遂に最終週に突入した『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)。

通常だったら、1週間まとめてレビューしているところなのだが、最終週ということもあり、ドトウの展開の連続で1週間まとめると書き切れなそうなので、最終回直前レビュー!

最終週だというのに、相変わらず老人たちの感情を揺さぶりまくりなのだ。


まさかの故・大原麗子の出演


まず驚かされたのは、先週死んだ加納英吉(織本順吉)が、「やすらぎの郷」を創設するきっかけとなった大道洋子の姿が明かされたこと。

孤独死した女優ということで、明らかに大原麗子をモチーフにしたキャラクターだというのは予想がついていたが、そのまんま大原麗子の写真を出してくるとは! しかも、大原麗子が出演した代表的なCM・サントリーレッドの「すこし愛して、なが〜く愛して」というセリフまで乗っけて。

この回を見直してみると、オープニングでちゃんと「故・大原麗子」というクレジットが流れており、ザワッとさせられた(放送途中で亡くなった野際陽子には「故」とついていないのに!)。

加納英吉が「やすらぎの郷」を作ったきっかけが大道洋子の孤独死だったように、倉本聰が、テレビに功績のあった老人ホームを舞台にしたドラマ『やすらぎの郷』を書くきっかけとなったのは大原麗子の孤独死だったということなのだろう。

先週の月曜日が『ミュージックステーション ウルトラFES2017』でお休みだったため、1日ズレての放送(最終回が拡大スペシャルで2話分まとめて放送予定)となっており、本来だったら、加納英吉の死から大原麗子に思いを馳せるところまでが第25週だったんだろうと思われる。

その方がキレイにまとまっていたのに……つくづく『ミュージックステーション』がうらめしい!
「やすらぎの郷」今日最終回若い娘の前で泥酔した菊村が「やれたかも」な夜をプレイバック
イラスト/北村ヂン

上川隆也の語る「イチエフ」に圧倒される


さて、おそらくここからが本来の最終週。

久々に「やすらぎの郷」から離れた菊村栄(石坂浩二)は、東京で亡妻・律子(風吹ジュン)の墓参りをし、それから、かつて
恋した女優・安西直美が東日本大震災の津波で流されたという福島の浜を訪れる。

ここで直美の孫・アザミ(清野菜名)と落ち合うことになっているのだ。


直美とアザミのことを思いながら浜を歩いていた菊村は、娘を津波で亡くし、現在は福島第一原発の廃炉作業をしているという男(上川隆也)と出会う。

男は、放射能をだいぶ浴びてしまったことだし、いいかげん廃炉作業から逃げたいのだが、オリンピックに人出を取られてしまって抜けるに抜けられないのだという。

「太っちゃえば(防護服が着られなくなるから)それでサヨナラだって毎日食ってるんだけど、なぜか太らねえ……」

唐突に出てきた感のあるこの男だが、上川隆也の淡々とした語りは妙なリアリティがあり、ドキュメンタリーを見ているような感覚で引き込まれてしまった。

東日本大震災については『やすらぎの郷』の中でもたびたび触れられてきたが、ここに来てさらに「震災と原発事故を忘れるなよ」とだめ押しだ。

倉本聰が『やすらぎの郷』で繰り返し描いてきたテーマは、芸能人の孤独死、戦争、東日本大震災。

……そしてもうひとつ。
若い娘との恋愛!

菊村の「やれたかも」な夜


比較的シリアスに展開していた今週だが、アザミと一緒に宿へ到着したあたりから様子がおかしくなる。

この宿は、菊村が若い頃、脚本の執筆のためによく使っていた宿なのだが、ある時、直美が「きちゃった!」と突然やって来たことがあるのだ。

直美に恋心を抱きつつも、既婚の身でもあるので慎重に行動していた菊村に対し、直美はメチャクチャ積極的だった。

せっかく別々の部屋を取ったのに「ひとりで寝るの、怖いんです。こっちの部屋で寝ちゃいけませんか?」とグイグイ迫ってくる。しかし、

「一緒に寝はしたが、何もしなかった。彼女のひたむきさがただ怖かったのだ」

結局、ふたりの関係は肉体関係のないまま終わってしまったようだが、この夜はまさに漫画『やれたかも委員会』における「やれたかも」な夜だ。


あの時、グイグイ迫ってきた直美を受け入れていれば……。

津波で祖母の直美とともに流された時に、祖母の手を離してしまった、というアザミの思い出を元にした脚本『手を離したのは私』になぞらえて、

「必死に握ってくる彼女の手を離してしまったのは私の方だった」

と思う菊村。……イヤイヤ、津波の中での命がけの状況と、「やれたかも」を一緒にするんじゃないよ!

狂った! 菊村が狂った!


一方、アザミも、あの時の直美のようにグイグイ老人を誘惑してくる。

混浴温泉にアザミが先に入っていることに気づいた菊村に対し、満面の笑みで「私、大丈夫ですから遠慮しないで先生も入ってください!」。……そんなこと言う若い娘、いるか!?

菊村の脳内に響く「プレイバック part2」。

「アザミの身体から、風呂上がりの女の若い香りがにおい立った」

直美と「やれなかった」あの夜を、直美とそっくりなアザミとプレイバックという意味なのか? ここら辺から酒がガンガンに進んで、菊村は完全にクレイジー状態に。


「まだ書けるんだよ、でも本当に書きたいものはさ、ないんだよ。視聴率なんてものはね、考えちゃダメなんだよ。あんなものはね、猫の屁だよ!」

愚痴る、笑う、窓からションベンしようとする、踊る、ゲロを吐く……思いつく限りの醜態をさらす菊村。

「やれるかも」な期待感が強すぎて酒を飲み過ぎ、取り返しがつかないくらい大失敗してしまった経験、男だったら一度や二度あるんじゃないかと思うが(あるでしょ!?)、その夜を強烈にフラッシュバックしてしまうような、おじいちゃん(菊村)の姿は見ていていたたまれなかった!

挙げ句、(おそらく)夢の中で隣に寝ているアザミにこっそりキスをしようとする菊村。それを律子と直美にのぞかれて、ハッと目覚めると布団にひとり。

し……死にたい朝!

色々やってきた『やすらぎの郷』だが、結局どこに着陸するのかと思っていたら、最終回直前がコレかよ!?

律子が死んで以降、脚本を書いていなかった菊村が、何だかんだあって再び脚本を書く……的なキレイな終わりを予想していたのだが、この調子じゃ書きそうもないし。


とにかく、このメチャクチャな状態から、あと1話(実質2話)でどうまとめるのか……みんなで見届けましょう。
(イラストと文/北村ヂン)

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