10月19日に『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)の第2話が放送された。この日は世界バレー女子中継が延長し、1時間遅れての放送開始だったものの、視聴率は初回から0.2%アップの10.6%を獲得。
また、第1話の見逃し配信はTBSドラマ歴代最高再生数(TBS FREE、GYAO、TVerの合計)をマーク。文句なしの注目作である。
「大恋愛」アルツハイマーを水虫と同列にするムロツヨシの包容力に笑ってしまう戸田恵梨香2話
イラスト/Morimori no moRi

アルツハイマーも歯周病も水虫も受け止める包容力


初回、ナレーションで間宮真司(ムロツヨシ)は北澤尚(戸田恵梨香)について「急ぎ足の人生」と表現していた。確かに速い。真司と育む恋も、そして病の進行も。

尚のMRIを目にし、軽度認知障害の兆候を感じ取った井原侑市(松岡昌宏)は、朝7時半に尚と待ち合わせの約束をした。しかし、その17分遅れで姿を現した尚。
前夜に交わした約束を忘れていた。検査の結果、尚はMCI(アルツハイマーの前段階)だと判明する。

侑市 確実な治療薬は、残念ながら今はありません。ですが、適度な運動、バランスの良い食事、睡眠の確保、生活習慣を見直すことで軽快する場合もあるんです。
 適度な運動、バランスの良い食事、睡眠って、それ冗談ですか? 普通の人と同じ健康法じゃないですか。
侑市 そうです。
けど、それが一番大事なことなんです。

真司と初めて食事をした思い出の居酒屋で一人飲みをする尚。その帰りに突然、尚は前後不覚に陥る。自分がどこにいるのかさえわからない。尚は迷わず真司に電話をかけ、助けを求めた。

真司 今、どこ?
 わからない!
真司 何か見えない?
 遠くに観覧車が見える。

真司 遠くじゃなくて、近くに何か見えない?
 近く……、近くで飲んでたの、あの店で!

記憶を失っていく中でも、真司と過ごした場所は覚えていた尚。
「助けてほしいと思った時、真司の顔しか浮かばなかったんだ」(尚)

アルツハイマーの前段階だと尚に打ち明けられた真司。
「尚が病気だなんて屁でも何でもない。尚が癌でもエイズでもアルツハイマーでも心臓病でも腎臓病でも糖尿病でも歯周病でも中耳炎でもものもらいでも水虫でも、俺は尚と一緒にいたいんだ」(真司)
アルツハイマーを歯周病や水虫と同列かのように言い切る真司。目に涙を溜めていた尚が「歯周病」辺りで笑い始めるのがポイントだ。普通の生活さえ難しい尚には、真司の存在が必要である。


次回予告に真司と侑市が対面するシーンがあった。侑市は真司にこんな言葉を掛けた。
「正式に結婚されたらいかがですか」

このドラマのオープニングは、浜辺を歩く尚と真司。尚の手からこぼれ落ちる砂を真司が受け止める。

ムロツヨシの自宅の窓ガラスが汚い


「『砂にまみれたアンジェリカ』の作家に会っちゃったの。運命だと思うの」と尚は言っていたが、真司にとっても尚は運命だ。

尚との交際をやめさせるため、尚の母親・薫(草刈民代)が真司の自宅へやって来た。

「何が望みなの? あの子のフィアンセは、これからの医学界をリードするような将来のある医師なんですよ!? それをブチ壊して、あなたは何をどうなさりたいんですか!?」
「例え、小説家として成功なさったとしても、どう考えたって娘とあなたは不釣合いで、長続きしないと思うんです」
「(100万円が入った封筒を渡し)これで、どこかにお引越ししていただけないかしら! あなたが消えてしまえば、娘の気持ちも落ち着きます」

ひどい言い様だ。事実、真司は頭に来ている。しかし、薫に頭を下げられた瞬間、真司の顔を見ると別の感情が去来していることもわかる。真司は尚にこう言った。
「その封筒を眺めてたら、俺、窓ガラス拭きたくなっちゃって」
窓ガラスを拭いた雑巾を見ると、真っ黒だ。今まで、どれだけ汚れていたのか。
雑巾で拭いた箇所だけ、くっきり透明になっている。

親に捨てられ、児童養護施設で育った真司。親の愛を知らぬ彼は、人を信じられない性分。そんな真司の前に現れた薫は、娘の為に100万円を用意し、憎んでいるはずの自分に頭を下げた。人間を色眼鏡で見る真司でさえ感じることのできた親の愛。尚との出会いで真司は変わる。曇りガラスに明かりが差し、色眼鏡だった視界は開けた。

真司は尚に「親に可愛がられて育った人間のほうが信用できる」と言った。人を信じられるようになったから、「尚さんとずっと一緒にいたい」「ちゃんと付き合おうと思った」と真司は宣言するのだ。

真司の幸せを思い別人格を演じる戸田恵梨香


ちゃんと向き合うことを伝えるため、真司は尚をレストランに呼び出した。しかし、病におかされる尚は真司に迷惑をかけまいと別れを切り出す。

「私、やっぱり予定通り結婚しようと思うの」
嘘をついている。相手を思いやっての別れ話である。
「目が覚めたの、私の幸せはあなたといることじゃないって」
と言うより、「あなたの幸せは私といることじゃない」。尚は真司が幸せでいることこそ望み。真司の幸せは、尚にとっての幸せでもある。その幸せは、自分と一緒にいると掴めない。だから、「私の幸せはあなたといることじゃない」なのだ。

別人格を演じた尚は帰宅後、自室で号泣した。想い合うゆえ、皮肉にも2人の心が潰れた。

合理的なだけじゃない松岡昌宏の愛


侑市と尚が婚約をしたのは、お互いが理想の合格点を弾き出す異性だったから。しかし、尚は真司に恋をした。尚の中で侑市への距離感が日に日に変わっていく。婚約者だった侑市は、自分の病を看てくれる主治医となった。「侑市さん」と呼んでいたはずが、いつの間にか「先生」と呼んでいる尚。
「もう、(侑市は)私に未練ないと思う。健康な子どもを産めて、母となるに足る知性のある人と結婚したいって言ってた人だもの。結婚前にわかって良かったと思ってるんじゃない」(尚)

そうだろうか? 尚に「先生」と呼ばれた時の侑市の表情は明らかに悲痛だ。初回で、侑市は「尚が思ってるより、僕はず〜っと幸せだよ」と言っていた。合理的なだけでなく、侑市は確かに尚への愛情がある。

若年性アルツハイマーを最先端で研究している侑市。尚を救うことができるのは自らの能力。医師という立場で、侑市は尚に愛情を注ぐつもりである。「アルツハイマーでも歯周病でも水虫でも尚と一緒にいたい」と全てを受け入れようとする真司とは異なるやり方だが、愛があるのは2人とも同じだ。

侑市は良家の息子。真司は天涯孤独。本人がそのつもりでも、家族の不理解や協調ゆえに受け止められないことだってある。全てを受け止める包容力は、真司のみが見せられる愛。
真司と侑市のスタンスの違いも、見守っていきたい。
(寺西ジャジューカ)

金曜ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』
脚本:大石静
音楽:河野伸
主題歌:back number「オールドファッション」
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
※各話、放送後にParaviにて配信中