8月11日に放送された『ヒモメン』(テレビ朝日系)の第3話。
「ヒモメン」無職ゆえにフリー記者になっていた窪田正孝。アンジャッシュ的に事件を究明する3話
鴻池剛『ヒモメン〜ヒモ更生プログラム〜』1巻/KADOKAWA

「土曜ナイトドラマ」枠はいつも全7話に設定されていることが多く、このドラマも全7話の可能性が高い。
先週が3話なので、もう折り返し地点だ。

なのに、主人公の碑文谷翔(窪田正孝)は成長の跡をまるで見せていない。職に就くとか、家事をやり始めるとか、その手の変化が全くないのだ。致し方ない。翔のモチベーションは「いかに楽をして働かないでいられるか」だから。春日ゆり子(川口春奈)の収入に頼り、定職に就かず生きていくことこそ唯一にして最大の目標。


ヒモという生き方を貫くと、ねじれが生じてしまう。働かないで生きるための努力が不可欠で、その労力は半端じゃない。「ヒモでいるより働いたほうが楽」という本末転倒な事態になりかねないのだ。

でも、翔はその苦労さえ放棄してる。ゆり子に鍵付きの手提げ金庫を渡された翔。中には、お小遣い500円が入っている。
開けるには、4桁の暗証番号を入力しなければならない。ゆり子が設定したのは「0811」。自分の誕生日である8月11日を、そのまま暗証番号化したということ。正直、チョロい問題だ。
彼女に喜びを与え、機嫌良くなってもらうのはヒモの最低限の務めである。なのに、翔はゆり子の誕生日を記憶していなかった……。
ヒモとして精進してない。っていうか、「0001」から律儀にダイヤルを回し、一度は「0810」まで辿り着いていた翔。あと、一回し! なのに、トンカチを取り出して金庫の破壊を試みるから救いようがないではないか。

翔のやり口に激昂したゆり子が場を離れた隙に、ゆり子の財布に翔が手を伸ばした場面はドキッとした。くすねるのか? ……いや、違う。ゆり子の免許証を手にし、誕生日を確認している。
財布の中のお金ではなく、あくまで金庫の中のお金をゲットしようとする。良い言い方をすれば、一本気だ。まあ、そのカンニングの場面をカーテンの隙間から見張るゆり子に見つかり、蹴りとビンタを食らってしまっているが。
「ヒモメン」無職ゆえにフリー記者になっていた窪田正孝。アンジャッシュ的に事件を究明する3話
イラスト/Morimori no moRi

仕事もヒモも断れない川口春奈


ゆり子をキレさせつつ、誕生日の日付はインプットした翔。お腹が減ってお金が欲しくなり、室内を物色するうちにゆり子がネックレスをプレゼントされたがっていることも翔は把握した。

行きつけの居酒屋で開催されていた“成功したら賞金1万円”カレー大食いに、翔はチャレンジする。目的は、ゆり子が欲しがっていたネックレスだ。
結果、翔は食い過ぎで腹を壊した。彼が運ばれた行き先は、看護師であるゆり子が働く病院である。

ゆり子がいる病院の勤労意欲はどうなっているのか? 急患が運ばれてくるや、「他の仕事がある」と理由をつけてほとんどの看護師がエスケープするのだ。こういう時、いつもゆり子は仕事を押し付けられる。職場では貧乏くじを引くし、翔に甘えられるとなぜか受け入れてしまう。彼女は断れないタイプだ。


でも、今回は仕事から逃げないで良かった。流れ的に、翔の担当がゆり子になったのだ。翔が運ばれてきた理由を聞き、ゆり子は感動する。私のプレゼントのために、体を壊すほどカレーを食べてくれていたなんて!

ちなみに、目当てのネックレスの価格は14,800円。ということは、大食いを二度成功させなければ目標金額に届かない。でも、翔が成功したのは一度のみ。失敗した二度目の大食いの食事分4,900円はバッチリ持っていかれている。

しかも、チャレンジ前に食した「焼き鳥盛り合わせ」の代金は、ゆり子が取っておいた食事券で済ませてしまった翔。また、このヒモはくすねたのだ。
「ゆり子、(食事券を)隠してたでしょう〜?」(翔)
翔は、地雷を踏んでしまった。その食事券は、ゆり子が誕生日にファミレスで翔と食事するため用意していたものだったからだ。っていうか、自分の稼ぎでファミレスにも行けないなんて、ゆり子の経済状況もギリギリか? なのに、ヒモを養っているなんて……。

お食事券の行方を追い、汚職事件にたどり着く


平成が終わろうとしている今、『ヒモメン』はとんでもないネタをぶっ込んできた。「お食事券(おしょくじ・けん)」と「汚職事件(おしょく・じけん)」の聞き間違えコントである。

私用でお食事券を1枚使った翔。でも、まだ2枚は未使用のまま取ってある。その2枚がどこかへ行ってしまい、彼は狼狽する。
そんな中、公費の不正使用疑惑で追及を受けている国会議員・森山圭子(西尾まり)が緊急入院してきた。翔は、圭子と秘書・長谷部恵(小沢真珠)が交わす会話をたまたま耳にした。彼女らが議題にしていたのは、圭子に嫌疑がかかる「汚職事件」について。それを、翔は「お食事券」のことだと認識する。

お食事券を使われ、ゆり子は激怒した。怒り過ぎて、医師の池目涼介(勝地涼)と付き合うとまで言い出した。「汚職事件」に関わる圭子と長谷部が「お食事券」の盗難犯だと誤解した翔は、2人を問い詰めた。

 お食事券のことなんですけど。この耳で、ハッキリと聞きました。
圭子 秘書よ! 秘書が全て勝手にやったの。秘書の長谷部よ。
 あなたが長谷部さん? お食事券のことなんですけど!
長谷部 ……何の話ですか、汚職事件だなんて?
 この人が白状しました。(手を差し出して)とぼけても無駄ですよ!

翔が長谷部に差し出したのは、「盗まれたお食事券をこの手に渡して返せ」というニュアンスの手だ。でも、長谷部には「手を差し出して汚職事件を追及するジャーナリスト」に映った。要するに、アンジャッシュのすれ違いコント的な状況である。
不思議だ。「お食事券」と「汚職事件」というかなり古臭いトリックのコントなのに、窪田正孝、西尾まりといった華やかな役者陣がやるとそれなりに成立する。このすれ違いをテーマに、『ヒモメン』は1話分まるまるを突っ走った。いい根性をしているドラマだ。

ヒモの持論に国会議員が改心


翔はしつこい。延々、圭子らに詰め寄る。

 お食事券のこと話すように(長谷部を)説得してくださいよ〜。
圭子 言えるわけないでしょ! 本当のことを話せば、いくら秘書がやったとは言え、私は議員バッジを外さなきゃいけなくなる。

無職の翔に、圭子の苦しみは理解できない。「苦しいなら辞めちゃえばいいのに」と、彼は簡単に考える。翔は圭子に持論を語った。
「嫌なことはやらない。自分の気持ちに正直に生きる。これ、俺のモットーです。だから、『働きたくない』って俺は本音で正直に生きてます」(翔)

無職ならではの正論に感銘を受ける圭子。国会議員がヒモに諭されている。初回の「権力は無職の前では無力!」といい、今回の「嫌なことはやらない。自分の気持ちに正直に生きる」といい、ヒモならではの自堕落な持論が深い意味を帯び、社会的地位を持つ大人に通用しているのが面白い。

「とにかく、お食事券のこと正直に話してください。それで仕事辞める必要あるんだったら、ま、そこは辞めていただいて」(翔)

圭子は記者会見を開いた。しかし、彼女はまだしらを切る。すると、翔が記者会見に乱入! 圭子と長谷部の会話録音データを公開し、真実に迫るのだ。

 長谷部さん、これでもまだとぼけるんですか? これは、秘書のあなたがお食事券を持っていたという証拠です! その時のお食事の会計で、お食事券を使った。違いますか!?
長谷部 ……は?

「お食事券」を「汚職事件」と捉えると、翔の日本語は途端におかしくなる。しかし、この檄でなぜか圭子の目が覚めた。彼女は、翔の登場を機に汚職事件の全てを告白するのだ。圭子は長谷部に弱みを握られていた。長谷部は圭子を利用し、経費を着服していた。

圭子 でもまさか、(長谷部が)汚職に手を染めるとは……。
 お食? なんで、そこで切るの?

普通、「お食事券」を「お食」とは略さない。アンジャッシュのコントならば、きっとここがオチになる。

『アンナチュラル』に続きスパイ活動をする窪田正孝


なんだかんだ、翔はお食事券を取り戻すために奮闘した。ゆり子との別れは避けられそうな雰囲気だ。ゆり子は幸せな笑顔を池目に隠さなかった。
「私、もう少しがんばってみます。やっぱり私には翔ちゃんが必要みたいです」(ゆり子)
ゆり子を狙う池目は、悔しさを滲ませた。
「何が、『翔ちゃんが必要みたい』だ。君に必要なのは、男を見る目だ!」(池目)

これで、めでたしめでたし……とはならない。週刊誌記者に依頼され、翔は圭子が入院中の病室を盗撮した。その写真はスクープ記事に採用され、情報漏えいの責任を問われたゆり子は失職の危機に陥っていた。
「出てって……。私、あの写真のせいでクビになりそうだったんだよ!」(ゆり子)
そういえば窪田正孝、『アンナチュラル』(TBS系)でも週刊誌から送り込まれたスパイを演じていたっけな……。

盗撮の報酬でネックレスをプレゼントしたというのに、逆にゆり子をキレさせてしまった翔。次回予告を見ると、どうやら彼は働き始めるらしい。ゆり子の収入で生きることがモチベーションだった翔が見せる初めての成長か?
ちなみに、このドラマが掲げるコピーは「『働かない』という『働き方改革』」である。折り返し地点でようやく訪れた新展開だ。
(寺西ジャジューカ)

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土曜ナイトドラマ『ヒモメン』
原作:鴻池剛
脚本:森ハヤシ ほか
音楽:井筒昭雄
演出:片山修(テレビ朝日) ほか
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:秋山貴人(テレビ朝日)、河野美里(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:テレビ朝日