第9週「違うわ、萬平さん」 第54回 12月1日(土)放送より
脚本:福田 靖 
演出:保坂慶太
音楽:川井憲次
キャスト:安藤サクラ、長谷川博己、内田有紀、松下奈緒、要潤、大谷亮平、
     桐谷健太、片岡愛之助、橋本マナミ、松井玲奈、呉城久美、松坂慶子、橋爪功、瀬戸康史ほか
語り:芦田愛菜
主題歌:DREAMS COME TRUE「あなたとトゥラッタッタ♪」
制作統括:真鍋 斎
「まんぷく」54話。ダネイホンも売れてなにかもが順調と思ったらGHQが来た
イラストと文/木俣冬

54話のあらすじ


栄養食品ダネイホンが厚生省の認可がとれて多くの病院で売れるようになった。
塩業も好調で、なにもかもが順調。
元証券会社勤務の真一(大谷亮平)が経営に参加することになり鬼に金棒。

ところが、突然、GHQ がやって来て萬平(長谷川博己)たちに銃をつきつける。

なにもかもが順調……


4話のナレーション「福ちゃんには嬉しいことばかり」に続く「なにもかもが順調」。
芦田愛菜ちゃんのハキハキ快活な発声が、ほんとうにウキウキしている感じに聞こえる。
7週、福子の懐妊週に続いてトントン拍子の土曜日。
……と思ったら、今回はいきなり暗転。
海で爆発音が聞こえたとGHQ が大人数で調べにやって来た。武器を隠し持っていると危険だからたくさんで来たのだろう。

野村(南川泰規)、高木(中村大輝)、堺(関健介)がギクリとしているところをカメラが拾う。
かなりの緊迫感。
日本語通訳のできる人物らしいジョナサン・メイ(MONKEY MAJIKのブレイズ・プラント)が鴨居に手をかけてふてぶてしさを出し、ダンダン叩いて緊張感を煽る。
源ちゃんも大泣き。

ところが……


この回の妙味は、「なにもかもが順調」「ところが……」でいきなりヘヴィなGHQを出さないこと。
まずは鈴(松坂慶子)がまたまた面倒くさいことを言い出すエピソードを書く。
真一さんが萬平の会社に入ることになって社員が集まったところで挨拶。
すると、鈴がもう私は経理の仕事をもうしないでいいのと拗ね、みんなが慌てて彼女を「特別顧問」と持ち上げる。

鈴は何かしら常に文句を言うキャラとして定着しているので、事前に彼女に真一さんを経理に迎えようと思うなどと相談しようがしまいが文句を言うだろう。だから、みんなのいる前で場の空気を乱す役割として描くのが最適だ。
萬平も福子もいつだって事前に鈴に相談しないで決めてしまうんだなあと、鈴に対して同情も沸く。

なんとか鈴を丸め込んですべて順調かと思ったら「ところが……」。
「特別顧問」となって満足したかと思えば、「ただの飯炊き女になってしまったわ」とまた愚痴りだす鈴。

これが「ところが……」の問題かと油断していると、あとからもっと大きな問題(GHQ)が起こってしまうという寸法。
10週ではまた萬平さんがおいつめられるかと思うと、楽しみやら、心配やら……。

なぜ、ダネイホンか


ダネイホンの存在意義を三田村(橋爪功)が語る。
同級生に裁判官だった男が正義感の塊で、闇業者から食べ物を買うことを拒んで餓死してしまった。
あの時ダネイホンがあったら彼は死なずに済んだかもしれない。と振り返り、世良にダネイホンを日本中に売れと命じる。
この話で、萬平が憲兵に拷問にあったとき、ハンガーストライキをしたことを思い出した視聴者もいるだろう。

私も思い出した。
萬平は福子のためにまずい飯を食べても生き延びることにした。
そうやって生き延び、伴侶を得て幸福に生活している人間が苦しんでいる人のために力を尽くす。いい話である。
ただ、己の正義感を貫くために食べないというエピソードが「まんぷく」には多い気がしないでない。忠彦(要潤)や萬平が仕事のために食べないという描写もあった。

「生きることは食べること」は朝ドラ13年後期「ごちそうさん」のテーマで、ほかの朝ドラにも時々その手のセリフが出てくる。これが特別なテーマというわけではなく普遍的なものだからこそ、どう描くかがその作品の肝であり、「まんぷく」では、萬平が、生きるために食べるために誰もが手軽に摂取できるものを生み出そうと奮闘する。
それがやがてインスタントラーメンになるわけだ。
確かに、お湯をかけて3分でできる、比較的安価なインスタントラーメンのおかげで、仕事が忙しい合間にそれを食べて助かっている人は多い。長いこと続いている朝ドラレビューも何度インスタントラーメンに助けられたことか。
ドラマは着々とインスタントラーメンへの道を歩んでいる。


餓死した裁判官は実際にいた。


三田村が語った、闇市の食料を食べずに餓死した裁判官は実在した。
山口良忠判事で、このドラマの目下の時代設定昭和22年に栄養失調で亡くなっている。三田村の同級生というには山口判事は三十代と若いので、「まんぷく」ではあくまでモチーフにしているのだろう。
この事件、朝ドラ12年「梅ちゃん先生」第7週40〜42話で取り上げられている。
主人公・梅子(堀北真希)の父(高橋克実)がこの事件を新聞で読んで影響され、配給のものしか口にしないことにする。当然栄養が足りなくなるので家族は心配するが意地を張り続けるお父さんに長男(小出恵介)が家族や患者(お父さんは医者)のために食べて健康であるべきと説き伏せる。
長男は家出して、お父さんの弟(鶴見辰吾)のところで厄介になっていて、このふたりが闇商売に関わっていた。この時代、闇商売が生きるために必要悪であった(梅ちゃんたちの食事も闇市で買ったもので成り立っている)ことがベースに描かれている中でのお父さんの葛藤が興味深い。
しかも、説得しに来た長男はおりしも、結婚を考えていた女性が別の男の愛人になろうとしていて苦悩している。梅子は父が食べないものだから食欲が次第になくなっていくとはいえ、この状況を傍観しながら、彼女自身は同級生(高橋光臣)と不器用ながらほのかな心の交流が行われはじめ(ふたりの噛み合わなさが面白い)、幼馴染(松岡桃李)はそれをちょっと気にしている。彼女の学校では「ロミオとジュリエット」の上演が準備中(朝ドラ名バイプレイヤーの徳永えりがジュリエット役をねらってセリフをみごとに演じる場面も)と、エピソードがてんこもりで、脚本家の尾崎将也は、生きるために泥水を飲むことを強いられている人々も含め、登場人物のそれぞれの生の欲望が生き生きと描き出し、優れた群像劇をつくりあげている。

「梅ちゃん〜」の制作統括・岩谷可奈子は「まんぷく」の脚本家・福田靖の大河ドラマ「龍馬伝」の制作統括でもあった。また「梅ちゃん〜」と「まんぷく」の音楽が偶然にも共に川井憲次である。

また、立花萬平がモデルにしている安藤百福は03年後期「てるてる家族」第4週24話の終わりから第5週25〜30話にかけて安西千吉(中村梅雀)として登場している。25話のオープニングでは「資料提供 安藤百福」のクレジットあり。
少女時代の秋子が、母が上の姉ふたりばかりを可愛がり、下の冬子と自分にはちっともかまってくれないことを寂しく思っている時、千吉と出会う。彼は即席ラーメンを開発中で、完成あと一歩のところ、麺の乾燥法に悩んでいた。秋子は家出して即席ラーメン開発に協力、ついに完成をみる。
「てるてる」では「千」で萬平が「万」と意識を感じるネーミング。
「まんぷく」は朝ドラ100作に向けて、過去作品の超ハイブリッドという印象がある。過去作とのつながりを探すことも楽しみのひとつだ。
(イラストと文/木俣冬)

連続テレビ小説「まんぷく」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

今日の咲姉ちゃん


「真一さんに優しくしないと私はもう出てこないわよ」
久しぶりに鈴の枕元に出てきた咲(内田有紀)は、高瀬アナ待望(?)のいわゆる黒咲で、メイクが濃い目(チーク濃い目)でしゃべり方も違う。

朝夕、本放送も再放送も オールBK制作朝ドラ


「べっぴんさん」 BS プレミアムで月〜土、朝7時15分から再放送中。
レビューでは、大急のモデルについて書いています。
54話

「あさが来た」 月〜金 総合夕方4時20分〜2話ずつ再放送
土曜はお休み