「生活保護とは、人が生活していて病気になったり、働けなくなったりしてお金に困ったときに、ちゃんと人間らしい暮らしが送れるよう、国や自治体が健康で文化的な最低限度の生活を保証する制度です」

柏木ハルコ原作、吉岡里帆主演のドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(略して『ケンカツ』)。区役所の新人ケースワーカー・義経えみる(吉岡里帆)を通して、生活保護の実態とケースワーカーの奮闘ぶりを描く。


先週放送された第3話の視聴率は少し復活して5.8%。第3話から人名のテロップを入れるなど、見やすくなるための工夫が行われていた。
「健康で文化的な最低限度の生活」生活保護を利用していても夢を追うことはできる3話
イラスト/まつもとりえこ

不正受給発覚! そのとき家族は……


第2話は悲惨な終わり方だった。生活保護の利用者、日下部聡美(江口のりこ)の家で生活保護の不正受給が発覚。原因は高校生の息子・欣也(吉村界人)のバイト代の申告漏れだ。生活保護を利用している世帯は収入を正しく申告しなければ、その分、不正受給になってしまう。これまで汗水流して働いたバイト代を全額返済することになり、ブチ切れた欣也は大事にしていたギターをえみるの目の前でぶっ壊す。


「俺は、そんな悪いことしたんスか? バカで貧乏な人間は夢みるなってことか!」

こう言いたくなる欣也の気持ちもよくわかる。しかし、事実があって、法律がある。誰も悪気はないのに、不正受給は起こってしまうことを描いたのが第2話だった。不正受給は悪いことだが、悪いことをしているのは悪い人ばかりではない。

日下部家は60万円という大金を返済せねばならず、家族もバラバラ。新人ケースワーカーのえみるも有効な手が打てずに右往左往するのみ……。
第3話で、どのような解決策が提示されるのか、興味を惹かれた視聴者も多かったと思う。

ケースワーカーが最初にやらなければいけないこと


日下部家の惨状を聞いても、係長の京極(田中圭)は顔色一つ変えない。「利用者の感情に巻き込まれるな」とえみるを冷たく突き放すが、一方で欣也のためにお古のギターを持ってくる優しさもある。

頼りになる先輩ケースワーカーの半田(井浦新)のアドバイスは具体的だ。とにかく日下部家の人々に返済金額について説明しなければと焦るえみるに、その前にしなければならないことがあると説く。

「あらためてここに来てもらえるように、それなりの関係をつくるということです」
「それなりの関係ですか……」
「その関係さえ築くことができれば、説明は後日でもできます」

半田の言葉は、ケースワーカーの役割を端的に表している。単に利用者に生活保護制度を説明するだけの人ではないのだ。
それはそうとして、何かいいことを言うときに半田のメガネが光って「シャキーン」と効果音が入る演出、いる?

一方、日下部家は荒れに荒れていた。返済費用に悩まされる聡美の言葉はどれもキツく、相手に叩きつけるようだ。矛先はえみる、欣也、娘のリナ(瑞城さくら)に向く。

「欣也のことを心配するなら、少しでも減額される方法を考えてほしいです」
「だって、最初に『大丈夫かも』と言ったの、義経さんですからね!」
「悪いけど、くだらないことにお金使うのやめてね。そんなお金、ウチにないことわかるでしょ?」
「あんたも無駄使いするのやめてよ。自分の立場考えなさい!」

えみるは持っていったギターを欣也に渡すこともできない。
その後、えみるは家を出てしまった欣也になんとかギターを渡そうとするのだが、いつも抱えている大きなギターが彼女の重い気持ちを表しているかのよう。ちなみにエレキギターの平均的な重量は4キロ程度だ。

夢を追うための支援をする仕事


ケースワーカーが提示できる解決策。それは、とにかく面談を行うことだった。えみるの必死の追跡(叫びながら自転車で欣也の乗ったバイクを追いかけたりしていた)の甲斐あって、日下部親子が区役所にやってくる。率直に謝ったえみるの後を引き継ぐのは半田だ。


「私たちは、人が人らしく生きるために何ができるかを常に考えています」
「欣也くん、夢を追うことは、実に人間らしい生き方だと思います。そのための支援を、我々ケースワーカーはこれからもしていきたいと思います」

生活保護を利用することは悪いことじゃない。生活保護を利用しながら夢を追ってもいい。そのための手助けを行うのがケースワーカーなのだから、まずは面談に来てほしい。そのためにケースワーカーは利用者と「それなりの関係」を築かなければいけない――。

非常にわかりやすい脚本で、ドラマを見ているとどんどん生活保護について詳しくなる。
なお、ドラマの中にも登場するが、生活保護を受けながらバイトをしているとき、正しく申告すればある程度の額が控除されて手元に残すことができる制度がある。それが夢をかなえる手助けになるのだ。

脚本を担当しているのは『コウノドリ』第2シリーズを手がけた矢島弘一。そういえば第3話は『コウノドリ』のように同僚たちが軽いかけ合いをするシーンが挿入されていた。重い話の中に、ああいうシーンがあると、ちょっとホッとするね。『コウノドリ』といえば、食堂の威勢のいい店主を演じる徳永えりがネクスト吉田羊っぽく見える。

欣也役を演じた吉村界人は、本作のほか『グッド・ドクター』で藤木直人の亡くなった弟役、『GIVER 復讐の贈与者』ではショットガンを乱射する凶悪犯役と、今クールだけで3本のドラマに出演した注目株。愛読書は矢沢永吉の『成りあがり』。素顔はかなり熱い男だそう。

本日放送の第4話は、夫のDVが原因で離婚したシングルマザーの安達祐実が登場。彼女を支えようとするケースワーカー・七条(山田裕貴)の悪戦苦闘ぶりも見逃せない。今夜9時から。
(大山くまお)

【配信サイト】
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カンテレドーガ

「健康で文化的な最低限度の生活」(フジテレビ系列)
原作:柏木ハルコ(小学館刊)
脚本:矢島弘一、岸本鮎佳
演出:本橋圭太、小野浩司
音楽:fox capture plan
プロデュース - 米田孝(カンテレ)、遠田孝一、本郷達也、木曽貴美子(MMJ)
制作協力:MMJ
製作著作:カンテレ