7月1日、バングラデシュの首都ダッカで発生したテロ事件で、邦人7名の命が奪われた。イスラム国(IS)は「イタリア人を含む十字軍22名を殺害」したとの犯行声明を出している。

ISの具体的関与の程度はまだはっきりとはしないが、惨劇の舞台となったレストランは、富裕層が多く住むエリアにあり、主に外国人や外交官が利用することで知られていた。日本大使館や日本人学校も近く、経営者のバングラデシュ人は他にも日本食料理店を経営していたという。

 とくに、襲撃のさなか、邦人が犯行グループに「私は日本人です、撃たないでくれ」と懇願していたという目撃情報は注目すべきだろう。元外交官の孫崎享氏は2日、報道内容を引用しつつツイッターにこう投稿した。

〈ダッカ事件「英語で"私は日本人だ"と叫ぶ40歳代ぐらいの男性1人が、男達に店内へ連れ込まれたのも見た"と話した」。残念ながら日本人なら無害は過去の話。
IS「アベよ、戦いに参加するというおまえの無謀な決断でこのナイフはケンジを殺すだけでなく、おまえの国民を場所を問わずに殺戮する」〉(原文ママ)

 このツイートがネット右翼に目をつけられ、〈テロリストの仲間だな、テロリストの言い分を真に受けている時点で〉〈コーランを唱えられるかどうかで選別されてんのにてめぇは何言ってんだ?この売国ゴミが〉などと炎上しているのだが、しかし、「日本人」がISに狙われているのはれっきとした事実だ。

 実際、2014年から15年にかけてのIS人質殺害事件では、ISによる殺害予告動画の公開直前、安倍首相は湯川遥菜さん、後藤健二さんの二人が捉えられていることを知っていながら、エジプト・カイロの演説で「ISILと闘う周辺各国に総額で2億ドル程度、支援をお約束します」とぶちあげた。この不用意な発言を利用されたわけだが、孫崎氏も述べているように、ISは15年2月の後藤さん殺害を示す動画のなかでも「場所を問わずに日本人を殺戮する」と宣言している。今後も、日本人が海外でテロの犠牲になる可能性は高いのだ。

 さらに、今回、殺害された7人の邦人は、いずれもインフラ整備のためJICA(国際協力機構)の事業でダッカに赴いた関係者だったと報じられている。マスコミはODA(政府開発援助)に従事した人々が犠牲になったことについて「日本のバングラデシュに対する経済支援は世界一。
現地の人々のために尽力していたのに悲劇だ」という論調一色だが、これからは「経済支援しているから大丈夫」などは言ってはいられなくなる。もちろん、今回のテロ被害者には何の罪もないが、しかし、第二次安倍政権以降、ODAの性質が変貌したせいで、むしろ、テロの標的になるリスクが高まっているのだ。

「積極的平和主義」を掲げる安倍政権は民主党政権時代と比べて大幅にODAの支出を増額しているが、実は、JICAの事業の発注先のほとんどは日本企業。円借款で行う事業も受注先を日本企業に限定する"条件付き援助"が増えていると言われる。

 事実、安倍政権が今年の伊勢志摩サミットに先駆けて発表した「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」には、インフラ輸出の目的として〈日本企業の受注・参入を一層後押しするため、今後5年間の目標として、インフラ分野に対して約 2,000 億ドルの資金等を供給する〉と明記されている。つまり、安倍政権によるODAは経団連に名を連ねるような日本の大企業への利益還元の仕組みの一環なのだ。


 世界各地で頻発するテロの根本には、 グローバル化した市場原理による経済的不平等のなかで、貧困層の若者のフラストレーションが宗教的原理主義へと結びついているという指摘がなされる。その点で言えば、安倍政権が推し進めるODAは、まさに支配者層における富のサイクルでしかなく、欧米先進国と同様に、テロリストから見れば「日本人」もまた打倒すべき「支配者」となる。そう、現実は、「日本はODAで頑張っているから大丈夫」というなんとなくの安心感とは皮肉にも真逆なのだ。

 さらに言えば、JICAという組織は、昨年理事長に就任した政治学者・北岡伸一氏にしても前任の田中明彦氏にしても、安倍政権の安全保障などタカ派政策にお墨付きを与えてきた学者であり、安倍政権の方針を右から左に実現するような体制となっている。安倍政権は昨年、ODAの基本方針を定めた「開発協力大綱」を11年ぶりに見直し、これまで認められていなかった他国軍への援助を可能にした。表向きは「非軍事分野に限る」としているものの、実際には援助した資金をその国の政府に軍事転用されると懸念されており、これも反政府系過激派から見れば「日本」という国による自分たちへの軍事敵対行動だ。
テロの対象とならないわけがない。

 ようするに、安全保障上の利益や日本企業への利益還元を優先する安倍政権のODA政策は、海外で実際に貧困支援などに従事する邦人を、かえってテロの危険にさらす結果になっているのだ。

 しかし、今回のダッカ人質殺害事件が発生し、今後も海外で邦人が標的にされることが明らかな状況にもかかわらず、当の政権は自国民の命などどうでもよく、頭のなかは選挙一色らしい。

 菅義偉官房長官は事件発生直後の2日、接戦と見られている新潟へ応援演説に向かい、人質事件については一言も触れなかった。さらに、安倍首相の代わりに北海道入りした高村正彦副総裁に至っては、応援演説で「(安倍首相が来ることができず)アイアムソーリ(すみません)、アイムノットソーリ(総理ではありませんが)」などと信じられないオヤジギャグを披露した。こういうまったく危機感のかけらもない政権中枢の様子はもはや背筋が凍るようだが、しかし、これが安倍自民党の本性なのだろう。


 日本を"戦争のできる国"にしたいがために、海外の邦人をテロの危険にさらしてもなお、平気な顔でいる安倍政権。「テロには決して屈さない」などと勇ましい言葉を空虚に繰り返す安倍政権のデタラメな政策を、わたしたちは冷静に見つめなおす必要がある。
(宮島みつや)