10月4日、日本テレビで『奥様は、取り扱い注意』がスタートした。この新ドラマの内容について、同作ホームページでは以下のように解説されている。


「伊佐山菜美(綾瀬はるか)は、ひとも羨むちょっとセレブな専業主婦。ワケありの人生をやり直して穏やかな人生を手に入れるため、合コンでゲットした旦那と結婚し、閑静な高級住宅地に引っ越してきた。
しかし暮らし始めて1年と経たないうちに、彼女は気づいてしまう。幸せに見える主婦たちが抱えるさまざまなトラブルに……
実は菜美、料理も掃除も超苦手だけど、正義感が超強く、怒らせたら超凶暴! 世の中のルールなんてお構いなしに、危ない場所へ突入していく!
そのワケは夫にも内緒の過去にある。天涯孤独に生まれ育った菜美は、スリルあふれる生活にヤミツキで、愛情も知らずに生きてきたのだった」
「奥様は、取り扱い注意」の綾瀬はるかは、クラーク・ケントや只野仁のようなヒーロ像と似ているようで違う
イラスト/Morimori no moRi

綾瀬はるかと遠藤憲一がだぶる


第1話が始まるや、早速、主人公・伊佐山菜美によるモノローグが展開された。
生まれてすぐに捨てられてしまった菜美は、ある国家の情報機関に雇われた特殊工作員として生きていくこととなった。
ある日、中国の某所で囚われの身となるも、見事な武術で任務遂行に成功した菜美。
そのまま某所から脱出せんと走り行く彼女を追っ手が阻むも、「私のいるこの荒んだ世界にお別れしよう」と決意した菜美は、自ら川に身を投げてしまう。
「私は死ぬことにした」(菜美)
いや、本当に死ぬわけではない。今までをリセットし、新たな人生を送ろうと考えたのだ。その後、彼女は日本で一流商社の受付嬢となる。

この設定から、すぐにある作品を私は連想する。殺し屋稼業にうんざりし、人生をやり直さんと秘境の温泉宿の従業員募集広告に応募した『湯けむりスナイパー』(テレビ東京)の源さん(遠藤憲一)を思い浮かべたのだ。

とは言っても、殺し屋時代を忘れようと努力する源さんと菜美には明確な違いがある。IT企業の経営者・伊佐山勇輝(西島秀俊)と結婚して幸せをゲットしたはずなのに、冒頭で菜美はいきなり「半年後、私は主婦業に飽きてしまった」と告白している。一切の過去を清算せんと日々を生きる源さんと、スリルあふれる生活にヤミツキの菜美は明らかに異なる。設定に共通点は多いものの、主人公のパーソナリティに違いがあるといったところか。

第1話あらすじ


近所に住む主婦・大原優里(広末涼子)と佐藤京子(本田翼)の2人と昼食を共にした菜美。この時、菜美の料理下手を知ることとなった優里は「料理下手は夫の浮気の確率が高くなる」とアドバイス。そして3人は、駅前の料理教室を受講することにした。

この教室で出会った知花(倉科カナ)がDVを受けていることに気付いた菜美は、「私が助けてあげようか?」と申し出る。高校時代に夫と知り合い、そのまま結婚した知花は精神的にも経済的にも夫に依存し切っている。「私はこの人がいないと生きていけない」と、信じるようになってしまっていたのだ。
結婚3年目の頃から、夫のDVが始まった知花。彼女の結婚生活は、今年で6年目だ。菜美らに相談し、ついにDV夫へ別れを切り出した知花であったが、なんとその直後、彼女は夫に包丁で刺されてしまった。


それを知った菜美は、単身でDV夫へ直談判。特殊工作員の過去を持つ彼女はボクシング経験者のDV夫を力づくで制裁し、離婚と慰謝料として持ち家の譲渡を約束させる。
知花宅を出た菜美は、笑顔で「気持ちよかったぁ~!」と一言。やはり彼女、スリルにヤミツキになっているよう……。

生きづらい現代に奮闘する女性を描くなら、より掘り下げるべき


ややもすると、仮の姿で正体を隠しつつ世直しするクラーク・ケント(『スーパーマン』)や只野仁(『特命係長 只野仁』)を連想しがちだが、今作はちょっとだけ違う。堅気じゃなかった頃の自分を捨て、一般的な主婦像を目指している菜美。
クラーク・ケントや只野仁は普段の生活が“建前”だが、菜美にとって主婦生活は“本命”なのだ。目指しているベクトルが違う。菜美は、過去の自分が隠しきれないだけなのだ。

『奥様は、取り扱い注意』プロモーションのため、ドラマ放送直前、日テレの情報番組に出ずっぱりだった綾瀬はるか。その際、彼女は「クランクインの3ヶ月前から、接近戦で危険なカリシラットという武術を練習しました」と明かしている。ということは何か事件があるたびに、菜美はアクションでそれらのトラブルを解決していくのでしょう、きっと。


そういえば第1話の終盤、菜美によるこんなセリフがありました。
「学生、OL、主婦、女……、わかりやすいレッテルは私たちを狭い檻に閉じ込めてしまう。時にはその檻から飛び出して、自由に動いてみればいい。そうすれば、自分が本当に求めていたものに気付くだろう」

現代を生きる女性へ愛と勇気を送ることが、このドラマのねらい。しかし、「DVを振るう夫に苦しむ妻」がステレオタイプに描写され、それをアクションで解決するという今回の展開に関しては「ちょっと大味だなぁ……」という印象。
男女を安易な対立関係に仕立て、その解決法がいつもアクションだったならば、観てる側としては「どうしたものか……」とモヤモヤしてしまう。その辺も意識しつつ、次回以降もこのドラマを鑑賞していきたいと思います。

あと、実生活で仲里依紗と結婚し、このドラマでは本田翼の夫役を演じる中尾明慶ってどれだけ恵まれているのだろうか? 控えめに言って、うらやましすぎます。
(寺西ジャジューカ イラスト/Morimori no moRi