玉山鉄二がマンガ家・赤塚不二夫を演じるNHK総合の土曜ドラマ「バカボンのパパよりバカなパパ」(夜8時15分~)が先週よりスタートした。
「バカボンのパパよりバカなパパ」元妻が元夫の再婚を御膳立てしたのだ!1話 
ドラマの原作となる赤塚りえ子『バカボンのパパよりバカなパパ』(幻冬舎文庫)

優しいけれど、女癖の悪いギャグマンガの帝王


75分の拡大版となった第1回は、劇作家の松尾スズキの案内で始まり(このとき松尾が披露した「シェー」のポーズが完璧だった)、時代は一気に1973年までさかのぼる。ギャグマンガ家・赤塚不二夫のまさに最盛期だ。
一人で『天才バカボン』の原稿に向かいながら、「賛成の反対」というギャグを思いつく場面を、まだ小学生だった一人娘のりえ子(子供時代:住田萌乃)が目撃する。かと思えば、アシスタントや編集者との会話のなかから、突然「ウナギイヌ」のアイデアが生まれたりする。

アシスタントたちとは毎日のように飲みに行ったり、遊んでいた。あるとき、みんなで銀玉鉄砲を撃ち合っていたところ、プロダクションに遊びに来たりえ子の鼻に銀玉が入ってしまう。すっかり機嫌を損ねたりえ子のため、赤塚は彼女が寝た部屋へ、彼女と『ひみつのアッコちゃん』を共演させたマンガをこっそり置いていく。りえ子は朝目覚めると、それに気づいて喜んだ。


「朝目覚めると……」というパターンは、このあとの、原稿を紛失した編集者・横井(浅香航大)のため、まるまる一回分を描き直す場面でも繰り返される。このとき、横井が出版社に戻るタクシーのなかに原稿を置き忘れてしまったと、青ざめながらプロダクションに駆け込んでくると、赤塚は怒りもせず、彼を飲みに連れて行く。横井はすっかり酔って寝てしまうが、そのあと赤塚はアシスタントたちとともに夜を徹して原稿を描き直すと、朝目覚めた彼に渡したのだった。

いずれのエピソードからも赤塚の優しさをうかがわせるが、一方で、女ぐせが悪く、自宅にもほとんど帰ってこないので、しょっちゅう妻の登茂子(長谷川京子)を怒らせていた。ある日、ついに登茂子から離婚届を突き出されるも、赤塚はそこに「山田一郎」とふざけた名前を書いて、まともに取り合おうとしない。登茂子も本心では離婚するつもりはなかったが、赤塚はその場に居合わせたりえ子から、「ママが本気で悲しんでることわからないの?」「そんなことも気づかないパパなんていなくていい」と言われて、離婚を決意してしまう。


再会した娘を怒らせてばかりのパパ


こうして別れた父と母娘だが、それから10年の月日が流れ、高校卒業を目前にしたりえ子(森川葵)の進路を話し合うため、久々に再会する。このとき、登茂子はキータンこと江守清人(馬場徹)という年下の男性と交際しており、赤塚のほうも、鈴木眞知子(比嘉愛未)という女性と一緒に暮らすようになっていた。

元夫婦とそれぞれの恋人が立ち会うという異様な状況のなか、赤塚はりえ子に対し、「おまえの好きなことをやればいいんだよ。ただしその道の一流になれ。裸になろうがパパはかまわない」などと言い出し、彼女を「パパはおかしい。普通のパパならそんなことは言わない!」と怒らせてしまう。

その後、登茂子とキータンは赤塚の家を訪ねては、眞知子ともすっかり仲良くなるが、りえ子の父に対するわだかまりはなかなか溶けなかった。
眞知子も交えて、遊園地に一緒に父子デートに出かけるも、「どうせ連れてきてくれるなら、子供のころに連れてきてほしかった」と、いつも家族のことは二の次だった赤塚をなじる。すねて帰ってしまった赤塚に代わり、眞知子は「先生はりえちゃんと仲直りしたいのよ」と取りなす。それにしても、年頃の女の子のある種の面倒くささを演じると、森川葵は本当にうまい。

一方、登茂子は、赤塚と眞知子を結婚させようと画策。ついにはキータンと横井にも協力してもらい、赤塚を呼び出して、眞知子にプロポーズする場を用意する。しかし父の再婚にりえ子は釈然としない。
それに気づいた眞知子は彼女と二人きりになり、「先生は別れたくて別れたのではなく、りえちゃんとママのために別れたのだと思う」と言うと、赤塚がこっそり隠していたマンガの下描きを見せる。そこには、娘のことを想う赤塚の気持ちが描かれていた。

こうしてりえ子は、「私は赤塚不二夫の娘で幸せだよ」と打ち明け、眞知子との結婚も認めるのだった。身内でささやかに再婚を祝ったあと、赤塚は前妻と新妻と娘を同席させて記者会見まで開く。普通ならありえない光景だが、赤塚は「これでいいのだ!」と笑い飛ばしてみせた。もっとも、彼の女癖の悪さはあいかわらずで、その後も眞知子と登茂子の手を焼かせることに……これでいいのか!?

多難な赤塚の後半生をどう描く?


今回のドラマは、赤塚りえ子の原作『バカボンのパパよりバカなパパ』の内容を踏まえながらも、大幅に脚色されている。
たとえば、赤塚のアシスタントや編集者は、現実には70年代と80年代とでは大きく入れ替わっているが、ドラマではずっと同じままだ。

ただし、劇中に出てきたエピソードには、ウナギイヌ誕生秘話や、編集者がタクシーで原稿を紛失したという事件をはじめ、実際の話からとったものも少なくない。ドラマではまた、赤塚がサングラスと着物という出で立ちで、扇子を両手に掲げながら、「ぎんぎんぎらぎら夕日が沈む~」と歌う場面もあったが、あれも時代こそ1986年に変えてあるものの、実際に1973年に放送された「私がつくった番組『赤塚不二夫の激情No.1!』」(東京12チャンネル=現テレビ東京)という番組の一場面を忠実に再現したものだ。

そのほか、ドラマのなかでテレビ出演した赤塚が「すぐれたマンガ家はね、健全な常識人ですよ」などと説く場面には、赤塚先生、こんなこと言ったのかな? と思ったのだが、原作で確認したところ、彼は同じようなことを自伝に書いているという。

りえ子の進路についての話し合いで、赤塚が放った「好きなことをやればいい。ただし、その道の一流になれ」という言葉も、現実に娘によく話していたことらしい。
ちなみに、ドラマでは赤塚が「裸になろうがかまわない」と言ってりえ子を怒らせていたが、現実の赤塚は彼女が20歳になったとき、知り合いの写真家である長友健二に頼んで、ヌードを撮ってもらっている。まったく、事実はドラマよりも奇なり、なのだ。

これまで赤塚不二夫の人生はドラマなどで繰り返しとりあげられてきたが、それらとくらべて今回のドラマが画期的だと思うのは、彼の派手な女性関係を描いていることだ。もちろん、ゴールデンタイムのドラマなので、表現はかなりソフトにはなっている。それでも、第1回に出てきた登茂子が赤塚の浮気相手からの電話を取ってしまった際、夫の声色を真似て対応したというエピソードなどは実際にあった話というから、結構生々しい。

もう一つ、今回のドラマで意表を突かれたのは、赤塚の全盛期のくだりが第1話の前半で完結し、すぐに再婚のエピソードへと移っていったことだ。それはこのドラマが、周囲の女性との関係のなかで赤塚不二夫を描こうとしているためだろう。しかし、80年代以降の赤塚の人生がかなり多難であることを思えば、これはなかなかの冒険ともいえる。

続く第2話では、眞知子が家出をするという。はたしてこの事態に赤塚はどう対応するのか。放送は、「ブラタモリ」関門海峡・下関編のあと、夜8時15分から!
(近藤正高)

【作品データ】
「バカボンのパパよりバカなパパ」
原作:赤塚りえ子『バカボンなパパよりバカなパパ』(幻冬舎文庫)
脚本:小松江里子 幸修司
音楽:大友良英 Sachiko M 江藤直子
演出:伊勢田雅也(NHKエンタープライズ) 吉村昌晃(ADKアーツ)
制作統括:内藤愼介(NHKエンタープライズ) 佐藤啓(ADKアーツ) 中村高志(NHK)
プロデューサー:野村敏哉(ADKアーツ)
※各話、放送後にNHKオンデマンドで配信予定