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映画「メッセージ」映像化は無理だと誰もが思った傑作小説は「ばかうけ」以上のものになったのか

2017年5月20日 10時00分 ライター情報:米光一成
映画『メッセージ』の原作は、短編小説「あなたの人生の物語」(テッド・チャン)だ。
あれを映画化するのは無理だ。
あの傑作を読んだ人は、そう思ったはずだ。

はたして、どうだったのか?
前評判はとてもいい。
新海誠監督は「想像よりもずっと誠実な映画化」とコメントする。
押井守監督は「本物のSF映画」と称賛する。
原作はテッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」

短編小説「あなたの人生の物語」は、数々の賞を受賞している。
2000年のネビュラ賞中長編小説部門を受賞。
年間のSF短編の傑作に贈られるスタージョン賞も受賞。
日本でも、SFマガジン読者賞、星雲賞を受賞。
そして、2014年に「SFマガジン」オールタイムベストSF海外短編部門で一位になった作品である。
ざっくり言ってしまえば、現時点で、海外SF短編の最高の傑作なのだ。

傑作だから映画化は無理だ、と言ってるわけではない。
この短編は、映像化するにはやっかいなしろものなのだ。

地球のさまざまな場所に、巨大な黒い物体が出現する。
「ばかうけ」や「柿の種」「ハッピーターン」に似てると話題になった、あれ、だ。
この中にいる異星人「ヘプタポッド」(七本脚!)と、意志の疎通をはかろうと苦闘する物語だ。
主人公は、言語学者ルイーズ・バンクス。

“あなたのおとうさんがわたしにある質問をしようとしている。これは、わたしたちの人生におけるもっとも大事なひとときであり、わたしは注意をはらって、あらゆる詳細を心に刻もうとしている”。
小説では、言語学者ルイーズ・バンクスが、娘に向かって語りかける一人称で進んでいく。
一人称であることに大きな意味があり、それどころか、読み進めると気づく少し奇妙に感じる語り口も、大きな意味を持つ。
その意味が判明したときに、あっとおどろく画が脳内に投影される仕組みになっている。
これを、映像でそのまま表現することはむずかしい。

小説の中では、ふたつのキー概念が登場する。
ひとつは、「サピア=ウォーフの仮説」だ。
話す言語によって、その人の思考方法や世界観が決まっていくという仮説。
ざっくりと書くと、言語が違えば、見えている世界も違うんじゃないかってことだ。
あまりにも掛け離れた言語体系をもち、世界がまったく異なって見えている同士は、通じ合えるのか?

小説では、このプロセスがていねいに描かれる。
つまり、言語学者のルイーズは、異星人の言語を習得する過程で、地球人とはまったく異なる思考方法を手に入れていくのだ。
“その文字は、たがいに少しずつ方向のずれたおのおのの線がすべてからみあってエッシャーの描く格子めいた様相を呈し、奇想天外な、走り書きで描かれた祈りをささげるカマキリのようなものに見える”。

ライター情報

米光一成

ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学客員教授。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「想像と言葉」等。

URL:Twitter:@yonemitsu

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