綾子「今日、私は家を出ます。もう自分を抑えることができないのです。私は、秀明さんが好きなのです。まるで高校生のように、その感情だけが私を動かしています」

5月18日(金)放送の金曜ドラマあなたには帰る家がある(TBS系列)6話。
1話から見てきて「これは綾子(木村多江)が秀明(玉木宏)を奪うための作戦なのかな」と思う場面が何度もあった。真弓(中谷美紀)の職場にメンチカツを差し入れたこともそうだし、佐藤家のバーベキューに茄子田家が参加したことも。

しかし、それらもすべて綾子が感情に突き動かされ行動した結果だったということだ。
用意周到な寝取り作戦と、感情に従って後先考えない規格外の行動。守るべきものがある真弓にとっては、防波堤をつくる暇も与えてもらえない後者のほうがとんでもない脅威だ。
「あなたには帰る家がある」6話。不倫するドラマは恋愛ドラマだが、不倫されるドラマは家族ドラマなのだ
イラスト/Morimori no moRi

綾子が秀明に固執する理由


綾子は、ついに真弓と秀明の娘・麗奈(桜田ひより)に接触。2人でパンケーキを食べに行った。
秀明と愛し合っていることを信じている綾子にとっては、麗奈は自分の娘同然。親しくなって真弓の悪口でも吹き込もうなどという作戦ではないはず。いずれ自分の娘になるのだから仲良くしたい、と思ってのことだろう。

それを知った真弓が茄子田家に抗議に出かけるも、綾子は不在。茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)と、浮気された者同士で話をする。
同じ頃、秀明は綾子に「愛していない」「別れてくれ」と告げる。しかし、それがきっかけとなり、綾子が佐藤家に乗り込んでくる事態になってしまった。

「秀明さん、私たち愛し合っているのよね」と声を震わせる綾子の顔を掴み、真弓は「外でやれ。そういうことは外でやれ!」と叱りつける。
真弓の言う「外」とは、ただの屋外という意味ではない。秀明と真弓と麗奈の3人が、毎日寝て起きてご飯を食べ、会社や学校に出かける「家」の中に、それを踏みにじる要素を持ち込むなということだ。

真弓にとって家とは、家族が暮らす場所のこと。麗奈のため、家族のために守るべき場所。
綾子にとって家とは、自分が茄子田に閉じ込められた場所。それを恨んでいたわけではないようだが、秀明という外の世界を知ってしまった以上、戻れなくなった。

綾子「指がね」
茄子田「指?」
綾子「きれいだなって思ったの、最初は。あの人の細い指が。次は優しい声、優しい言葉。男の人なのに、とっても良い匂いがして」

なぜ綾子がここまで秀明に入れ込んでいるのか、ずっと不思議に思っていた。指が細くて声や言葉が優しく、良い匂いがする男性なんて、世の中にたくさんいる。秀明じゃなくたって良い(ところで、既婚の男性から良い匂いがするのは妻の家事のおかげであることが多い)。

それでも秀明に執着するのは、茄子田によって閉ざされた家の中で綾子が最初に触れたロマンスだったからだ。それを愛だと思っていた茄子田。その反動で綾子が外の刺激にズブズブとはまっていってしまった。茄子田の絶望感はどれほどだろう。
いまや悲しきモンスターと化した茄子田夫婦にも、そこに至るまでの理由がある。

「本音で話す」のその先とは


「本音で話し合いましょう」「コミュニケーションを取りましょう」。夫婦円満ためのHOW TO記事などで、よく見かけるアドバイスだ。しかし、佐藤家も茄子田家も、本音で話し合った結果、妻から別れを言い渡された。

夫である秀明も茄子田も、やっと本音を言うことができた。弱い部分を妻に見せた。それに対する真弓の「もう、遅い。もう無理」という言葉が重い。夫が気付いたときには妻の心は限界で、沸騰し過ぎた鍋の蓋から漏れる蒸気のように悲鳴を上げている。

真弓「13年も経ったらさ、空気だし、いまさら男でも女でもないし、これでもしパパが浮気してもなんてことないかなって思ってたけど、そうじゃなかった。全然そうじゃなかった。ショックだった。悔しいけど、ああ、私って自分で思ってたよりずっとパパのこと好きだったんだなって。だから、パパ、私傷付いたよ。すっごく傷付いた」

この真弓の「傷付いた」の言い方のか弱さ、守ってあげたさといったらない。
巷にあふれる女性向けの恋愛指南書には、男性に浮気されたときには怒って責めてはいけないとよく書いてある。そして取り乱さず、涙をこぼして「私、悲しかったよ」「傷付いたよ」と自分の気持ちを伝えると、男性が反発せず罪悪感を持ってくれると教えているものもある。

それに沿えば、今回の真弓の「パパ、私傷付いたよ。すっごく傷付いた」は100点満点だ。秀明にもしっかりと響いていた。おずおずと抱きしめてきた上に「うに丼のお店、また行こう。映画も。『ローマの休日』また見よう」と未来の約束までしてくれた。有事の際にはぜひ真似したい。

不倫するドラマは恋愛ドラマだが、不倫されるドラマは家族ドラマだ。
人間関係修復において大切と言われる「本音で話し合う」では丸く収まらなかった。本音の先でいったい何を乗り越えれば家族は幸せになれるのか。あるいは、家族はもう幸せにはなれないのか。

予告動画で「新章スタート」と銘打たれた7話は、今夜10時から放送予定だ。
放送中は、いつも原作者の山本文緒(@fumiyama55)が実況ツイートをしている。原作者の気になるポイントをチェックしながらの視聴も楽しい。

(むらたえりか)

【配信サイト】
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金曜ドラマあなたには帰る家がある(TBS系列)
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫)
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
演出:平野俊一、吉田健、松田礼人
編成:高橋正尚
音楽:兼松衆
主題歌:Superfly「Fall」(ワーナーミュージック・ジャパン)