吉岡里帆主演の火曜ドラマ『きみが心に棲みついた』がスタートした。キャッチフレーズは「2人の男性の間で揺れ動く、一筋縄ではいかない三角関係ラブストーリー」。
事前情報を一切知らなかった人は、予告で流れていた吉岡の「キョドコって呼ばれてました~(鼻に指を突っ込むポーズ)」などの振る舞いを見て「ちょっと痛い感じのラブコメかな?」と思ったかもしれないが、とんでもない。もう一度言うが、とんでもない。
「きみが心に棲みついた」1話「ありのままの自分」の毒。三角関係恋愛ドラマかと構えていたら危険だぞ
「FEEL YOUNG」2018年 2月号

ネジネジは今日子をつなぐ首輪


メインの登場人物は3人。主人公の小川今日子(吉岡)は、自己評価が異様に低く、自分にまったく自信が持てないという女性。ついたあだ名は「キョドコ」。実は幼少期から親に愛されたことがなく、子どもの頃も周囲からいじめに遭っていた。学生時代に出会い、生まれて初めて自分を受け入れてくれた星名(向井理)に依存するが、いつしか暴力的な振る舞いと冷酷な指示によって支配されるようになる。
現在は下着メーカーに勤務中。仕事への情熱は人一倍で、周囲に才能も認められている。演じる吉岡は今日子のことを「女の子としての弱さと強さ、両面が表に出ている子」と表現している。いつも身につけているネジネジ(原作では「中尾巻き」)は星名に与えられたものだ。

今日子が好意を寄せるのは、マンガ編集者・吉崎幸次郎(桐谷健太)。合コンで初対面だった今日子に厳しい言葉を投げつけるが、いきなり帰り道で今日子に告白されて困惑する。
編集者としては有能で、担当する作家・スズキ次郎(ムロツヨシ)にも信頼されている模様。売れっ子ライトノベル作家・成川映美(中村アン)と付き合っていた過去がある。

そして、問題の人物・星名漣(向井理)。今日子の大学時代の先輩で、忘れられない男。スマートで穏やかな物腰だが、残忍で冷酷な裏の顔を持つ。商社からの今日子が勤める下着会社に出向でやってくるが、それは彼が巧みに人に付け込み、支配する力に長けているからだ。
大学時代に支配していた今日子と偶然再会し、再び今日子に付きまとうようになる。

原作は天堂きりん『きみが心に棲みついた』『きみが心に棲みついたS』。同作品が連載されている『FELL YOUNG』2月号の表紙を見て、ギャッとなった。主演の3人が登場しているタイアップ表紙なのだが、今日子の首にかかっているネジネジを、星名がしっかりと握ってる! まるで首輪とリードのようだ。今日子の体は反対側にいる吉崎のほうを向いており、吉崎の背中を指でつまんでいるのだが、なんとも頼りない。3人の関係性が一発でわかる秀逸な表紙だった。


鎖でつながれた2人の楽園


ドラマのトーンは明るい。笑いもあるし、モテない漫画家を演じるムロツヨシや今日子のことを気にかける上司・堀田役の瀬戸朝香の存在が救いになっている部分もある。これは「可愛らしい絵柄でエグいことを描く」原作マンガのトーンを活かしているのだろう。

しかし、それにしても星名の行動がひどい。命令に背いた今日子を会社の中で押し倒して暴言を吐くシーンがあるが、これだけでも明確な暴力だ。恥辱を強いる強制ストリップのシーンも常軌を逸している。ネット上にも「向井理のことが嫌いになった」という声が溢れかえった。
俳優・向井理の新境地だと思う。

だが、それでも今日子は星名を受け入れてしまう。逃げようとしても簡単に支配されてしまう。星名から非通知でかかってくる電話を拒絶するには、いちいち番号を変えなくても設定を変えるだけでいい。これは彼女の無知というより、無意識のうちに星名を拒絶することを後回しにしていたんじゃないかとも思える。星名への依存はまだまだ続いていたのだ。
MONDO GROSSOがBiSHのアイナ・ジ・エンドをフィーチャーして話題になった挿入歌「偽りのシンパシー」には、「鎖でつながれた2人の楽園」という歌詞がある。「2人の楽園」というフレーズの意味は重い。星名には今日子に執着する理由があり、今日子には星名に依存する理由がある。楽園は2人のためのものなのだ。

「ありのままの自分」を問い直す


「キョドコはそのまま。ありのままの自分でいいんだよ」(星名)
「生まれて初めて、ありのままの私を受け入れてくれた人は、私をひどく傷つける人だった」(今日子)
「誰でもいいんですよ! ありのままの私とちゃーんと恋愛してくれる人なら誰でも!」(今日子)
「ありのままの自分を受け入れろ、って傲慢だし。ありのままの自分って、努力したくない、変わる気がないって言ってるようなもんでしょ」(星名)

ドラマの冒頭から「ありのまま」というフレーズが繰り返される。2014年に日本でも大ヒットして社会現象となった『アナと雪の女王』の主題歌「レット・イット・ゴー:ありのままで」を思い出した人も多いと思う。ちなみに原作には「ありのままの自分」というフレーズは出てこない(『きみが心に棲みついた』が連載されていたのは2011年から2013年にかけて)。このあたりは脚本の吉澤智子によるアレンジだろう。

「ありのままの自分」という言葉については『アナ雪』公開当時からさまざまな議論が交わされてきた。「ありのままの自分」を認める星名は今日子をひどい目に遭わせ、「ありのままの自分」を否定する吉崎は誠実な男として描かれる。

「子どものことの傷ついた心(インナーチャイルド)を持った人の中には、自信を失っている人がいます。ありのままの自分を隠し、必死になって周囲からの高評価を得続けようともがいている人もいます(中略)。
本当は、周囲からのいい加減な評価など、気にしなくてもいいのですが(大切な人から認められてさえいれば)」

これは社会心理学者、碓井真史による「『アナと雪の女王』主題歌「レット・イット・ゴー:ありのままで」の歌詞を心理学で解説:その意味は?」からの抜粋である。今日子も子どもの頃に傷つき、自分を隠して周囲からの高評価を得続けようともがいている。自分で自信を取り戻すことができればいいのだが、「大切な人から認められてさえいれば」、ありのままの自分でいられることができる。だが、「大切な人」選びをしくじってしまうととんでもないことになってしまう。そこで起こる現象が依存だ。

『きみが心に棲みついた』は、恋愛はベースにしながら、仕事に関してもウェイトを割いて描かれることになる。今日子が仕事で自信を取り戻すことができればいいのだが……そこにも星名がいるんですな。まさに一筋縄ではいかないお話だ。

第2話の予告では星名からの「卒業」を宣言したのもつかの間、泣きながら星名を追いかける今日子の姿が映し出されていた。今日子を助け出すのは、吉崎か、同僚たちか、自分自身か。本日10時から。
(大山くまお)