好評放送中のアニメ『ルパン三世』。第3話は、イギリス諜報部「MI:6」からやってきた最強のエージェント、“殺しのライセンス” を持つ男・ニクスがついにルパン一家に牙を剥く「生存率0,2%」。

新「ルパン三世」3話。魅力的な敵の設定が上手くいったとき、とてつもなく面白くなる
人気のリアル脱出ゲームとルパンが初コラボ「サンマリノ城からの脱出 -マリー・アントワネットの首飾りを盗め- 」。
11月20日より始まる東京公演を皮切りに、全国28都市をめぐる予定。詳しい情報は特設サイトをチェック。
(C)モンキー・パンチ/TMS・NTV

今回のルパンの狙いはイタリアのサンレオで発掘された「マリー・アントワネットの首飾り」の欠片。この首飾りは、実際に18世紀末に起こった詐欺事件の中心になったもので、フランス王妃マリー・アントワネットとともに、錬金術師カリオストロ伯爵も事件に巻き込まれている。

カリオストロ伯爵とは、ご存知、宮崎駿監督『ルパン三世 カリオストロの城』の元ネタ。今回のエピソードの舞台、サンレオは『カリオストロの城』に登場するカリオストロ公国のモデルになった街でもある。

ついでに言うと、ルパンのおじいちゃん、アルセーヌ・ルパンが幼少期に最初に盗み出したのが、マリー・アントワネットの首飾りであり(モーリス・ルブラン『女王の首飾り』)、今年初めに上演されて話題を呼んだ宝塚版『ルパン三世』は、まさにこのマリー・アントワネットの首飾りをモチーフにした物語である。

濡れ衣をかけられたカリオストロはサンレオで獄死した――と、ここまでが史実であり、カリオストロが牢獄の壁に隠した首飾りの欠片が見つかった、というのがアニメのお話である。


首尾よく首飾りを盗み出すルパンだが、相棒の次元大介がニクスの襲撃を受けて囚われてしまった。凄腕のガンマンでありタフガイの次元が、あっという間に倒されるなんて、30年来のファンにとってはちょっと目を疑う光景である。

十字架に磔にされ、ニクスの拷問を受ける次元。ニクスの目的は、ルパンから首飾りの欠片を取り戻すこと。英国皇太子が首飾りを見るためにイタリアを訪問しており、両国間のトラブルを回避するため極秘裡に動いているのだ。

次元は拷問に耐えたが、不二子があっさりルパンと首飾りのことをバラしてしまう
まさに「裏切りは女のアクセサリーのようなものさ」というルパンの名言を地で行く女である。

最新鋭のBMW i8を駆り、ルパンを追うニクス。音の反響で周囲の状況を把握するエコーロケーション(コウモリやイルカと同じような能力)が使えるニクスは、ルパンを徐々に追い詰める。サイレンサー付のワルサーP-99でルパンを仕留めにかかるが、ルパンは軽く全弾回避。ニクスの銃の腕がイマイチなのか、ルパンが凄すぎるのか……。

次元を救出に現れるルパン。
しかし、やはりここにもニクスは現れる。囚われのヒロイン・次元を前にして、戦うルパンとニクス。ニクスは格闘術にも長けており、ルパンを追い詰めるが……。最後の一服をさせてもらっている間に、ルパンが事前に仕込んでおいた花火が英国皇太子めがけて炸裂、皇太子の警護を第一とするMI:6は撤収し、ルパンと次元は九死に一生を得た。

生還したルパンは不二子とシャンパンで乾杯。
「ニクスが最後の一服をさせてくれたなかったら今頃天国ね」
と裏切ったわりにはもっともなことを言う不二子に対して、ルパンは
「そん時ゃ、そん時。
愛する女のために死ねるなら本望さ
とイカす一言。

ラストは、MI:6とルパンの今後の因縁を匂わせてジ・エンド。最後に次元がまったく登場しないのが不思議といえば不思議だった。

「『ルパン三世』は「ルパンの敵」を設定するのがむずかしい



今回も放送後のSNSには「ルパン期待以上」「ルパン面白い」「安定して面白くていいね」などの賛辞の言葉が並んでいた。もはや「安定と信頼のルパン」は『ルパン三世』の枕詞になったようだ。

今シリーズにおいて、ルパンの敵として立ちはだかることになるニクスは、MI:6、殺しのライセンスというキーワードからも、映画『007』シリーズの主人公ジェームズ・ボンドを意識していることは明白。
見た目もボンドを演じるダニエル・クレイグをちょっとスマートにした感じであり、愛銃もボンドと同じ、ワルサーP-99である。

もともとアルセーヌ・ルパンや石川五エ門、銭形平次らの子孫が戦う世界なのだから、007が出てきてもちっとも不思議ではない。そういえば原作には明智小五郎探偵も登場していた。いずれもルパン三世の敵であり、ライバルでもある。

「ルパン三世は『ルパンの敵』を設定するのがすごくむずかしい」と指摘するのは、『ウルトラマンX』『女体渦巻地帯』などを手がける脚本家・映画監督の中野貴雄氏だ(10月3日のツイッターより)。「手段を選ばない残酷な同業者(泥棒)でもいいし、因業金貸しでも冷徹な警察官や軍隊でもいいんだけど、とにかく善と悪の繊細なキャラクターつくりが要求される」と中野氏は続ける。


ルパンは正義の味方ではなく、悪を滅ぼすために戦っているわけではない。己の欲望と美学をまっとうするためにアクションしているのであり、なぜルパンがその敵と戦わければいけないのか、視聴者も納得するように設定しなければいけない。

『ルパン三世』1stシリーズにおいては、なんといっても銭形警部がルパンの敵であり、ライバルだった。銭形という存在がありつつ、ルパンや不二子を狙うパイカル、ブーン、魔毛狂介などの敵が現れるという二重構造を持っていた。

また、劇場版の『ルパン三世 ルパンVS複製人間』のマモー、『ルパン三世 カリオストロの城』のカリオストロ伯爵も、女とプライドを奪われたルパンにとって倒さなければいけない強大な敵だった。

逆に言えば、魅力的な敵の設定が上手くいったとき、『ルパン三世』という作品はとてつもなく面白くなる。悪役を覚えている作品、イコール面白い『ルパン三世』と言い換えても良さそうだ。『スター・ウォーズ』のダース・ベイダー、『ダークナイト』のジョーカーなど、作品を面白くする魅力的な敵は、それぞれ主人公と敵対するだけのダイナミックかつ繊細な理由を持っている。

今のところ、ニクスのことはまだよくわからない。とにかく強いということはわかったが、詰めが甘い(最後に一服を求めるのは「脱獄のチャンスは一度」でも見せたルパンの常套手段)。ルパンもまだニクスを相手にしていないようだ。今後、ニクスをどれだけ魅力的に描くことができるかが、シリーズの出来にかかってくるような気がしている。

さて、今夜放送の第4話は、前回囚われっぱなしだった次元が大活躍。寂れた街を舞台に、いつものように虫歯の次元が拳銃嫌いのメガネっ子ヒロインとともに、ギャングのボスと対峙する。タイトルは「我が手に拳銃を」。チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)