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「二刀流・大谷翔平」を育てた栗山英樹の常識に縛られない監督術

2018年5月23日 16時55分

ライター情報:死亡遊戯


「今日の大谷は何番?」「先発登板でどんな投球をした?」

こんな感じで早朝からメジャーリーグを見るのは何年ぶりだろうか。20数年前、野茂英雄の奪三振ショーで世の中は盛り上がったし、21世紀初頭には毎日試合に出る野手のイチローや松井秀喜のプレーを通じてMLBの凄さを知った人も多いと思う。甲子園のヒーロー松坂大輔のポスティングは社会的ニュースになった。けど、最近は日本の野球ファンもスター選手のメジャー移籍に慣れてきていたのは確かだ。日本のスーパーエースならある程度の結果は残せるだろう的な雰囲気。それが、大谷のロサンゼルス・エンゼルス移籍で、「未知への挑戦感」を久々に味わっている。しかも、今度は日本だけでなく世界中の野球ファンにとってほぼ初めてリアルタイムで目撃する、世界最高峰のMLBを舞台にした“二刀流”挑戦だ。

今回はその大谷の日本時代を深く知るために、北海道で5年間にわたり二刀流を完成に近付けようと試行錯誤を繰り返していた指揮官、日本ハム・栗山英樹の著書『「最高のチーム」の作り方』(KKベストセラーズ)を紹介しよう。この本は大谷が史上初の投手と指名打者でのベストナインを受賞した2016年シーズンを振り返ったもので、やはり二人三脚でNPBを駆け抜けた栗山監督が語る大谷エピソードは非常に面白い。
画像出典:Googleブックス『「最高のチーム」の作り方


伝説の「1番・ピッチャー」の舞台裏


例えば、16年7月3日ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)で大谷を「1番・ピッチャー」で起用した試合前、栗山監督は本人を呼んでこう話したという。
「オレも翔平も、負けたら相当批判されるからな」
すると何も答えず「分かってますから」という様子で部屋を出て行った背番号11は、プレイポール直後、先頭打者初球ホームランを放ってみせる。しかも、スタンドインを確信すると、走るスピードを極端に落としゆっくりとホームまで帰ってきた。1回裏のマウンドに向け、少しでも体力の消耗を避けるためだ。球場やテレビの前のファンが「まるで漫画!」と興奮しているなか、その世界の中心にいる男は一人だけ冷静だったのである。ちなみに大谷を1番起用した理由を栗山監督は「打順が何番にせよ、ネクストバッターズサークルで待たせるくらいなら、先に打たせて、投手の準備をさせる方が逆に楽だろう」と振り返っているが、どれだけ球界OBから批難されても心折れなかった、常識に縛られない思考があの伝説の試合をアシストしていたのである。

優勝マジック1で迎えた16年9月28日の西武戦(現メットライフドーム)、大谷は1安打15K完封勝利でチームをリーグ優勝に導き、人々はあの投球を「神がかっていた」と評したが、栗山監督に言わせれば「これが大谷翔平」だった。プロの世界でも、大谷が大谷らしいピッチングをすれば誰も打てやしない。指揮官はそれだけ規格外の才能だと大谷を誰より認め、信じ、時に突き放し、育て上げたのである。もちろん日本ハム球団が掲げた育成方針の勝利でもあるが、現場でそれをやり切った栗山監督もたいしたものだ。

ソフトバンクと戦ったクライマックスシリーズ第5戦では、勝てば日本シリーズ進出という状況において、3番DHでスタメン出場していた大谷は、試合中盤にベンチ裏のトイレから出てきた際に栗山監督と目が合う。そこで大谷は声には出さないが「いつでもいけますよ~」的な空気を出してきたという。そしてボス栗山も「面倒くさいやつだなぁ~」的な雰囲気で対抗する。いやいや付き合いたての高校生カップルじゃないんだからと突っ込みたくなる阿吽の呼吸で、背番号11は3点差の9回表にマウンドに上がり、NPB最速を更新する165キロを投げてみせるのだ。


偉大なOBと現役プロ選手の言葉にある違い


プロ入り直後は、多くの大御所の野球評論家から「無謀」「プロ野球を甘く見るな」なんて批判された二刀流プラン。あの当時の喧噪を振り返ると、数年前に新日本プロレスの“100年に1人の逸材”棚橋弘至インタビューを収録した際に聞いた言葉を思い出す。
「プロレス界の過去の偉大な選手の言葉にはもちろん耳を傾けなきゃいけない。けど、時間が止まっちゃってる部分がどうしてもあるな、と。野球も同じで、今、現役のプロ野球選手が言う言葉こそ、一番説得力があると思います」
2000安打や200勝した名プレーヤーたちは確かに偉大だ。けど、今日も明日も現在進行形でグラウンドで戦う選手や監督のプレーや言葉にこそ圧倒的なリアリティがある。

さて、そんな栗山英樹と大谷翔平の物語や野球観を語るうえで外せないのが、16年日本一を決めた翌日のスポーツ新聞に掲載された栗山監督から大谷への一通の手紙……だが、その内容と背景はぜひ実際に本を手に取って確認してほしい。

そう遠くない未来、名実ともに大谷翔平が世界一の野球選手になった時、栗山英樹が自身の著書でどんな想いを書き綴るのか今から楽しみである。


【プロ野球から学ぶ社会人に役立つ教え】
先人たちは偉大だ。だが時に「過去」や「常識」を疑え。

ライター情報: 死亡遊戯

79年生まれ。デザイナー兼ライター。プロ野球、プロレス、サッカー、映画、おネエちゃん、なんでも書くストロングスタイルを標榜。『文春野球コラムペナントレース2017』で初代日本一に輝く。

URL:Twitter:@shibouyuugi