“「大規模とは?」
「兵力にして三千万」
「おあおっ」”

というわけで、『銀河英雄伝説 Die Neue These』(→公式)第十話「幕間狂言」。
新装版も刊行開始『銀河英雄伝説 1 黎明篇』(マッグガーデンノベルズ版)。

「銀河英雄伝説」肥大したプライドが大きな言葉を意図せず使わせる「崇高」「大義」「正義」「自由」

「幕間狂言」とは、「劇の幕間に演じられるコミカルな寸劇」のこと。
イゼルローン占拠を成功させてしばしの平和が訪れると思いきや、愚者たちの権謀術数により新たなる進撃が行われるようになった顛末を描く回だ。
会議でおっさんたちがあーだこーだ言ってるエピソードで、画的には地味。
しかも、重要なことは原作では地の文で描かれており、どう省略され、どうアニメ化されるのか心配だった。が、大きな省略はなし。

“勝利とはかくも容易なのだ、勝利の果実とはかくのごとく美味なものだ、と人々は考えてしまった。
皮肉なことに、彼らをそう思わせたのはヤンその人なのだ。若い提監にとっては不本意きわまる事態であり、このところ酒量がふえるいっぽうだった”

心の内でヤンがいまの状況分析をしている場面を、アニメではヤンとユリアンの会話で描いてわかりやすく伝えた。

“「この遠征は専制政治の暴圧に苦しむ銀河帝国ニ五〇億の民衆を解放し救済する崇高な大義を実現するためのものです。吾々が解放軍として大義にもとづいて行動すれば、帝国の民衆は歓呼して吾々を迎え……」”
帝国領侵攻作戦で、キーとなるのはフォーク准将だ。
肥大したプライドと大言壮語の口先だけの男。
銀河英雄伝説に登場するキャラクターのなかでも、そうとう「いいところなし」の人物なのである。

俗情に結託し自分を大きく見せる人は、往々にして「崇高」「大義」「正義」「自由」といった抽象的で大きな意味の漢語を使う。
具体的な作戦、具体的な内容は、ない。
そして、弁舌だけであるから、何かあったときには責任を取らず「意図していなかった」「私が悪いのではなくあなたが悪い」と言い出すのだ。

“権力や武力を手に入れたとき、ほとんどの人間が醜く変わるという例を、私はいくつも知っています。そして自分は変わらないという自信をもてないのです” ヤンの言葉だ。

フォーク准将が作戦参謀となり、自由惑星同盟軍は立ち上がり進みつづける。

次回は、第十一話「死線(前編)」。(テキスト/米光一成