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八雲と三遊亭圓生が似すぎて困る「昭和元禄落語心中 助六再び編」5話

2017年2月10日 10時00分 ライター情報:杉江松恋
「てめえの我を目いっぱい出しなさい。佐平次を通して己が見えてくるはずだよ」
「おいら、居残りをさしてもらって分かったことが一つあります。師匠に教えていただいたのを軸にして、いろんな大師匠のを聴き比べてみたんですが、おんなじ佐平次が一人もいないってことです。佐平次ってのは、佐平次を演じる落語家の顔をして噺に出てくるんですね。でもさ、オイラのはそうじゃねえんだ。我を張れったって、我がねえのがオイラです。自分の事はカラッポにして、佐平次兄ィになりたい」

有楽亭八雲、倒れる!


雲田はるこ原作アニメ『昭和元禄落語心中 助六再び編』第5話は、師匠・八代目有楽亭八雲との親子会にこぎつけた三代目有楽亭助六の「居残り佐平次」を中心に動いた回だった。「自分の落語がない」と指摘されてもがき苦しんできた助六にとって「居残り佐平次」は、演者によって主人公の演出がまったく異なり、キャラクターを出すには最高の題材となる噺だ。後半は、銀座・歌舞伎座における親子会の当日に舞台が移る。八雲が選んだ噺は、幽霊噺の「反魂香」。舞台演出のために小夏に命じて香を焚かせた八雲だったが、噺の終盤に突如発作を起こして倒れてしまう。彼の目には懐かしい女性・みよ吉の姿が移っていた。そして冥界に去ったはずの盟友・二代目有楽亭助六の姿も。
自分の代にて落語を終わらせる、心中すると宣言していた八雲が死の危機に瀕する一話だ。ここから物語は急を告げていく。転回点にふさわしい緊迫感のある回だった。原作では7巻中盤に相当する個所だ。

圓生とパンダが死んだ日


八雲が倒れるエピソードは、六代目三遊亭圓生の最期を連想させる。
六代目圓生最後の高座は、1979年9月3日、千葉県習志野市の習志野サンペデック(現・モリシア津田沼)で行われた「習志野圓生後援会」の発会式だった。そこで圓生は「桜鯛」という小咄を語ったのだ。高座に上がる前から圓生の体調は悪く、会場の外で聴いていたマネージャーの山崎佳男は、普段であればありえないほどにその声が震えているのに気づいたという。高座を下りた圓生の容態は急激に悪化し、救急車で運ばれたものの、搬送先の病院で午後9時35分に死亡が確認された。
昭和最後の名人と謳われたこともある圓生の死は演芸界に大きな衝撃を与えた。もっと衝撃的だったのは、翌日の新聞ではその訃報が意外なほど小さくしか扱われなかったことである。上野動物園で飼育された初代パンダの一頭、雌のランランが翌4日の未明に亡くなったため、各紙はそちらを大々的に報道したのである(同日死亡というのは厳密には違う)。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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