近未来、魔王ルシフェルが復活したら世界は滅びる。それを救えるのは大天使ミカエルだけ。

という設定が物語のベースにあると聞けば、福士誠治、綾野剛、どっちが天使でどっちが悪魔なの〜? ふたりとも切れ長の眼だし、ポーカーフェイスだし、どっちでも似合いそう〜って勝手に妄想が肥大化してしまったわけですが、
ふたりは人間。そしてバンド仲間という設定です。

「サイケデリック・ペイン」は、天使と名乗る謎の少女ソフィに、福士誠治演じる詩音(しおん)が「救世主」だと言われて闘いに巻き込まれていくのを、綾野剛演じる魁人(かいと)が
心配して……というお話。

謎あり、アクションあり、友情、恋あり。笑いもあり。
生演奏もあります。
ロックオペラですから、ここ重要です。
詩音(福士)と魁人(綾野)が所属するバンド「サイケデリック・ペイン」が劇中、ちゃんと演奏していて、それが物語や登場人物の感情に大きく関係してくるのです。
ボーカルは福士誠治、ギターが綾野剛。
え、でも、この人たち俳優でしょ? 
綾野剛は映画「シュアリー・サムデイ」でもギター弾いていたし、朝ドラ「カーネーション」では三味線弾いてたけれど・・・。
福士誠治は、ミュージカル「RENT」で主演しているし、朝ドラ「純情きらり」でピアノ弾いてて、ドラマ「のだめカンタービレ」でオーボエ吹いてたけれど、のだめでは「いぶし銀の魅力」キャラだったしなあ……って、はじまる前は懐疑的だったのですが……。
結果的に彼らの力にヤラレました。


いやあ、福士、綾野はすごいね。
共に朝ドラ(福士「純情きらり」、綾野「カーネーション」)で人気を得た朝ドラ男子ですが、人気が出るのも無理はないと、本人たちの才能に惜しげもなく拍手しました。ちなみにバンドのキーボード担当役の内田朝陽も朝ドラ男子でした(「どんど晴れ」)。
音楽もやれて芝居もできることは、ロック・オペラに出るのだから当たり前の条件でしょうけれど、最近は、歌や演奏がうまくない人もミュージカルに出るし、うまくなくても芝居だってやっちゃう自由な世の中です(チクリ)。
まあ、プロの目から見たらいろいろ気になることもあるでしょうが、細かいとこは抜きで、しっかり世界に入り込ませてくれました。
綾野は、できちゃうものだから当初の予定曲数より、演奏曲が増えたそうですよ。


なんといっても音楽が布袋寅泰。これはもう、座って聴いているのは罰が当たるというものです。ポップな曲からゴリゴリなロックやラブバラードまで多彩です。歌は全部で21曲あります。

演出は、ロックを使った演劇で人気ロードを爆走し続ける劇団☆新感線のいのうえひでのりなので、一秒の隙もなく音と芝居が積み重ねながら疾走していきます。ハデな見せ場もドッカンドッカンいっぱい。


作詞は「キン肉マン」や「ドラゴンボール」のゴッキゲンな主題歌も手掛けている作詞家・森雪之丞で、いいフレーズがいっぱい。森は今回脚本も書いていて、それまた詩的な台詞がちょくちょく出てくるんです。
今回のこの作品、森たっての企画で生まれたもので、雪之丞一座名義。
そういや、私、彼のやっていた、マイティオペラのLPもっていましたけど、あれもシアトリカルなグループだったし、シアトリカルなことがお好きなのでしょうかしらん。

福士がソフィへの愛を唄う歌がキュンもの。ウィスパー気味な高音が美しいのであります。

ロッカーだけど誠実系な雰囲気を残す福士に対して、魁人はワイルドにギター(ギブソンのレスポールではなくフジケンのNCLS10Rでした)をかき鳴らしてる姿が雄々しい。腰にぐっと力をこめ、無表情で首を固定し、時に頭をガンガン振りまくる演奏スタイルがパワフル。
布袋にも似てるような気がするし、久々のロン毛姿は、どことなく中川勝彦(しょこたんのお父さん)にも似ている気がしました。

ふたりの名前(誠治と剛)は体を表しているかのようで、まったく違ったキャラなのですが、共通点も見つけました。
意外と俳優としてはリズム隊的な部分があること。とってもしっかりリズムキープしている、要するに軸があるってことです。
フラフラしてないから芝居が安心して見られるし、こうグーッと気を集中させて、ワッと放射できる(カメハメ波をイメージしてみてください)んだなあと思いました。
その力が、歌を客席に伝える、この舞台にはとっても有効のようですし、
物語の中で生きることに迷う近未来の人たちの心の揺らぎに対して、圧倒的な信念みたいなものをかざしてくれて、目が離せません。凝視です、凝視。演奏姿にロックオンです。

福士誠治はボーカル役として、客席全部を見通す広い視野と、客席の心をコントロールできるリーダー的資質を発揮したし、
特に綾野剛は、映像ではいつもどこかもて余しているように見える狂気めいた強いパワーを、この舞台で出し切った感じがします。なぜか平成ライダーの名残を見せてるようなとこも(「仮面ライダー555」がデビュー作)。

この質量は、テレビの画面やスクリーン、ネットからでは決して伝わりません。本人のエネルギーと現時点の能力という目に見えないものを全身で感じることができるのは舞台だけ!!(力説)

天使ソフィは北乃きい。コスプレヤーみたいな衣裳に身を包みながら、追っ手を次々倒していくアクションのキレがいい。さすが映画「ラブファイト」でボクシング、同じく映画「武士道シックスティーン」で剣道と、運動神経の良さを誇ってきただけはあります。

劇団☆新感線からは、橋本じゅんと右近健一と中谷さとみが参加。
彼らが出て来ると舞台が沸きます。全身を使って遠くまで届かせる力量がハンパない。とかいうより、とにかくおかしい。
橋本演じるあやしげなDr.鏡の助手役を演じる菅原永二(元・猫のホテル)と橋本のコンビはかなり笑かしてくれます。
それから、忘れてはならないのが照明。原田保による照明は攻撃的なほどまぶしく、かっこいいです。いや、ほんと、照明、やばいです。開幕前からやばい。演劇じゃない、ライブって感じです。

スペクタクルな映像もLEDで作ってあってピッカピカ。節電はどーなってんだ?と心配になりますが、電気代が安いらしいLEDだからダイジョーブってことなんでしょうか。
いやいや、演劇は祝祭だからいいんですよね。

ロックは世界を救う、と言いますが、演劇も世界を救う。
ロックと演劇の力に打ち負かされて、カーテンコールでは立ち上がって踊っちゃいました(ほかのお客さんたちは、もっと早くに立ち上がって踊っていました)。
滅多に買わないサントラCDも帰りに買っちゃいました。

ステージからパワーをガンガンと照射してもらって、
立ち上がれ。盛り上がれ。そんでもって自分の中の天使も悪魔も降臨させちゃって無敵になるのだッ。
(木俣冬)