吉高由里子が新米検事の奮闘ぶりを熱演している日本テレビの水曜ドラマ「正義のセ」(夜10時~)。第3話までは、吉高演じる竹村凛々子は常に被害者側に同情を寄せ、被疑者を起訴することに全力をあげてきた(検事は被害者にも被疑者にもよけいな感情を抱いてはいけないと、担当事務官の相原〈安田顕〉からずっと釘を刺されているにもかかわらず)。
しかし先週放送の第4話では、彼女は初めて被疑者を裁判にかけるべきか否かで悩むことになる。
吉高由里子「正義のセ」目撃者が鉄道研究会だったことに安田顕が食いつく4話
イラスト/まつもとりえこ

被害者と被疑者のあいだで揺れ動く凛々子


第4話で凛々子が取り組んだ案件は、交通事故。せんべい屋の夫婦が朝、散歩していたところ、夫の佐藤忠徳(久保晶)が横断歩道でスクーターにはねられ、死亡したのだ。

さっそく凛々子と担当事務官の相原(安田顕)が被害者の妻・佐藤フネ(茅島成美)に話を聞きに行くと、フネは相手の信号無視による事故だと、「厳しい罰を与えてほしい」と訴える。

凛々子はこれを受けて、スクーターを運転していた勝村弘(白洲迅)という被疑者を呼び出し取調べを行なう。勝村はレストランの見習いシェフで、いつもは電車で通勤しているが、その日は遅刻しそうだったのでスクーターで出勤、急いでいたうえに乗り慣れておらず、朝日の逆光で信号が見えなかったためはねてしまったらしい。だが、容疑を全面的に認めつつも、彼の供述はどうもあいまいだ。


その後、凛々子は相原を従え、勝村の職場で上司(菊池均也)から話を訊いたり、逆光による幻惑が被疑者に起こったのかどうか確かめるため早朝に事故現場で検証したり、通りかかった人のなかに目撃者がいないか聞き込みを行なったりする。

上司によれば、勝村は真面目な青年で、事故当日は人手が足りないところを、無理を言ってシフトに入ってもらっていたという。勝村に対し責任を感じている上司と、彼がフネのもとへ何度も謝罪に行っていることを知る同僚たちは凛々子に「罪を軽くしてやってほしい」と懇願する。

事故現場では、ジャージを着た大学生が事故を目撃していたとの情報を得て、凛々子たちはさっそくその大学に赴き目撃者を探し出す。その証言によれば、事故が起きたとき歩行者側の信号は赤だったという。しかしフネを地検に呼んであらためて話を訊くと、信号は青だったと頑なに認めない。


調べるうちに被疑者の勝村にも事情があり、フネに対しても誠意に対応しようとしていることを知った。さらにフネのほうがどうもウソをついているらしいとわかり、心が揺れ動く――。

キーワードは「店」?


今回の話からあえてキーワードをあげるなら、「店」になるだろうか。せんべい屋である被害者に対し、加害者である勝村はいつか自分の店を持ちたいと修業に励んでいた。そして、そんな二人のあいだで揺れ動く凛々子は豆腐屋の娘である。

フネは夫を亡くして以来、せんべい屋を開けなくなり、食事もろくにとっていなかった。そんなフネに実家の豆腐を食べてもらおうと、凛々子は彼女を地検に呼び出した翌日ふたたび訪ねる。
互いに検事と被害者という立場を一時忘れて話をするうち、凛々子の父・浩市(生瀬勝久)も、せんべい屋の夫も、職人かたぎなところは同じだと盛り上がった。

このとき、心臓に持病を抱えるフネが突然胸を押さえたので、凛々子はその背中をさすって介抱する。そこでフネは事故当日も、やはり胸が苦しくなっていたところ勝村から背中をさすってもらったことを思い出す。さらに凛々子が帰ったあと、事故のあった交差点に行くと、そこで勝村が献花しているのを目にする。

翌日、地検へフネから凛々子宛てに手紙が届けられる。そこには事故当日、実際に現場で起こったことがつづられていた。
じつは夫は青信号が点滅していたところを渡ったものの、フネが反対側の歩道でしゃがみこんでいるのに気づくや、すでに信号が赤に変わっていたにもかかわらず引き返して事故に遭ったのだった。勝村は自ら救急車を呼び、待つあいだ夫とフネ双方に介抱を続けていたという。フネは真相を明かしたうえ、彼に重い罰を与えないよう頼みこむ。フネの訴えを一転させたのは、凛々子の「加害者にも人生がある」との言葉と、そして何より罪を償おうとする勝村の態度だった。

勝村の処分に悩みに悩んでいた凛々子だが、フネの嘆願書を受けて、公判請求ではなく略式請求・罰金刑とする決断を下す。こうして今回も一件落着となった。


凛々子、事件に立ち会う(ただし脳内で)


「正義のセ」では毎回クライマックスで、事件の起こったときの様子が、凛々子があたかも現場に立ち会っているかのように再現される。そこで最初モノクロだった事件の当事者たちが、やがてカラーとなって鮮明に浮かび上がるという演出は、彼女の脳内で謎が解けていく過程を表しているのだろう。

先日、ある番組に出演した通訳の女性が、外国人相手に通訳する場合、日本語で話されたことを機械的に直訳するのではなく、いったん頭のなかで映像に置き換えて、その情景を英語で説明しているのだと語っていた(テレビ朝日「激レアさんを連れてきた。」5月7日放送分)。凛々子もそれと同じで、結論を出すにあたり、一度あらためて事件を映像に置き換えるタイプのようだ。

鉄道研究会登場に思わず食いつく相原


第4話でおかしかったのは、事故を目撃した学生を大学構内で凛々子と相原が見つけ出したシーンだ。目撃者はジャージを着てジョギングしていたというので、てっきり体育会系かと思いきや、鉄道研究会の学生(前原滉)だった。このとき「鉄道乗ったり写真撮ったりするのもけっこう体力勝負なんで、朝よく走ってるんです」と説明した学生に、相原が思わず食いつく。
そう、前回の第3話で、相原が休日に鉄道グッズを抱える姿からそれとなくほのめかされていたとおり、彼もまた鉄ちゃんなのだった。「目撃者は鉄道研究会」という意表を突く展開には、相原のそんなキャラが生かされている。いずれ、彼が時刻表トリックを見破って事件解決! なんてこともあるのだろうか。

さて、プライベートでは前回から失恋を引きずる凛々子に対し、第4話のラストでは妹の温子(広瀬アリス)が唐突に婚約者を紹介し、家族を驚かせた。すでに温子は豆腐屋を継ぐことが決まっているだけに、その結婚をめぐって竹村家にまたひと波乱起きそうな気配である。今夜放送の第5話の予告では、凛々子が先輩検事の大塚(三浦翔平)にキスするカットもあったようだが、こちらも気になるところ。
(近藤正高)

※「正義のセ」はhuluで全話配信中。また最新回はTVerなどで無料配信されている(第4話の無料配信は5月9日21時59分まで)

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