ほのぼのグルメ時代劇だと思ったら、怒涛の展開を見せはじめた土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』。原作)前回は、なんと舞台となっている料理屋「つる家」が付け火で燃えてしまった! 『ひよっこ』の「すずふり亭」や『やすらぎの郷』の老人ホームがいきなり全焼してしまうようなものだろうか……。
ショック!
飯テロ時代劇「みをつくし料理帖」5話「親なら最後まで子の味方でいたい」
原作シリーズの2

不穏きわまりない大倉孝二登場!


主人公・澪(黒木華)と種市(小日向文世)らが大切にしていた「つる家」が燃えてしまった。そのことを知った澪の幼なじみで吉原一の美貌を誇る花魁、あさひ太夫(成海璃子)が10両という大金を用立てる。金を貸す条件は、澪が料理の道を進むこと。あさひ太夫に届けられた「感謝」の文字がふっと浮き上がる演出が小粋。

いつも憎まれ口をきいているが実は「つる家」を贔屓している清右衛門(木村祐一)の手配によって、新しい「つる家」が開店することになった。大男の大工・伊佐三(小林正寛)もいい味出している。なお、移転先の元飯田町は、今でいうところの九段下あたり。


澪のまわりは良い人ばかりだなぁ、と安心するのもつかの間。坂村堂(村杉蝉之介)が連れてきた料理人、富三(大倉孝二)の顔を見たご寮さん(安田成美)の様相が一変する。背後には雷がドッシャーン! どう見ても不穏すぎる。そしてここに大倉孝二をキャスティングする『みをつくし料理帖』の隙のなさと言ったらない。

富三は、大坂・天満一兆庵の料理人だった。天満一兆庵の(つまりご寮さんの)一人息子・佐兵衛(柳下大)とともに江戸に出てくるが、店は潰れて佐兵衛は行方知れずになっていた。
そもそも主人の嘉兵衛(国広富之)とご寮さん、そして澪が江戸にやってきたのは、佐兵衛を頼るためだったのだ。

富三はご寮さんに江戸での顛末を語る。佐兵衛は吉原の遊女に入れ込み、店の金を使い込んだ挙句、自分を振ろうとした遊女を殺して行方をくらませてしまったというのだ……! こんな話を聞いてショックを受けない親はいないだろう。ショックを受けるときの安田成美の表情が本当に辛そうだ。しかし、それでも親が子を見放すことはない。

「佐兵衛の母親は、この私だけや。
どないなことがあったかて、私はあの子を信じる。信じたい……」

犯罪者の親が何を甘いことを言っているのだ、死んだ人のことを考えろ、と思う向きもあるかもしれないが、子の親としてはこれが本音だろう。親は最後まで子どもの味方であってほしい。

一方、富三はそのまま「つる家」を手伝うが、客は富三の料理を残してしまう。腕はいいはずなのに、と不審がる澪。ここで、ご寮さんが言っていた「料理は料理人の器量次第」という言葉を思い出した視聴者も少なくないだろう。
「器量」とは「才能」のほかに「徳」という意味も併せ持つ。ということは、富三の正体は……。


森山未來が見せる辛党の苦しみ


土曜の夕方6時にしてはヘヴィーすぎる展開に、ふっと優しい風を吹き込んでくれるのは謎の侍・小松原(森山未來)と周囲のやりとりだ。小松原の正体は、将軍からの信頼も篤い御膳奉行・小野寺数馬だった。同僚・弥三郎役の波岡一喜は『火花』の神谷役で知られているが、実は彼も『ちりとてちん』組の一人。

「嘉祥の儀」(将軍が大名に菓子をふるまう儀式)を任された小野寺は、苦手な菓子を食べ歩くことになる。
酒とつまみを愛する辛党の小野寺にとっては苦難の連続……。筆者も甘いものより酒とイカの塩辛とかのほうが好きなので、気持ちはよくわかるぞ。たとえ、甘党だとしても、あれだけの量を連続で食べるのは苦しかろう。それでも見事な菓子「ひとくち宝珠」を作り上げてしまうのだから、小野寺は仕事がデキる男だ。

菓子を食べて「うーっ」とうなる小野寺と、新メニューを考えようと「うーっ」とうなる澪が交互に映って、澪のもとへ小野寺が酒を求めて転がり込むシーンがなんともおかしい。入ってきた小野寺と少し体が触れたとき、びくっとする黒木華の芝居が細かい。
「いり豆」のくだりを見ると、2人に恋の予感が……。今シリーズでそこまで描くのかしら?

それにしても、ごはんが美味しそうで、重いストーリーを軽やかに展開するところは少しドラマ『カルテット』を思い出す。そういえばあちらも大倉孝二が鍵を握る役で出てきてたな……。

ラストは富三の不穏極まりない表情で次回に続く。ああ、せっかく種市が買い戻したご寮さんのかんざしが……。そういえば、だんだん種市とお澪坊の顔が似てきたと思いません? 役者ってすごい。今夜6時から後半の第6話、見逃せない~。
(大山くまお)