大悟「1人の天才芸人がいま死のうとしている。死のうとしているから、わしゃぁホントに助けたい」

この言葉で始まった、千鳥MCの『NEO決戦バラエティ キングちゃん』(10月17日放送 テレビ東京)。

「1人の天才芸人」として登場したのは、ピース・又吉直樹だった。
先生になってしまった又吉の芸人魂を取り戻せ「キングちゃん」迷惑だけど千鳥が熱い
『千鳥の白いピアノを山の頂上に運ぶDVD』。タイトル通り白いピアノを山の頂上に運ぶという「最強ロケ芸人の名前に恥じない前代未聞の究極のロケ」

又吉の危機を救え!「又吉プロデュース王」


昨年『火花』で芸人初の芥川賞を受賞した又吉。それ以来「先生」扱いされ続けていることに大悟は危機感を募らせる。

大悟「いままで通り芸人活動やってもボケようが何しようが『先生が……おしゃべりになった……』て(笑)。面白い方じゃないとダメなの!いま賢い方になってるの!」
又吉「僕この何ヶ月か、大学の教授としかしゃべってない」
ノブ「これはヤバイ!(笑)」

このままでは又吉の芸人魂が失われてしまう。そこでこの日は「又吉プロデュース王」と題し、ゲストの平成ノブシコブシ吉村、笑い飯西田、ハリウッド・ザコシショウと共に、大喜利で又吉のプロデュース案を出すことになった。出てきた案はこんな感じ。


・挨拶をクロちゃん的なやつに
・机にあぐらをかいて江戸っ子の親分肌で
・ドラマのガリレオみたいに突然壁に小説を書き出す
・スタッフと口喧嘩してキス
・移動は全てタイガーステップ(タイガーマスクがやるサイドステップ)

みんな他人事だと思って言いたい放題だが、これら全てを又吉が実行しなくてはならない。別室に偽番組の打合せが用意されており、何も知らないアイドルが呼び出されているのだ。

いよいよプロデュース案の実践。「今日この企画に懸けてるんですよ」と前のめりな又吉。イヤホンで大悟たちから指示を受けながら、偽打合せの場に軽快なタイガーステップで現れる。

「盤面の自由度」と「駒の配置」


『キングちゃん』は様々な「マッチメイク」に芸人たちが挑戦し王者を決める、千鳥曰く「ゴリゴリのバラエティ」。番組プロデューサーは『ゴットタン』や『ウレロ』シリーズを手がける佐久間宣行氏だ。


これまで行われてきた企画は「もらい泣きさせ王」「ドラマチックハートブレイク王」「ノブ嘆かせ王」など、一見なにをやるのかわからないものが多い。この正体不明さは『ゴットタン』の頃から顕著だった。看板企画「キス我慢選手権」も、最初の会議では「なかなか面白さが理解してもらえなかった」という。


「佐久間さん、なに言ってんすか? キスを迫られて我慢できるかどうかって、そんなの我慢できるに決まってるじゃないですか」
「いやいや、そういうことじゃないんだ。キスを我慢することがメインじゃなくて、そういう設定をもらった芸人さんが、フリーの状態から、いかにしてオチまで持っていくかを見られるのが面白いところなんだけど……」
「そんなうまくいきますか?だってキスを我慢するだけでしょ?」

(佐久間宣行『できないことはやりません〜テレ東的開き直り仕事術〜』より)

企画名だけだと「キスをせがまれるドッキリ」に聞こえるが、本質は「窮地に追い込まれた芸人がどう切り抜けるか」を見せるものだったのだ。実際、「キス我慢選手権」は劇団ひとりやみひろによるアドリブの応酬から様々な奇跡を生み、「キス我慢選手権 THE MOVIE」として2度も映画化された。


『キングちゃん』のマッチメイクの仕方も、『ゴットタン』の流れをくんでいる。例えば「ドラマチックハートブレイク王」は、「青春ドラマの世界観で“過去に体験した傷ついたエピソード”披露する」という前代未聞のもの。キャスティングされたドランクドラゴン塚地やノブコブ吉村は「難しい!」「すべらない話より緊張する!」と未知のシチュエーションに戦々恐々。教室でだべっている風に傷ついたエピソードを話すのだが、おっさん達の制服姿と”青春っぽく”話そう話そうと汗をかく様子に爆笑してしまった。

『ゴットタン』も『キングちゃん』も、机上で全ての予測がほぼ不可能なものを「やったら面白い」と実行し、本当に面白くなるのがスゴい。芸人が実力を発揮できる「盤面の自由度」と、企画に合った芸人をキャスティングする「駒の配置」が絶妙なのだ。
『キングちゃん』がオールロケなのも、関西で「最強ロケ芸人」と呼ばれた千鳥との抜群のマッチメイクだろう。

又吉先生の殻が崩壊


「盤面の自由度」と「駒の配置」を先程の「又吉プロデュース王」に当てはめるならば、肝になったのはハリウッド・ザコシショウという「駒」だった。

ザコシのプロデュース案は「移動は全てタイガーステップ」「行きそうで行かないカメレオンのまね」と、ほぼ自分のネタ。このナンセンスさと動きのメチャクチャさは、今回の又吉のプロデュースには無くてはならなかったと思う。「何をボケても先生扱いされる」という状況を打破するためには、センスあふれるボケは逆効果なのだ(再び「さすが先生……」になってしまうから)

さらに、バラエティでの見え方を熟知するノブコブ吉村、大喜利のセンスが抜群な笑い飯西田が配置される。又吉も指示に100%乗っかり、鼻でハーモニカを吹き、椅子に座ると見せかけてコケ、ガリレオの下りでは「夕暮れに聞いたことある。
そうかな?」
と殴り書いてハァハァ息を切らしながら「2作名のタイトル」と言い放つ。

「又吉先生」の殻がガラガラと崩壊する様に、番組の最後では「まだ笑いたい」と延長戦の開催が決定。10月24日(月)の『キングちゃん』では「又吉プロデュース王 延長戦」が放送される。「ネットでテレ東」「TVer(ティーバー)」の見逃し配信にも対応しているので、いま最も芸人たちが汗をかいて笑い転げているバラエティを見てほしい。

(井上マサキ)