帯ドラマ劇場『トットちゃん!』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)第10週。

放送開始前から、今回のドラマの売りとしてさんざん煽られていた「はじめて明かされる国境を越えた恋」がいよいよ描かれたのだが……。

「トットちゃん!」第10週。向田邦子が亡くなったと思ったら幻で登場…と思いきや生きてた、ややこしい
イラスト/北村ヂン

この恋愛エピソード、必要か!?


そもそも、トットちゃん(清野菜名)はともなく、黒柳徹子の恋愛に興味がある人がどの程度いるのかという問題はあるものの、番宣などであれだけ煽りまくっていたので、よっぽどすごい知られざるエピソードがあるんだろうと思っていたんだけど……。

心の中のハードルが上がり過ぎていたせいもあるが、わりとどーでもいい恋愛話でした。

・カレー屋で食べ残しのナンをもらうもらわないで揉めるというオモシロ出会い。

・仕事が押したせいで、会う約束をしていた空港に間に合わない。

・もう会えないかと思っていたら留学先のニューヨーク・セントラルパークで偶然に再会。

・翌日「また会いたい」とか思いながらセントラルパークに走って行ったらまたまた再会。

・「一緒にパリに行こう」とプロポーズされるも、仕事と恋愛の間で悩んで別れを決意。


ラブコメのプロットだとしたら、お手本のようなよく出来た話なのだが、よく出来ているだけに嘘くさい。

先週の沢村貞子(浅野ゆう子)や、今週の向田邦子(山田真歩)との、血の通った生々しい交流エピソードと比べちゃうと、なんという絵空事感。童貞が見栄を張って語るウソ彼女話っぽいのだ。

トーク番組でリアル・徹子が、このエピソードのモデルとなったと思われる恋愛について語っているのを見たことがあるので、一応、実際にあったことを元にしているのだと信じたいところだが、相手の情報をぼやかしまくっているため(誰だよ、カール・祐介・ケルナーって!)、ここだけ非常にファンタジー感あふれるエピソードになってしまっていた。

カール・祐介・ケルナー役の城田優の役作りのせいか、イマイチこの男の魅力が伝わってこなくて、ただ単にスカしてい男にしか見えなかったのも問題だ。

「どーして周りにいっぱい(渥美清とか坂本九とか永六輔とか)魅力的な人たちがいるのに、こんな男に惚れちゃうんだトットちゃん! やっぱ顔か、顔なのか!?」

と、どーしても思ってしまう。


うーん、この恋愛エピソード、必要だったのかな?

60歳超えてからブロードウェイ・ミュージカルに挑戦って!


ニューヨークのセントラルパークでは、終戦直後に失踪して以来、消息が分からなかった「乃木坂上倶楽部」の住人・ダニー市川(新納慎也)との再会もあった。

こちらも、セントラルパークでボーッとしていたらそこにダニーさんが偶然通りがかるというパターン。どんなミラクルパワースポットなんだ、セントラルパークって。

久々に登場したダニーさんは、諸星和己のできそこないみたいな髪型になっており、ミュージカル俳優として下積み中とのこと。

しかし、トットちゃんが留学した1971年の段階で父親・黒柳守綱は63歳。ダニーさんもおそらく同年代だと思われるが、60代でブロードウェイ・ミュージカルに挑戦って、いっくらなんでも遅すぎるだろう!

このドラマ、リアル・徹子の著書などで語られている、実在の有名人たちとのエピソードはすごくリアルで面白いんだけど、カール・祐介・ケルナーをはじめ、ドラマ上、創作されたと思われる人たちとのエピソードがイマイチ上手くいっていない。

「乃木坂上倶楽部」の面々も、それぞれいいキャラクターではあるものの、彼らの恋愛模様には誰も興味がないだろうし、朝さん(松下奈緒)のおばさん・えつ(八木亜希子)が結婚するのしないのって、もう勝手にしてくれという感じだ。


有名人ばかりが登場する芸能界ドラマにしたくないという思いがあるのかも知れないが、久松(三宅健)とシャープさん(趣里)の恋愛話に時間を取られるくらいなら、もっと有名人たちとのいいエピソードを見せて欲しい……。

ドラマ内時間を把握しながら見ないと混乱します


今週は、トットちゃんと向田邦子との出会い〜別れも描かれていた。

色んなところでちょくちょく語られている鉄板エピソードなので、さすがにグイグイ引き込まれてしまったのだが、ドラマの構成がややこしかった。

向田邦子と出会ったと思ったら、カール・祐介・ケルナーとも出会い、向田との交流、ケルナーとの交流が交互に描かれている……と思ったら、いきなり向田パートの時間が進みまくって、1981年の航空機事故での死までを描き、それから時間が巻き戻って、再びケルナーとの恋愛話が……。

先週も、沢村貞子の死(1996年)まで描いてから「時計を1961年に巻き戻して……」という衝撃的な演出をしていたが、あの手法を繰り返し使うとは。

ニューヨークへの留学中、ケルナーとパリに行くか、仕事を取るかで悩んでいたトットちゃんの元に、朝さんや向田邦子、渥美清、シャープさんの幻が次々に現れるというなかなか奇怪なシーンがあったのだが(金曜日に放送)、水曜日の放送で向田邦子の死が描かれたばかりだったので「死者の霊が集まって来たんだ!」と思ってしまった。


よく考えてみれば、ドラマ内時間が巻き戻っているので、あの段階では向田邦子も渥美清もまだ生きてるんだよね。ややこしい!

昨年放送されたNHKのドラマ『トットてれび』でも、向田邦子との交流から死までを描いてから時間が戻って、渥美清との思い出〜死まで、再び時間が戻って森繁久彌との思い出……というややこしい構成ではあったものの、1話でひとりの人生を描いていたので、見ていて混乱することはなかった。

しかし『トットちゃん!』では、1週間の途中どころか、1話の途中で時間が戻ったりするので、ちょっとトイレにでも行っている間に、時間が数十年単位で巻き戻っていたりして、しかも出演者たちのルックスは大して変わっていないので、メチャクチャ混乱すると思う……。

『徹子の部屋』で数々の有名人たちの死を看取ってきた(?)芸能界のおくりびと・黒柳徹子だけに、それぞれの友人たちとの死別まで描いて欲しいという意向があったのかも知れないが、もう少し視聴者の脳に負担の少ない構成にしてもらいたかった。

おそらく本来は、1週間単位で区切って向田邦子や沢村貞子とのエピソードを描きたかったものの、1クールのみの放送というのがネックになっているんだろうけど。
(イラストと文/北村ヂン)

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