキャラだと。気になります。
若林 最初はかわいくてテンション高い普通の女の子って感じなんですけど、2話、3話とこの先を観ていただければこのコの役割が見えてくるかなと。もちろんそこに、豪華な声優さんたちが最高の芝居で肉付けしてくださっていますから、キャラクターもさらに魅力的になりますよね。
───とにかく見逃せない部分が多いです!
若林 あと、音楽は僕も大ファンの、「ガンダムUC」などを手掛けている澤野弘之さんです。澤野さんのすごく壮大な劇伴と今石作品のコミカルな画面とのギャップも見どころです。
───オープニングやエンディングも大変だと聞きまして。
若林 これがまた濃厚!絵コンテは今石さんと吉成さんの初の共作で、吉成さんはレイアウトをほぼCUTやって、そこにすしおさんの作画修正という、吉成、今石、すしおの3人の共同短編みたいになっています。コンテを見たとき、「吉成さん、正気かよ!?」って思いましたね(笑)。だって、打ち合わせでは「本編で力を使った方がいいから、オープニングはさっくりいこう」とか言っていたのに、実際にあがったものをみたら全然違う(笑)。でも吉成さんに「俺が描けばいいんでしょ」って言われたら誰も止められないですよね。
───言い出しっぺが責任を取る、ガイナックス時代からの決まりですね。
若林 やりたいって言うなら、やってもいいけど責任はとってね、っていうやつですね。誰にでも等しくチャンスがあるっていう精神は、トリガーにも受け継がれている。そういう空気を作れるスタジオって希有な存在だし、下の世代にも受け継いでいってもらいたいですね。

作品の成り立ちから見ている自分がやるべきこと

───「キルラキル」ではあと何をやっていますか?
若林 さきほども言いましたが宣伝もやらせてもらっています。脚本やデザイン打ち合わせに出ていて、企画のもとから見ている自分がそのまま宣伝することで、現場との温度差がなくなるかなって思ったんです。何を外に出していいかとか、今はどの情報を出すべきかってジャッジもしやすいので。
───作品づくりに宣伝と仕事量が多いですね!
若林 いや、現場の人たちに比べたら僕なんて全然。むしろ、先輩もいない分、一から自分なりに試行錯誤できるので楽しいくらいです。
───なるほど。自ら作品のためにやるべきことをやると!
若林 あとは今石さんと中島さんが作る作品のおもしろさを伝えることができるのは、オレしかいないかなって!(笑)
(小林美姫)

後編に続く

マチアソビで「キルラキル」第3話をテレビ放送に先がけて上映決定!
上映後にはスタッフトークショーもあり!
出演
中島かずき(シリーズ構成・脚本)
大塚雅彦(TRIGGER代表)
日時
10月12日(土)14:30~15:30
場所
ufotable CINEMA