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「過激化した非モテ男性」という日本社会の新たなリスク

2018年7月6日 11時50分

ライター情報:勝部元気

写真はイメージ

駿河台大学准教授の八田真行氏が書いた『現在ビジネス』の「凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む『非モテの過激化』という大問題」という記事が、インターネット上で俄かにヒットしています。

記事によると、近年アメリカで凶悪な銃撃事件が多発していることは日本でも報道されていますが、これらの事件を引き起こす犯人たちの間には、「インセル」という共通のアイデンティティーがあったことがアメリカで話題となっているようです。

「インセル」(Incel)とはInvoluntary celibateの略で、八田氏は「非自発的禁欲」と訳しています。つまり、本当はSEXしたいのにSEXする相手がいないから、不本意に禁欲状態にあるという意味のようです。

このインセルという言葉は、2014年5月にカリフォルニア州で大量殺人を起こしたエリオット・ロジャーが、声明の中で自らをインセルと規定し、自分とSEXをしない女性たちへの復讐を声高に謳ったことが発端で広まったとのこと。その後も凶悪犯たちが同様に非モテを理由に犯行に及び、中にはエリオット・ロジャーを英雄視する者もいたことで、個人の問題ではなく社会的な問題だと認識されたようです。

テロを起こす過激思想と言えば「イスラム過激派」という印象を持つ人も多いと思いますが、アメリカ社会においては、今やインセルこそが最も危険なテロリズムだと言っても過言ではない状況にあるようなのです。

非モテメンタルミソジニストの心理を読み解く


これは決して対岸の火事ではありません。日本も状況は全く同じです。Twitterにも、八田氏の記事を引用しつつ、「(インセルは)完全に我々界隈と思考が一緒」と述べていた匿名のアルファアカウント(※フォロワー数約10,000人以上の影響力のあるアカウントのこと)がいましたが、インセルと精神構造を同じくする層が日本でも確実に大きな勢力となって来ています。

日本だと彼等は、「非モテ男性」「弱者男性」「キモカネ(「キモくて金のないおっさん」の略)」を自称しています。「オタク」という属性も合わせ持ち、それを自称していることが多いようです。これらの“自称”という点が特徴的で、他の誰かによってレッテル張りされているわけではなく、自分で自らのアイデンティティーを「非モテ」と規定しているのです。

そもそも何を持って「モテ」と「非モテ」を分類するかは人によって見解が分かれるものですから、性別や人種のようなデモグラフィック(人口統計学的)属性とは異なり、かなり主観的な判断に立脚したサイコグラフィック(心理的)属性と言えるでしょう。ですので、ここではメンタルに焦点を当てて、便宜上彼等のことを「非モテメンタルミソジニスト」と呼ぶことにします(※ミソジニスト=女性差別主義者)。

このように、彼等は自分が「非モテ」を代表するような言い方をしますが、単なる「非モテ」とは違います。特徴を列挙するならば、(1)強烈なミソジニー(女性嫌悪)を抱え、(2)女性にモテない自分は被害者or社会的弱者だと思い込み、(3)ネット上の「manosphere(≒オトコ村)」に生息して仲間内でそれらの強化し、(4)女性やフェミニズムの進む社会を敵視する、という4つを備えている人たちです。正確に定義するならば、「女性嫌悪的かつ被害妄想的な非モテメンタリティーを抱えた男性」というのが適切でしょうか。


自称非モテ男たちはモテたいと思っていない


それから、彼等は「非モテ」と言う割に、実はモテたいとは思っていません。もし本当にモテたいのであれば、見た目やキャッチボール的コミュニケーション能力を磨けば良いと思うのですが、それは全くしないのですから。

ミソジニーを抱えている彼等にとって、恋愛やSEXは女性を支配する手段でしかないため、相手の好意という感情には一切興味が無く、結果だけを求めるのです。また、憎き女性のニーズに応えることを「屈辱的なこと」と解しているため、「ありのままの僕を愛してくれなければ嫌だ」となるのだと思います。実に、利己的ですね。

石原さとみさん交際報道の記事でも指摘しましたが、彼等が本当に望んでいるのは、恋愛やSEXそのものではなくて、それらを無条件に獲得できる(と誤解している)「男社会カーストでの高い地位」に過ぎません。女性を叩いては恋愛やSEXができる機会を自ら木っ端微塵に破壊しているのは、そのような心理にあるからでしょう。

自称非モテとナンパ師は同じ穴の狢


そして、「非モテメンタルミソジニスト」は、必ずしも一般的な意味での「非モテ(恋愛経験や性的経験が無いか極度に少ない)」とは一致しない人たちもいます。たとえば、法律婚のパートナーがいても、過去の「非モテ」というアイデンティティーが強過ぎて、抜けきれない人がたくさんいるのです。

ナンパ師も同様です。先述の記事で八田氏は、インセルとピックアップアーティスト(ナンパを女性と知り合うための手段ではなく、ただ肉体関係を多くの女性と重ねることだけを目的にしている、自己啓発的なナンパをする男性のこと)は、強烈なミソジニーと低い自己効力感という2点において同じ穴の狢だと指摘していました。

これはまさに私が日本のナンパ術「恋愛工学」について散々「自己肯定感が低い」と指摘して来た日本の問題と全く同じです。(※恋愛工学の問題に関しては、書籍や過去記事noteの記事(一部無料)をご覧ください)

ライター情報: 勝部元気

株式会社リプロエージェント代表取締役社長。社会派コラムニスト。1983年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。専門はジェンダー論や現代社会論等。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。著書『恋愛氷河期』(扶桑社)。所有する資格数は66個。