森永「あんた、何やってんの。浮気も離婚も流されるままで、仕事だってそう。
いままで1回でも自分で動いたことあんの? だから奥さんに捨てられるんだよ! 調子に乗ってんじゃねーよ、おっさん!」

5月18日(金)放送の金曜ドラマあなたには帰る家がある(TBS系列)6話。
真弓(中谷美紀)に離婚を突き付けられた秀明(玉木宏)。事情を知っていて話を聞いてくれる後輩の森永桃(高橋メアリージュン)に甘えてしまうが、あまりの情けなさに叱られる。頼りない秀明をどうにかしようとしれくれるのは、なぜか女性ばかりだなあ。
「あなたには帰る家がある」夫婦は終わってからが面白い。本音露呈で変わる夫婦、変わらない夫婦7話
イラスト/Morimori no moRi

浮気した夫の他責が直らない


真弓「別れようって言ったら、楽になれたの。すっごく」

離婚を決めた真弓の表情は晴れ晴れとしている。これまでは、真弓と秀明が心の中で本音や不満をぶつけあう演出が面白く、共感を集めるのに効いていた。
しかし、別れることにしてから、真弓は本音を直接秀明に言うようになる。
高価な海鮮丼をおごってもらっても「(不倫したときの)鎌倉のホテル代は48,000円だったけどね」と蒸し返す。離婚だって元はと言えば秀明の浮気が原因だ、とはっきりと伝える。

秀明「また責めるわけ? しつこいなあ」
真弓「いまなんて言った? しつこい? はあ、やっぱそんな感じ? 反省したふりして、やっぱその程度? ぶっちゃけるねえ」
秀明「ぶっちゃけるよ。ママがぶっちゃけさせたんだよ!」
真弓「まあ、わかってたけどね。パパ、そういうやつだよねー」

秀明の他責癖が直っていないのが悲しい。
人はすぐには変わらない。自分で変わろうと強く思わない限り変わらない。夫の浮気によって、否が応でも自分が変わらざるを得なくなってしまった真弓と、自分は変わらなくても何とかなるといいなあと思っている秀明の差がつらい。
綾子(木村多江)は秀明のことを「優しいから本音が言えない人」という。でも、秀明の頼りなさは、優しさではなく他責の思考から来ている部分もある。

森永が秀明に投げつけた「調子に乗ってんじゃねーよ、おっさん!」という言葉。

自分に頼ってきておきながら、酩酊状態で真弓の名前を呼んだ失礼な秀明への個人的な怒り。そして、森永にも真弓にも綾子にも“いまのままの自分”を受け入れてもらおうとしている秀明への呆れが入り混じっている。ぶりっ子の森永をここまで怒らせる秀明の情けなさ、相当なものだ。

中年になると、悪いところを指摘してくれる真弓や森永のような他者は少なくなってくる。しょうもない人は受け流され、呆れて静かに離れていかれるだけだから。彼女たちのように、自分のダメさに付き合ってくれる人こそ必要な人だ。


向き合って変わる佐藤家、向き合わず変われない茄子田家


原作者である山本文緒(@fumiyama55)に「茄子坊」と呼ばれている茄子田(ユースケ・サンタマリア)。愛されている。
その茄子坊と真弓が、またスナックで会っていた。茄子田は、外で働いている真弓に、外で働く男の大変さをわかっていないと説教する。的外れの空振りで虚しい。

真弓「奥さんに感謝してます? どうせ奥さんにもそんなようなこと言ってたんでしょう。
家を建てて“やってる”とか、食わせて“やってる”とか。それじゃあ出ていかれますよ」
茄子田「え?」

こういうとき「なんだと!?」と怒らないのが茄子田らしい。「え?」と、静かに驚く。妻に感謝するなんて、思ってもみなかった新事実なのだ。
女たちに総出でやいのやいのと言ってもらっている秀明とは対照的。誰も、茄子田に妻や女性との付き合い方を教えてこなかった。


今回、初めて綾子の心の声が登場した。茄子田と離婚について話しているときだ。

茄子田「なら、金を払え」
綾子「慰謝料ならお支払いします」
茄子田「結婚してからお前にかかった金、全部返せ」
綾子「(言うと思った……)おいくらですか」
茄子田「そんなもの、自分で計算しろ」
綾子「お金は少しずつ返します。慎吾は連れていきます」
茄子田「慎吾は絶対に渡さん」
綾子「(言うと思った……)」

綾子は、心の中で「言うと思った」と繰り返す。これまで、心の声で言い合っていたのは真弓と秀明だった。離婚を決めて本音を言い合えるようになった佐藤家とは、またしても対照的。
綾子は、茄子田に本音を言わない。また、ダメな秀明のことも叱らない。それは、相手を愛して受け入れているからではなく、自分しか愛していないため相手のことはどうでもいいからだ。

秀明は、真弓や森永の影響で変わるかもしれない。茄子田も、真弓に言われたことを自分で考え、もしかしたら変わるかもしれない。じゃあ、綾子は誰によって変わることができるのだろう。

真弓「でも、終わったからはじまる気持ちもある。夫婦は、終わってからが面白い」

そうだとすれば、ちゃんと終わることができていない茄子田家は、新しくはじまることもできない。モンスター夫婦だと笑ったり怖がったりして見てきたけれど、誰からも見放された2人なのだと思うと少し悲しい。

さて、離婚して夫婦はひと段落しても、周りへの影響はとめられない。親の離婚について学校で言いふらされた麗奈(桜田ひより)。真弓だけで、傷付いた麗奈を守ることができるか。
第8話は、今夜10時から放送予定。

(むらたえりか)

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金曜ドラマあなたには帰る家がある(TBS系列)
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫)
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
演出:平野俊一、吉田健、松田礼人
編成:高橋正尚
音楽:兼松衆
主題歌:Superfly「Fall」(ワーナーミュージック・ジャパン)