大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第27回「禁門の変」7月22日(日)放送  演出:野田雄介
「西郷どん」27話。京都が燃える。西郷、はじめての戦争、禁門の変
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玉山鉄二登場


夜、なんだか笑顔が不気味な一橋慶喜(松田翔太)との面会を終えて西郷吉之助(鈴木亮平)が外に出ると、物乞いがいてかわら版のようなものを思わせぶりに転がしてきた。
そこには戦がはじまって京都が焼かれる予想が書いてあった。
吉之助は侍の本懐は戦をすることではなく民の暮らしを守ることと語り物乞いを安心させて帰っていく。


鈴木亮平の喋り方が低く重くなってきているような・・・体躯もじょじょに大きくなってきて、鈴木が計算して変化を見せているのだろう。

新八(堀井新太)と話していて、島津久光(青木崇高)が吉之助に“軍賦役”にし異例の出世をさせたわけは戦死を目論んでいるのではとはたと気づいた時、あの夜の物乞いこと長州藩主・桂小五郎(玉山鉄二)がやってきた。
土曜ドラマ「バカボンのパパよりバカなパパ」で布をかぶって「ムササビ〜」と飛んでいた男と同じ俳優とは思えないきりっとした風貌で、27話は革命編の4人のひとり桂のお目見え回となった。
27話は長州力が長州藩士・来島又兵衛役でゲスト出演したことも話題だが、それは後述する。

軒先から雨だれが地に着く間に三度刀を抜き放てる


長州の過激派たちは御所への出兵を目論んでいて、それが実行されたら日本中の諸藩を巻き込んだ大戦になる。それを止めるため、一橋慶喜に会わせてほしいと桂は吉之助に頼む。
一橋慶喜と間違えて平岡を斬ったのは長州の者ではないか? と疑われているが、そうではないと言う桂。

そう、26話でこの事件をそっと見ていた物乞いは桂だった。だからその背中をやけに印象的に映されていたわけだ。
その頃、慶喜は孝明天皇(中村児太郎)に長州を討てと命じてほしいと頼んでいた。

だが平岡を斬った疑いは長州だけでなく薩摩の半次郎(人斬り半次郎)も向けられていた。
「軒先から雨だれが地に着く間に三度刀を抜き放てる」ほどの腕前と恐れられている人物だ。のちに戊辰戦争や西南戦争でも活躍することになるこの半次郎(桐野利秋)役は「わろてんか」のおどけた芸人キースを演じていた大野拓朗。
彼もまた、朝ドラとは別人の表情できりりとした青年剣士のような雰囲気を讃えてあらわれる。
鮮やかな剣の腕前を披露した際、「軒先から雨だれが地に着く間に三度刀を抜き放てる」のごとく砂利に水滴な落ちるカットが映され雰囲気を盛り上げた。なんでこの人だけこんなかっこいい言葉とイメージ映像をもらえるんだろ?

この半次郎、あとでわかるのは3話で吉之助が助けた剣の腕の立つ少年だった。
27話がわくわくするのは、これまで吉之助がたどってきた道が人との再会で見えることだ。
吉之助がはじめて江戸に来た9話で「38番」と番号で呼んでいばっていた迫田がいまでは逆にペコペコとなる。
西郷を「立派なお侍さん」と呼んで尊敬の眼差しを浮かべ、慶喜をやや嫉妬させるふき(高梨臨)は2話で
吉之助に助けられた少女である。


ひとつひとつの出逢いが寄り合って太い道となっていく様が吉之助の声やカラダの変化とも相まって、長いドラマならではの楽しみが生まれていく。

おれにはもう誰が見方で誰が的なのか検討もつかん。


一橋慶喜は“禁裏御守衛総督”という天子様の直属の家臣となった。
はたして慶喜を狙ったのは、長州の手の者なのか、薩摩の手の者なのか。
誰も信じられない慶喜だが、ふきからして見たら、慶喜なのかヒー様なのかどちらがほんとうの顔なのかわからなくなっていた。

やがて池田屋で長州の侍を新選組が9人惨殺するという池田屋事件が起こる。

だが平岡を討ったのは水戸の者だった。身内の水戸に狙われるとは・・・「おれにはもう誰が見方で誰が的なのか検討もつかん」とすっかり疑心暗鬼の慶喜。随所に登場する松田翔太の泣き笑いの表情が切ない。
信じていたものに裏切られた慶喜は「頼むお前だけは裏切らないでくれよ」と西郷に念を押す。

そして元治元年7月19日、禁門の変が勃発。
禁門の変で大火事が起こって祇園祭の山鉾が燃えてしまい、2017年には燃えた鷹山の鉦が復活したというニュースがあった。
慶喜が聞こえてくる祭り囃子にあわせて「コンコンチキチン」と歌っているのは、復活した鉦に重ねていたのだろうか。

チェスト 行け〜!


薩摩から信吾(錦戸亮)たちも援軍としてやってきた。
「薩摩隼人の底力を存分に添加に示せ チェスト 行け〜!」と薩摩軍を煽る吉之助だったが、
吉之助は「禁裏守護」と、長州を退去させ、ひたすら御所をお守りすることに徹する構え。
だが蛤御門での長州と会津との戦いが激化したため、急ぎ蛤御門に向かう。
吉之助は御大将・来島又兵衛(長州力)だけを狙うように指示する。
山口県出身のプロレスラー長州力がカラダを張って戦シーンを盛り上げた。

来島が銃に倒れたことをきっかけに戦況が激しくなり、吉之助も足を撃たれてしまう。

「西郷まだ死なれては困る。生きのびよ。おれの使い甲斐も大きくなるぞ牛男」と狂ったように笑う慶喜と
激しく燃える京都(その後三日間も燃え続けた)を目にしてうお〜となる吉之助。
鈴木亮平は威勢のいい顔よりも追い込まれた時の顔が抜群にいい。

本編のあとの情報コーナー「西郷どん紀行」では7月15日の革命編から山崎育三郎が「西郷どん紀行~道しるべ~」を歌っている。朗々と歌い上げた感じがなんだかミュージカル「レ・ミゼラブル」のような雰囲気で、ホリプロ製作で「ミュージカル西郷どん」をやりかねない気さえしてくる。なんたってホリプロは黒澤明の映画「生きる」もミュージカル化するのだからやってやれないこともないのでは。三谷幸喜が新橋演舞場で江戸城無血開城直前の物語を描いた舞台「江戸は燃えているか」をやったことでもあるし、日本の革命ミュージカルを見てみたい気もする。
(木俣冬)