「じゃあ 何が嘘だ!? えっ? 何が本当なんだ~!?」

そんな叫び声とともに、長澤まさみ主演、古沢良太脚本の『コンフィデンスマンJP』が最終回を迎えた。ツイッターのタイムラインは「すっかり騙された!」「最っ高!」「終わり方に鳥肌」など、絶賛の嵐! いったい何が起こったのか? あらためて振り返ってみよう。

最終回「コンフィデンスマンJP」ラスト10分の奇跡、時系列ドンデン返し決まった
イラスト/まつもとりえこ

ダー子大ピンチ! 本名とプロフィールが明らかに!?


コンフィデンスマン(信用詐欺師)のダー子(長澤まさみ)とリチャード(小日向文世)に、ボクちゃん(東出昌大)は足を洗うよう忠告して出ていってしまう。最終回のお話はそれから1年後、引っ越し業の現場でボクちゃんが鉢巻秀男(佐藤隆太)という男と出会うところから始まる。

結婚詐欺師に全財産奪われたという鉢巻に同情したボクちゃんは、ダー子が住んでいるホテルのスイートルームに鉢巻を連れてくるが、これが完全に罠! 本性を表した鉢巻は、屈強な部下たちを使ってダー子、リチャード、ボクちゃんを捕獲する。鉢巻の正体は、麻薬で荒稼ぎする孫秀男という中国マフィアだった。

父・孫秀波(麿赤兒)を騙して15億円を奪った犯人「子犬」を探していた秀男は、ダー子たちに狙いをつけて乗り込んできたのだ。ダー子たちの情報を売ったのは、なんと五十嵐(小手伸也)! しかも、秀男は3人の謎に包まれた過去を徹底的に調べ尽くしてきた……!

リチャードの本名は鎌田潔。元は優秀なセールスマンで、弁当屋で働く妻と娘がいた。
ボクちゃんの本名は西崎直人。彼を「ボクちゃん」と呼んで甘やかし続けてきた母親・信江(戸田菜穂)は詐欺師で、今はスナックを経営している。

そしてダー子の本名は藤沢日奈子。両親に捨てられ、施設に預けられていた日奈子は内向的で大人しい子どもだった。「もっとダダをこねてもいい」と言われたことから「ダー子」というあだ名がついた。施設を飛び出たダー子は偶然、信江と知り合い、詐欺師への道を歩む。


大金を掴んでハイテンションになるヤングダー子の傍らには戸惑いっぱなしのボクちゃんがいた……。なるほど、2人は若い頃から一緒だったのか。第9話でボクちゃんが「お前に振り回されて生きてきたんだよ!」と言っていたのと辻褄が合う! 何度、ボクちゃんが真人間になろとしても、結局ダー子たちのところに戻ってくるのは彼が詐欺師の血を引いているからだという考え方もできる。

親族らを人質にして、父を騙した「子犬」の正体を白状させようとする秀男。拳銃などの武器を持ち、屈強な部下たちを従え、おまけに正体まで把握して人質を取っている。知恵と財力で大掛かりな仕掛けを打ってターゲットを騙してきたダー子たちだが、今回は不意打ちだった。
小手先の騙しのテクニックも通用しない。これまでの9話と違い、演出も演者のテンションもめちゃくちゃシリアスだ。まったく勝ち目ないじゃん……。この窮地、どうやって乗り切るの……? と思っていた視聴者も少なくないはずだ。

3人から有り金すべてを奪った秀男は容赦なく引き金をひく。スイートルームに響き渡る銃声! 床に倒れ伏す3人。
高笑いしながら引き上げる秀男たち。『コンフィデンスマンJP』、これにて一巻の終わり!? 映画版はどうなるの!?

ラスト10分の奇跡!


ダー子は最後に途中まで見ていた映画「名探偵 海老河原の冒険」の犯人が気になるので見ておいてくれと秀男に言い残す。律儀にもリムジンでDVDを再生しはじめると……この時点でドラマはちょうど残り10分。『コンフィデンスマンJP』ラスト10分の奇跡がここから始まる!

秀男は映画の謎解きを見て驚愕する。藤沢日奈子、西崎直人、鎌田清という名前は、すべて映画の犯人たちと同じだった! 映画の中のトリックは、銃をオモチャにすり替え、死体を確認した警官たちも犯人とグルの偽警官だというものだが、秀男の銃も血のりを発射するオモチャにすり替えられていた。おまけに秀男の預金30億円がすべて引き落とされてしまう! あわててホテルに突撃する秀男たちだったが、待ち構えていたのは現場検証している警官たち。偽警官だと思って突撃するが、逆に一網打尽にされてしまう。


「じゃあ 何が嘘だ!? えっ? 何が本当なんだ~!?」という秀男の叫びは視聴者の叫びでもある。

「子犬」の正体はダー子であり、1年前の段階で香港から帰ってきた秀男が「子犬」を探し回っているという情報を掴んでいた。秀男が麻薬で荒稼ぎした分を奪い、組織もつぶして、秀男を牢屋に叩き込む。つまり、最初から秀男はダー子たちのターゲットであり、プロフィールも当然「子猫ちゃん」たちによる全部でっち上げ。五十嵐は二重スパイとして情報を秀男に流していた。ボクちゃんと秀男が接触したのも仕掛けのうち。
さらにダー子は生前の孫秀波から教えられたとおり、秀男から母親の誕生日と以前住んでいた番地を聞き出して銀行口座のパスワードを解読していたのだ。

いつもの部屋で祝杯をあげるダー子たち。すると、ボクちゃんがダブルスパイのことをダー子に尋ねる。ボクちゃんは五十嵐のことを知らない! 取り残されたままだった秀男一味の男が髪をまとめると……バトラー(Michael Keida)に変身! ダー子が次のターゲットとして挙げるのは、ホストクラブ社長の矢代久美子(未唯mie)と中古車チェーン社長の石崎(山西惇)! 矢代と石崎は第1話のアバンタイトルのターゲットだ。つまり、最終回は「エピソード0」だったのだ! これには「時系列」の謎解きが大好きなドラマファンも大喝采である。ボクちゃんが足を洗おうとする回数も最終回と第1話で帳尻をあわせているところがニクい。

脚本の古沢良太は第9話の解説ブログで「今まで見てくださった皆さんへのプレゼントです。見届けてね」と記していたが、まさにこれまで見ていた人にしかわからない粋な「プレゼント」だった。

「虚構(コンフィデンスマン)」VS「現実(ニッポン)」


最終回は前半のタメが効いていた分だけ、ラストのドンデン返しがとりわけ爽快に感じられた。

特に「視聴者も一緒に騙される」という要素は大きい。第3話「美術商編」、第4話「映画マニア編」、第8話「美のカリスマ編」などは、仕掛けのタネが最初から明かされていたため、このようなドンデン返しの爽快感はなかった(ターゲットをやりこめる快感のほうが優先されていた)。考えようによっては最終回の筋立てが一番シンプルだったのだが、古沢良太は「最終話は、いろんなプロットを作ったのですがどれもうまくいかずかなり悩みました」と振り返っている。やはりこのストーリーが一番難しかったのだろう。

ダー子たちはひたすら「偽物」を仕立ててターゲットに売り続けてきた。第3話では「天才画家・山本巌」の作品と生涯、第4話では「マギー・リン主演映画」、第5話では「偽の手術」を売りつけた。最終回では「自分たちの偽のプロフィール」を仕立てたことになる。嘘には真実が含まれているほうが騙しやすいと言っていたので、このプロフィールのどこかも真実なのだろう。また、第7話では「偽の家族」、第9話では「偽のプロバスケチーム」を仕立て上げたが、結果的にある人たちにとって「本物」以上の価値を得ることができた。

「偽物」を売りつけられたターゲットが破綻・破滅することで視聴者はカタルシスを得るはずだが、案外作り手たちは優しく、ターゲットたちは大金を失うものの、代わりに大切なものを得たりしていた(第6話、第7話、第9話など)。そのあたりはもう少し非道に徹しても良かったのかもしれない。逆にダー子たちにケチョンケチョンにやられた代表格が第1話の江口洋介だ。だから一部の視聴者の間では、最終回では江口洋介が復讐にやってくるのではないかという予想が立てられていた。

コンフィデンスマンたちのつくる「偽物」や「虚構」の力で、うさんくさくて人を傷つける日本の「本物」やら「現実」やら「真実」の鼻をあかしつづけた『コンフィデンスマンJP』は、ダー子の次の言葉で締めくくられる。

「目に見えるものが真実とは限らない。何が本当で何が嘘か。この世界は現実なのか? あなたが見ている夢なのか? コンフィデンスマンの世界に、またいつか」

自分の目に見えるものがすべて「真実」で「本物」だと思いこんでいたら、いつか人生を棒に振るような目に遭うかもしれない。気持ちよく騙されていいのはフィクションの世界だけ。このドラマが描いていたのは、とても現代的なテーマだと思う。……それにしても映画版の告知は「本物」なの? 「偽物」なの?
(大山くまお)