民進党の蓮舫代表に対し戸籍公開を要求するという、とんでもない差別が公然と行われている。それもネトウヨの戯言などでなく、当の民進党の国会議員までが公言しているというのは、信じ難く許されない事態だ。
この問題について、反ヘイト・反差別の活動に長く携わってきた同党の有田芳生議員からの緊急寄稿を以下に掲載する。
(編集部)
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問題の発端は7月11日だった。この日、民進党は国会議員を対象に都議選を総括するブロック会議の1回目を行った。全国をブロックにわけて行われるもので、18日まで断続的に開かれる。ちなみに私が出席した東京選出議員の会議は14日に終った。民進党の都議選での当選は5人。
〈民進・都議選総括会議(非公開)の主な発言「蓮舫代表は都議選の得票率が低かったところから衆院選に」「党執行部刷新を」〉
わざわざ「非公開」を強調しているところに記者の誇らしさが表れている。会議の内容を知るために「壁耳」(かべみみ)という方法が通常は行われている。会議が行われている部屋に記者が耳をつけて、内部で行われている話し合いの内容を聴くのだ。
もう2つ方法がある。出席した議員から話を聞くことだ。これがもっとも当たり前の取材だ。
産経の記事には、中国地方選出議員がこう発言としたとある。
「蓮舫氏の『二重国籍』問題は党最大の障害だ」
都議選で敗北した原因が、あたかも蓮舫代表の「二重国籍問題」だったかのように産経新聞だけではなく報じられ、広がっていった。
この議員が都議選でどんな応援を行っていたかを私は知らない。
この問題が浮上してから、何人かの区議、都議に問うても「そんなことはまったくありませんでした」という答えが戻ってきた。もちろん日常活動のなかで「二重国籍問題」を聞かれた議員がいることは事実だ。しかし民進党の都議選敗北の「最大の障害」であるとする認識は、まったくの虚偽である。
報道ではこの会議で蓮舫代表が「戸籍抄本を提出する」とも報じられた。これに触発されたのだろう。
さらにいえば、いまも続く被差別部落出身者への差別では、社会問題として厳しく批判された「部落地名総鑑事件」(1975年)の教訓から、企業が採用選考のとき、応募者に戸籍の提出や本籍地の確認を求めることが禁止されるようになった。蓮舫代表に戸籍の開示を求めることは、こうした人権擁護の歴史に真っ向から反するものだ。
そもそも問題の出発点からしておかしい。
日本は昭和59(1984)年までは父系血統主義だった。父親が外国籍ならば、母親が日本籍であっても、子供は日本籍を取得することはできなかった。政府は男女差別撤廃条約を批准する必要から、国籍法を改正して、父親が外国籍であっても生れたときから子供が日本国籍を取得することができるようになった。国籍法と戸籍法を見ていただきたい。国籍法第14条2項には22歳までに「日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言」をすれば、日本国籍を取得できるのである。法務省から提出していただいた「国籍選択届」とそれが受理されたときの戸籍の見本を紹介しておく。
「戸籍を公開せよ」と声高に叫んでも、そこに記されているのは「身分事項」に「国籍選択の宣言日」があるだけである。
ただし日本で「国籍選択」を宣言しても、もともとの外国籍を抜くためにはその手続きを該当国と交渉して行う必要がある。蓮舫代表が公開するのは、日本戸籍そのものではなく台湾籍がないことを証明する資料(あるいはその部分)だと思われる。ブラジルやペルーは二重国籍を解決するのは難しく、いま日本でも60万人を超える「二重国籍」者がいる(法務省は正確には把握できていないとする)と推計されるのは、国際的に複雑な事情があるからである。
戸籍とは日本人であることを証明する書類である。繰り返すがここがポイントである。蓮舫代表に―─最初に問題が指摘されてから説明が二転三転した対応に問題はあったが―─何ら疑惑といわれるような実体などなかったのである。「二重国籍」といえば島国ニッポンでは言葉のニュアンスからして違和感を持つ人もいるだろう。昨年9月の代表選で問題とされたのは、そこにつけ入っての政治的攻撃の要素が高かったといえよう。それが都議選総括の場で党内から再び問題が蒸し返され、メディアが再び拡大したという構図である。
「説明責任」と称して戸籍を公開せよと要求することは、人間にとってもっともセンシティブな人権を蹂躙することにほかならない。言葉をかえれば、そうした言動は人類が営々と取り組んできた人権擁護の歴史に逆行することなのだ。
一連の報道を受けて13日に定例記者会見に臨んだ蓮舫代表は、18日に戸籍ではなく国籍離脱を証明する書類を公開するとしてこう語った。
「差別主義者・排外主義者に言われてそれを公開するようなことが絶対にあってはいけない、といまなお思っている。前例としてはいけないとも思っている」
ことは民進党の蓮舫代表だけの問題ではない。日本のなかで苦難の歴史を背負ってきた外国をルーツとするひとたち、被差別部落出身のひとたちなど、差別に直面し、それに抗する気高い精神と到達点を保持し、さらに前へと進めていくための重要な課題なのである。
(有田芳生)