ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんによる対談。今回は映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』について語り合います。
以下ネタバレあり。

新三部作の方が冒険していた


スター・ウォーズ「フォースの覚醒」 は「お祭り」ではあるが「革命」ではない
「アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒」

飯田 どうですか! 『スター・ウォーズ』。世間ではめっちゃ盛り上がってますけど。

藤田 ……ザ・無難。普通。穏当な、『スター・ウォーズ』らしい『スター・ウォーズ』で、危惧した通りでした。逆にいえば、こんだけ『スター・ウォーズ』らしくクローンできるエイブラムス監督の才能を感じました。

 新三部作の方が、CGだらけにしたりして、冒険していたなぁ……と(みんな新三部作=プリクエルを批判するけど、ぼくは結構好きなのです)。今回は、旧三部作的な、汚れた、メカメカしい感じや猥雑さをCGで再現し、猥雑な感じを取り戻していますが……視覚的にそんなに驚きがなかった。物語も、クライマックスが、飽きちゃった。旧三部作とおんなじなんだもの。
 以上です。

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 僕はエピソード7、よかった。
JJえらい! やり方は『スタートレック』のリブートと同じで、あのときはスポックを出したけど、今回はハン・ソロでやってくれた。SWは言うまでもなく「父殺しの物語」ですが、有名作品の続編を後続世代の監督に撮らせるという、ネガティヴなことを言われがち(新作じゃなくて続編ばっか大作の企画が通るとか、イキのいい若手に大作の有名IPやらせて個性殺しちゃうとか)だけど、まさに父殺しをしながら継承せよということなんだなと。ファンが観たいものに応えまくっていて、でも単なる焼き直しではないと。JJの作品のなかではいちばんいいんじゃないでしょうか。
 あと僕にとっては「イベントとしてのSW」初体験だった。というのも僕ら1980年代初頭うまれ世代は、最初の三部作の衝撃はリアルタイムで体験できていない。
ほんでプリクエル(新三部作)のときもお祭りだったけど、作品内容が「お、おう…」みたいな感じで乗り切れなかった。今回はふつうに盛り上がれて楽しいSW体験が初めてできた!w
 ただ僕、息子が生まれたばっかなので、SWという「毎度毎度、教育が失敗する話」を見て素直に喜べないところもあり……。

藤田 息子に殺されてましたからねw

思わせぶりなフリから予想するのが楽しい時期を楽しもう


藤田 主人公たちが、今のところは、血族だと明らかになっていないのも気になるところで。ぼくは、フィンが重要だと思いますが。ストームトルーパー(悪の雑魚兵)だったのが、自分の故郷での虐殺の任務に耐え切れず、自我と正義の心が目覚めて、裏切者になる。でも、今回のチンケなダース・ベイダーであるカイロ・レンも、元ジェダイ側にいて、裏切者。その対決が今後気になります。

 雑魚兵が主役級になっているのは、今後どうなるんだろう。ライトセイバーを使ってはいましたよね。フォースの覚醒は、彼にも起きているんだろうか? ここが、個人的には気になるところで、血族でも修行を受けたわけでもない彼が、もしフォースに覚醒し、ジェダイになるのなら、「継承」の物語はちょっと今までと違うことになると思う。

飯田 JJはエピソード1に出てきて大不評だった「強いフォースを発現する人間に宿る微生物ミディ=クロリアン」設定は出さない、と言っていたから、血筋や生まれじゃなくて「修行したらフォースにめざめるぞ!」という話にするんじゃないのかなあ。
 フィンも女性主人公のレイも、結局どういうバックボーンがあるのかはほぼわからなかったよね。JJお得意の「思わせぶりなフリをしまくって以下次回」パターンで「こいつ、SWでも先に設定やオチ決めないで、つくりながら考えてくつもりだろう?」と思ったけど。
テレビドラマの『LOST』も『フリンジ』もほんとそういうつくりかたで……だんだんうんざりしてくるw
 ただ、今のところは謎解明への期待感込みでとても評価してますよ。どうせオチはたいしたことないか、複雑すぎてわけわかんなくなると思ってるよ! あれこれ想像しているいまがいちばん楽しい状態のはず。

藤田 完結は四年後ですが、想像して楽しみに待つほどの魅力は感じなかったなぁ、『フォースの覚醒』には。
 新キャラは気になりますね。レイが、女性だけどフィンより強くて技術に明るいという造型はいいと思います。フィンのおどおどした裏切者感、レイの情緒不安定でひ弱な感じはいいですね。
この三人の行く末は気になります。

飯田 女主人公がメカ好きとかどこのパトレイバーかと。日本より25年くらい古い。
 ……という話はさておき、レイはほかのジェダイの子どもである可能性もある。そっちのほうが対ルークという「父殺し」の物語(になっていくと思うんだけど)が、GENE(生物学的な遺伝子)の話じゃなくてMEME(文化的な遺伝子)の話になり、複雑さを増すのでいいんじゃないか。

藤田 そっちの方が面白いし、そうしてほしい。
 そもそも、デススターやっつけて帝国を倒したのに、「ファースト・オーダー」とかいう謎の帝国もどきができているし、レジスタンスの徒労感ばかり感じました。

飯田 前作までは正義のはずだった反乱軍の方が実は悪玉になってるというZガンダムパターンにするとか。レイアが独裁者になっていたりして。

藤田 エピソード8を∀にしてしまうとかw ファン大激怒w

飯田 十字のライトセーバーを操るカイロ・レンがダースベイダーに憧れているというのは今のところただの中二病にしか見えないわけですが、フォースのダークサイドなるものをたんに悪の存在じゃなくてちゃんと「両面必要なもの」の片方としてひっくりかえして持ち上げる作業はしてくれてもいいんでないかと。ベイダー(アナキン)は宇宙を調和させるために本当に必要なひとだったのだ、と。

藤田 レンはベイダーより精神的に明らかに弱い。うまくいかないとすぐ癇癪おこしちゃう。あのキャラ設定は、割と好きですw

飯田 アナキンやアソーカはクソ生意気だし、レイアは他人に助けられてんのに口が悪いし、ハン・ソロは口八丁手八丁だし、SWはやんちゃなやつが出てこないと「らしくない」よね。レンが今回はそのタイプだった。

「映像がすごい!」と言わせないスター・ウォーズでいいのか?


藤田 しかし、単線的なサーガが、もうどこか感覚として合わない感じがしますねぇ。
 SWにはすでにスピンオフや外伝がこれだけあり、JJは『スタートレック』では歴史改変や並行世界をやっちゃったんだから、それらが何でもありな世界観に行っちゃってもいい。しかし、SWは、いかない。このさじ加減が、SWらしさなのでしょうね。冒険映画としても、テンポ良くてよくできていましたし。

飯田 プリクエルってあれだけだと微妙だけど、スピンオフアニメの『クローン・ウォーズ』を観ていると意外と許せるようになるw これからのシリーズもスピンオフ込みで重層的におもしろがるのが正解になるんじゃないかな。

藤田 プリクエルは、CGの見本市だと思えば、結構楽しかった。当時は新鮮でしたよ。『フォースの覚醒』には、そういう技術革新的な、特撮の新しさは感じなかった。
 ぼくは、むしろ、今回の方が怒っていますよ。無難に、普通に、面白いものにしやがって! って。これだったら、『トランスフォーマー』とか『ジュラシックワールド』の方が面白い。
 旧三部作的な世界観を、現在のCGと3Dで見れるってだけで、割と感涙ものだったりするんですけれどね。でもそれは、ノスタルジイだと思う。エイブラムスはノスタルジイの作家なのでいいのかもしれないけれど、ぼくがSWに期待するのは、もっとすごい映像だったりするので、認めたくない。

飯田 ルーカスも60年代のティーネイジャーの青春を描いた『アメリカン・グラフィティ』に明らかなようにノスタルジー作家ですけども。でもたしかにエピソード7は映像的にはびっくりするようなものはなかった。

藤田 「ほどほど」なんですよ。スターキラーのビームとか、星の破壊とか、もっと迫力があってもいいのに…… あと、なんか、レジスタンス側に、追いつめられ切った絶望感がないから、ラストバトルが盛り上がらない。特攻隊みたいな覚悟と悲壮感が、エピソード4にはあったのに……続きがあるとわかっているから「どうせ勝つんでしょw」としか思わない。

飯田 2時間の映画体験の豊かさを増やそうとすれば、その2時間以外に観客がもつ体験や記憶、あるいは時の流れの重みを利用するしかない。
 で、SWの新作はクラシック・ロックの巨人の来日公演を見ているみたいな感動。ボブ・ディランを観たとかブライアン・ウィルソンを観たとかポール・マッカートニーを観たとかね。うわ! ハン・ソロがっつり動いてるわー、ルークいまこんなんなんだ! 泣き。

藤田 ここで「ファルコン来たかー」とかね。

飯田 実際、ソロやルークを見ただけで映画館で泣いてるひと、けっこういたし。そういう状態がひっくりかえるかどうかは今後のレイやフィン、レン次第だけど。いまは「あの偉大な人々の継承者になりそうな」若者という印象のほうが個人的にはつよい。
 ただ、話を反復してファンを喜ばすのはいいんだけど、これで今回、奈落に落ちた某キャラクターがむかしのルークみたいに「落っこちたけど死んでませんでしたー」だったらさすがに怒るw

藤田 でも、それもありえるw

飯田 しかし、最初のスター・ウォーズは社会現象になったしフォロワーも生んだし、日本のSF界にも少なからぬ影響を与えたけど、こうしてSWが新作作られるようになっても、そういうことはないだろうね。「日本でもSWみたいなSF映画つくろう!」なんてなんない。今回は「お祭り」ではあるが「革命」ではない。

藤田 初代SWのあとに、全世界で作られたパチモンが結構好きなんですが、あれって意外とその後の特撮に影響与えてますね。日本だと深作欣二監督の『宇宙からのメッセージ』。これは、広島弁のヤクザが出てくるSWみたいなもので、意外と特撮の出来がいい。イタリアの、マカロニ・スペースオペラの類も、無理した特撮が、当時のサイケとかの美学と混ざってなかなかいいですよ。
 今回はそういう衝撃を全世界に与えるような作品ではない。『パシフィック・リム』『ベイマックス』『ゴジラ』は、「やられた!」感があった。あっちの方がショックが大きかったし、業界の人の反応も大きかったように思う。

SWを継ぐ新世代の監督たちの物語としてエピソード7以降を観る


藤田 制作環境のほうに目を向けると、エピソード7以降の6作(スピンオフ映画を含む)は新進の監督たちを起用し、SWの世界観と、ILMなどの技術を提供し、「継がせる」計画なわけですよね。その辺りの、内容面と、作る側の相互関係をメタ的にどうしても見てしまうように作られていますね……ということを、『美術手帖』のSW特集に書きました。

飯田 なんでJJが後継者なの? ということについて『ユリイカ』のスターウォーズ/SF映画特集号で渡邊大輔さんが評論を書いていて、主張を僕なりに要約するとこうです。
 SEは基本的にシネフィル的感性からしたらぐだぐだのだらしない映画(古典的ハリウッド映画の脚本と比べても洗練されていないし、演技指導もなってない)で、つくりも連続活劇スタイルで、つまり単体のパッケージとして完結していない。そのゆるい感じはJJが作ってきたTVシリーズの「謎をバラまいて引っ張りまくる」などの手法とも似ていて、だからこそJJはルーカスの後継者としてふさわしい、みたいな話ですね。

藤田 なるほど。ぼくはルーカスの後継者としてふさわしくないと思うけどw

飯田 SWの脚本が洗練されてないのは、見返してそう思ったけどね。ジョーゼフ・キャンベルの神話論を下敷きにしているという話は有名だけど、意識しすぎていて娯楽映画として観たら逆にいびつだよw
 当時の評判もストーリーを誉めるんじゃなくて基本「映像がすごい」だし。

藤田 旧三部作は、かなりメチャクチャですよね。結構筋が追いにくい。でも、あのDIY感がよかったというところもあると思います。ガレージで作ってます感というか。

飯田 で、当時からスピンオフが無限につくれるようなワールドビルディングをしていたルーカスは、いまのポスト・メディウム環境(タブレットやスマホのなかで映画もドラマも見れちゃうし、スピンオフもつくりほうだいで単体のパッケージ作品として完結しない展開をするのが一般的な時代)を先取りしていた作家といえるんじゃないか、JJもそういうタイプの作家だもんね、というのが渡邊説。

藤田 ワールドメイカーだったり、プラットフォーム作りをする作家としてのルーカスというのは、全く正しいと思います。

飯田 ルーカスは「SWを100年続くものにする」ためにディズニーに売ったと言っているらしいね。

藤田 100年も父と子の殺し合いと戦争が、延々と?w なんかうんざりしてきますね。

飯田 R2-D2たちをミッキーマウスやドナルド・ダックのようにすると。『スターウォーズランド』もつくられるし。

藤田 今でも、ディズニーランドにSWのアトラクションありますしね。
 多分、ぼくは見続けると思いますが、もう熱狂的なファンとしてではなく、「(普通に面白い映画として)消化していく」という感じだと思います。エピソード7に関しては、よくもこれだけうまくSWらしさを出したものだな……という、エイブラムスのコピー力を具体的に分析したいぐらいですね。
 しかし、ディズニー帝国が世界を覆っていて、その中の商品にSWもなったわけですよね。そこで、もうレジスタンスの側を描いても説得力ないよ。その点、プリクエルは、自分(アナキン)が悪の帝国の側になっていく話を描いていたからよかった。
 エピソード4は、ヒッピーとか、ギークたちの、既存の映画産業やアメリカに対するレジスンタンスという姿勢が背景にあったからあれでいいんだけど、今、SWの物語を再演するのは、意義が違うだろう、と。帝国側の視点で描くべきなんですよね。

飯田 ダースベイダーを否定していたはずなのに自分が帝国になってしまった、ってルーカスが言っていたけど、帝国はいまや売られちゃった。ほんでJJたちは売られた帝国(ファーストオーダー)をなんとかしようとがんばっている。癇癪起こす困った若造とか裏切り者とかがいるなかで……つまりレンがJJだと思って観ればいいと。

藤田 ぼくもそうやって観ています。だからこそ、帝国を継げない苦悩をしているひ弱なカイロ・レンとか、疑問を抱いて離脱する、クローンではない雑魚兵のフィンがなかなかいい。
 いっそのこと、帝国サイドで描いて、ファーストオーダーが、全世界に「ダースベイダーパーク」とか作りまくって、文化的魅力(ソフトパワー)でレジスタンスを根絶やしにする、とか描けばいいのに。
 ファーストオーダー視点で、対テロ戦争(対レジスタンス戦争)を描くぐらいの、辛辣さがあってもいい。あるいは逆に、ジェダイが完全勝利して作った共和国で、旧帝国のテロ組織と延々戦うとかさぁ。

このままファンムービーでいいのか? もっとジャージャーを!(?)


藤田 ま、なんにせよ、ぼくは元ストームトルーパーのフィンの活躍に期待です。あいつが、ルークと黒人女性の隠し子ってことはないですよね?

飯田 ジャージャーの子孫じゃないかな!w 当時「黒人差別だ」とさんざん批判された、めっちゃうざいジャージャー・ビンクス先輩の末裔。

藤田 ジャージャーは完全になかったことになっていたw ルーカスは叩かれてもあんなにジャージャー推してるのに! 最後にジャージャーがジェダイマスターを継いだら超面白いですけどね。ダークサイドに堕ちても面白いw

飯田 ジャージャーは消す。ミディ=クロリアン設定はなかったことにする。本当、エピソード7はファンムービーだよね。ルーカスのあの「誰に何を言われようと我を通す」ところがJJにはない。そんな主張が強い言うこときかないやつに新しいSWは撮らせないんだろうけど。

藤田 理想のファンムービーになっていましたよね。それでいいんだろうか。

飯田 さんざんファンムービーをやって喜ばせて、エピソード9はレジスタンスとファーストオーダーで延々と小難しい関税交渉の話をして終わるのがいいと思う。そしてエピソード1と円環をなすw

藤田 救いがない争いの輪ですよw