あったらいいな、こんな食堂と思わせてくれるのが深夜食堂こと〈めしや〉。
その深夜食堂は、新宿ではなく、埼玉県の入間にあった!
7年超え「深夜食堂」シリーズが愛されるわけ。11/5公開

深夜に開く深夜食堂こと〈めしや〉。
コの字型カウンターのみの小さな店のメニューは酒と豚汁定食のみ。でもマスター(小林薫)は「できるもんならなんでもつくるよ」とたいていのリクエストに対応してくれる。
そこには毎日沢山の人が訪れる。みんなそれぞれ悩みを抱えながら、ここで人とふれあい、食事をすることで明日を生きる活力を得る。見ている方も癒やされる。

原作漫画「深夜食堂」が深夜ドラマ化されたのが、2009年。
映画化もされ、そして11月5日公開の「続・深夜食堂」と7年、長く愛されている。Netflixでの配信も行われ、韓国でも大人気だ。
(予告編)

憧れのこの店のモデルと言われているのは新宿ゴールデン街。今年の5月、火事があったとき、〈めしや〉は大丈夫化か? と愛好家に心配されたほど店も周辺の町の様子もリアルに作られている。
だが、実は、〈めしや〉と新宿よもぎ町は、埼玉県の南西部に位置する、お茶で有名な狭山市・入間の300坪ほどある倉庫のなかに作られていた。
7年超え「深夜食堂」シリーズが愛されるわけ。11/5公開

そこで「続・深夜食堂」の撮影が行われたのは、2016年の4〜5月にかけて。

倉庫の中は、昭和の路地裏のテーマパークのようだ。「落とし処」とか「日課ポッカ」「嘘 別室」とか変わった名前のお店の数々の外観が、一店舗、一店舗、きめ細かくつくられていて、ああ、ドラマや映画で見たあの店だ! セットを歩くとわくわくする。町内の地図、メニューが詳しく書かれた黒板やら、小劇場のチラシなども作り込んである(いい感じに汚しがかけてある)。それぞれのお店には設定がつくられているそうだ。

見たことある小さなお稲荷さんもあった。その向いにあるのが〈めしや〉。
中に入ると、映画やドラマで見たまんま。狭くて古い店内だが機能的に整頓されていて、居心地がいい。なぜか、お皿のうえにツボ押しマッサージ棒が乗っているのが気になった。

もうすぐここに俳優たちが入り、撮影がはじまる。今日の客は、不破万作、金子清文、須藤理彩、小林麻子、吉本菜穂子、平田薫、片岡礼子の常連客たち。
メニューはなんだろう? と思うと、セットの傍らに調理台が作り込まれ、フードコーディネーターの飯島奈美とそのアシスタント2名が調理にいそしんでいた。

気になってのぞくと、大きなサンマがフライパンのうえに乗って、バーナーであぶられている。むむ、サンマをフライパンで焼いてるのか? 

最近は、フライパンでもサンマが焼ける! という記事がネットでも散見されるので、ここでもいまどきな調理方法がなされているのか? と訊ねたところ、撮影現場に隣接する建物で、七輪をつかって本格的な調理が行われたうえで、こちらに移動して、温め直しているのだそう。確かに、セットの隣で焼いたら、ニオイや煙の処理が大変だ。
7年超え「深夜食堂」シリーズが愛されるわけ。11/5公開

「深夜食堂」の撮影めしの信条は「温かい食べ物はちゃんと温かい状態で提供され、実際に食べても実際においしい」こと。だからこそ、見ているほうも、食欲がそそられるわけだが、現実と映画はやっぱりちょっと違うもの。映画には「しずる感」が求められるのだ。
「しずる感」とは広告用語で、食べものが美味しそうに見えるような雰囲気。撮影前に、つやつやにしたり、みずみずしさを出したり、湯気を多く出したり、ひと手間加えることで、より美味しそうに見えるのだ。

バーナーでいい焼き色に炙られたさんまが〈めしや〉の中に運ばれて・・・。
それを食べるのは、お茶漬けシスターズのひとり吉本菜穂子。
上から箸で、ふっくらした身を抑えて、すっと真ん中を頭から尾っぽまで筋を入れ、開いて骨をとる、という動作を撮影することになって「緊張するー」と言っていた。そう、さんまをきれいに食べるのはなかなか難しいもの。
でも、きれいに食べることで、美味しさもいっそう伝わってくる。
よーい、スタート。カメラがまわる。
上から箸で、ふっくらした身を抑えて、すっと真ん中を頭から尾っぽまで筋を入れ、開いて骨をとる。
一発OK! ブラボー!

さんまを美味しく食べているところへ、老婆(渡辺美佐子)がオダギリジョー演じる警官・小暮に連れられて入ってくる。
この老婆、お金に困った息子のためにはるばる九州からやってきたのだが、もしかしたら、キテキテ詐欺かもしれず・・・。
老婆が〈めしや〉で頼むのは「さんま」ではなく「豚汁定食」。なんでもできるというのにあえて定番で攻める老婆。渋いぜ。でも彼女の「豚汁定食」には深い意味があって・・・。名優・渡辺美佐子は、豚汁定食を食べた瞬間、みるみる元気になっていく表情の変化を鮮やかに見せた。
7年超え「深夜食堂」シリーズが愛されるわけ。11/5公開

さんまの写真は、映画のプレスシート(宣伝用のパンフレットみたいなもの)の表紙を開けた2ぺーじ目に大きく印象的に使われていた。てっきり、「続・深夜食堂」では「さんま」がサブタイトルになっているかと思ったら(ドラマ版からずっと、各話ごとのサブタイトルがメニュー名になっている)、「続・深夜食堂」では、「焼肉定食」「焼きうどん」「豚汁定食」の3つが題材になっていた。
「焼肉定食」はストレスがたまると喪服を着て街をぶらつく女の話、「焼きうどん」は、年上の恋人との結婚を母親に反対される蕎麦屋の息子と子離れできないその母親の話、「豚汁定食」は前述の老婆の話。

できた映画を見たらさんまのシーンはほんの一瞬だった。あんなに俳優さん、緊張してたのに! いやでも、出来たての料理にこだわるように、ほんの一瞬の画面も丁寧につくることで「深夜食堂」シリーズは愛される作品になっているのだ。

1時間48分、食事の時間を削ってでも「続・深夜食堂」を見れば心が満たされる。
(木俣冬)

【作品データ】
続・深夜食堂
11月5日(土)全国公開
【出演】 小林薫 ほか
【原作】 安倍夜郎「深夜食堂」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)
【スタッフ】 監督:松岡錠司 美術:原田満生 フードスタイリスト:飯島奈美   
【公式サイト】 
【コピーライト表記】  (C) 2016安倍夜郎・小学館/「続・深夜食堂」製作委員会