プレデター、あのプレデターが、また地球に立ち寄ってくれた! そう叫びだしたくなるくらい、『ザ・プレデター』は「あのころのプレデター」らしいムードの作品だ。
「ザ・プレデター」から滲み出るテレビ洋画感に泣け!80年代的気負いのなさと男たちの肉弾戦よ

ぶっちゃけ捕食者ってわけじゃないプレデター、今回は「ザ」がつく


それにしてもタイトルが『ザ・プレデター』である。なんせ「ザ」がついている。
これがついていると、「真の」「本格」「元祖」「改めまして」みたいなニュアンスがモヤンと漂う。「THE 特撮 Collection」とか「ザ・ノンフィクション」とか「ザ・ベストテン」とか「ザ・ワールド」とか。『ザ・プレデター』というネーミングは、そのあたりの仲間だ。

そもそもプレデターの皆さんは、いわゆる侵略宇宙人でもなければ人類に友好的な宇宙人でもない。「捕食者」という名前に反して、彼らはハンターだ。しかも狩りをして獲物を煮たり焼いたりして食うわけではなく、「強い奴と戦って勝つ」ことを目的にしている。
巨大な体とドレッドヘア、いろんな方向に開く変な口を持ち、光学迷彩やら肩から飛び出すレーザー砲やら伸縮式の槍やらすごいガントレットやらといったハイテク装備で武装している。「見た目はトライバル感があるのに武装はハイテク」というギャップが魅力のニクい奴である。

1987年に公開されたシリーズ第1作『プレデター』は、今にして思うとちょっと変わった映画である。いわゆるSFホラー的な構造の作品ではないのだ。ホラーということなら、めちゃくちゃ強い宇宙人にか弱い地球人(できれば女性)が追い回され、散々ひどい目に遭った後になんとかして撃退に成功する……という話になりそうだ。しかし、『プレデター』でプレデターと戦ったのは、ご存知のようにアーノルド・シュワルツェネッガーである。
ホラーなら「主人公が死んじゃうかも」というポイントでハラハラさせるはずだが、あんまり死にそうにない。実際「強い奴を狩ること」を目的に地球に来たプレデター氏も大いに発奮、名勝負の末に壮絶な自爆を遂げる。プレデターから見れば「バス釣りに来たらムキムキでめちゃくちゃ強いブラックバスに反撃されて自爆するハメになった」みたいな話である。プレデターもなかなか大変だ。

つまり『プレデター』は「めちゃくちゃ強い奴がめちゃくちゃ強いエイリアンとガチンコで戦う」という作品だった。言うなれば『プレデター』はSFホラーの皮を被ったG1クライマックスであり、そこにこの作品の特異な点がある。
『プレデター』は第1作目にして「地球で一番強い奴VS宇宙の残虐ハンター」という構図をやり尽くしてしまったため、続くシリーズはそれぞれ面白いものの、「筋肉と男気が足りない気がする……」という食い足りなさを感じたのも事実だ。


80年代的ガバガバアクション映画の文法によって、ついつい笑顔に……


で、『ザ・プレデター』である。主人公は傭兵のクイン。彼は任務で赴いたメキシコのジャングルでプレデターが乗った宇宙船の墜落に遭遇、証拠としてマスクとガントレットを回収し、「宇宙船に遭遇した証拠」として当局に察知されにくい別れた妻と息子のローリーが住む家に送る。しかし、ガントレットの装置をローリーが起動してしまい、その信号に反応して政府の研究機関に捕らえられていたプレデターが脱走! 一方プレデターを目撃したことで同じ研究機関に拘束されていたクインは、軍刑務所行きのバスの中で出会った元兵士のならず者集団"ルーニーズ"と組み、プレデターから自分の息子を助け出そうと行動を始める。プレデターを追う政府機関とルーニーズ。自らの装備を取り戻しに向かうプレデター。
しかしそこに、全く新種の"アルティメット・プレデター"が向かっていた。

というお話なので、まず主人公が兵士である時点で50プレデターポイント、さらにジャングルが出てきたところで120プレデターポイント、ついでにスタート時から兵隊たちが結構めちゃくちゃな死に方をするところで300プレデターポイント……といった具合に、映画が始まってすぐに「プレデター感」がどんどん加算されていく。そもそもメインテーマがあの'87年版『プレデター』のあの曲だ! さすが、タイトルに「ザ」がついてるだけのことはある!

さらに言えば『ザ・プレデター』は、なんともガバガバな作品である。「お前らその銃はどこから持ってきたんや」とか「そもそも各ロケーションはどういう距離感なんや」とか「そのバリアみたいなのってそういう使い方して平気なんか」とか、いろいろ気になるところが続出するのだが、そのへん全部を「まあ、そういう映画なんで」という具合にすっ飛ばす。おおらかである。このおおらかさこそ、往年のアクション映画が持っていた美点ではなかったか。
断続的とはいえ一応30年続いたシリーズの新作ではあるのだが、「マジメにやろう!」「大人のエンターテイメントにしよう!」みたいな気負いが感じられない。80年代にタイムスリップしたかのようだ。映画館で見ている新作なのに、そこはかとなく滲み出る木曜洋画劇場感。これは確かに『プレデター』っぽい! う、嬉しい……!


キミも燻っていた男たちが死に場所を見つけるドラマで満腹になろう!


しかし、単にガバガバでおおらかなだけではない。『ザ・プレデター』には、人間サイドの強さの秘密であるほろ苦い精神面の描写もかなり含まれている。というのも、途中からクインと行動を共にするルーニーズの面々が、全員PTSDを負ったはみ出し者の元軍人たちなのだ。
ある者は指揮下の兵士を全員死なせてしまい、ある者は友軍誤射をやらかし、ある者はヘリコプター事故で脳挫傷を負った上宗教に走っている。全員壮絶すぎる過去を持っているのだが、彼らはお下劣なジョークを飛ばしまくってゲラゲラ笑う。そうやってヘラヘラして生きていくしか道がないのだ。

あっけらかんとしつつもどこか燻っていた男たちがプレデターという「死に場所」を得て、一気にかつてのギラつきを取り戻す過程を、『ザ・プレデター』はきっちり描く。「たまたま護送のバスで一緒だったクインの息子を助けにいく」なんて任務ですらないことは皆知っている。が、誰も途中で逃げたりせず、ヘラヘラしながらどこかで武器を入手してついてくるのである。

「落ちぶれたかつてのタフガイたちが、幼い子供のために体を張る」というストーリーを、ここまで嫌味のない形で、しかもプレデターで見られるとは思わなかった。これ、プレデターが出てこなくて相手が巨大なチャイニーズマフィアの組織とかだったら、ほとんどそのままジョニー・トーあたりのノワール映画みたいな内容である。まあ、嫌味がなく爽やかだったのは「強者にはリスペクトをもって接する」というプレデターのマナーが影響していた気もするけど。

『ザ・プレデター』の監督を務めたシェーン・ブラックは'87年の『プレデター』ではホーキンス(ダッチのチームにいた、メガネかけてたアイツである)を演じ、さらに『リーサル・ウェポン』や『ロング・キス・グッドナイト』などの脚本や『キスキス、バンバン』『アイアンマン3』などの監督でも知られる人物。もともと「一度能力を失った人間が、とあるきっかけから命がけで再起のため戦う」「男たちがわちゃわちゃしたりする」というネタは得意な人な上、80年代からバリバリ仕事をしている。後の世代がどう頑張っても再現できない80年代撮って出し感と、「死に場所を見つけた人たちの方がイキイキしてくる」という泣かせのツボは佐山聡のタイガースープレックス並みの得意技なのだ。

というわけで、これは確かに「ザ」を付けたくなるな……と感服した次第。今までプレデターシリーズを見たことがない人も、ぜひ『ザ・プレデター』鑑賞後は'87年版の『プレデター』を見てほしい。なんでこの映画に「ザ」が付いているのか、理解できるはずである。
(しげる)

【作品データ】
「ザ・プレデター」公式サイト
監督 シェーン・ブラック
出演 ボイド・ホルブルック トレヴァンテ・ローズ ジェイコブ・トレンブレイ キーガン=マイケル・キー オリヴィア・マン ほか
9月14日より全国ロードショー

STORY
メキシコでプレデターと呼ばれる異星人の宇宙船が墜落したのを目撃した傭兵クイン・マッケナ。現場で証拠としてプレデターのマスクとガントレットを回収したクインはそれを自宅に送るが、ガントレットを息子のローリーが起動させたことで、秘密研究施設に閉じ込められていたプレデターが脱走。息子を守るため、クインは護送車で出会ったはみ出し者の元兵士たちと共に家へと向かうが……