91

テレ朝女性記者による告発は、ジャーナリストとしてまっとうな行為だ

2018年4月23日 12時30分

 財務省・福田淳一事務次官のセクハラ疑惑が、ひどいことになっている。被害を訴え、『週刊新潮』に情報提供したとされる女性記者の名前や写真がネット上で暴露され、批判され、事実に基づかない誹謗中傷まで飛び交っているのだ。被害者が新たな被害にさらされているうえ、このような二次被害を恐れて、今後、セクハラ被害の申し立てを尻込みする人が増えるのではないかとも懸念される。


■最初の批判はテレ朝の会見の中だった

 最初に彼女の批判がなされたのは、こともあろうにテレビ朝日の記者会見の中でだった。同社は、「当社社員が取材活動で得た情報を第三者に渡したことは報道機関として不適切な行為であり、当社として遺憾に思っています」との見解を示し、女性社員も反省していると述べた。


 一方で同社は、録音は「自らの身を守るため」に行ったものとも言っている。第三者の目撃者もいない状況で行われるセクハラは、証拠がなければ、加害者が否認した場合には被害が認められず、うやむやにされてしまう。今回も、福田次官や麻生財務相は、音声データの一部が公表された後でも、女性の声を含めた全てが公表されていないとして、セクハラの事実を認めない。録音データなしに被害を訴えても、まったく相手にされなかったろう。


 今回の件は、女性記者が相談した上司が、自局では報道できないと1人で判断し、財務省への抗議もしていないなど、会社側の責任は重い。テレ朝は、音声データという証拠がありながら、適切に対応できず、彼女がそれを第三者(週刊新潮)に提供する状況を作った会社の非をもっぱら反省すべきであって、彼女の行為を批判できる立場ではない。


■「報道倫理」に触れると問題視する声もある

 この記者会見の質疑やその後の報道で、女性記者が相手の同意を得ずに録音していたことや、それを他社に提供したことを、「報道倫理」に触れるとして、ことさら問題視する報道機関もある。


 その筆頭が読売新聞だ。テレ朝の会見を報じた4月19日付朝刊の社会面では、〈テレ朝「録音提供 不適切」〉の見出しで、「識者からは今後の取材活動への影響を懸念する声も上がっている」と書いた。記事の趣旨に沿ったコメントを寄せている「報道倫理に詳しい元共同通信記者の春名幹男・元早大客員教授」は、テレ朝の対応を批判する中でこんな発言もしている。


「音声データが週刊誌に提供されたことで、結果的にセクハラという人権上の問題が興味本位に扱われた面があったことは残念だ」


 いったい、今回の問題を報じた週刊新潮の記事の、どこが「セクハラという人権上の問題」を「興味本位に」扱っていると言うのだろうか。


 確かに、週刊誌が著名人の不倫などのスキャンダルを、「興味本位に」扱う傾向はある。関係者の人権への配慮が足りない、と感じる記事にもしばしば出会う。その一方で、新聞やテレビが切り込むことができずにいた様々な政治や社会の問題を、週刊誌が果敢に掘り起こしてきたのも事実だ。


オウム真理教の問題を粘り強く報じたのは週刊誌だった

 私が関わったオウム真理教の問題では、新聞やテレビがほとんど伝えない中、粘り強く報じたのは『週刊文春』や当時の『フォーカス』(新潮社)などの週刊誌媒体だった。ちなみに、週刊新潮の現在の編集長宮本太一氏は、同社の週刊誌でオウム問題を地道に取材してきた腕利きの記者であり編集者である。


 その週刊新潮は、安倍首相と近しい男性ジャーナリストから性被害を受けた、という女性ジャーナリストの訴えを取り上げ、逮捕状まで出ていたのに、執行直前で警察の捜査が突如止まった経緯も詳細に報じた。それもあって、女性記者は同誌を情報提供先に選んだのではないか。


 政治家の問題などは、週刊誌の報道を新聞が後追いすることも多い。それをよそに、週刊誌=「人権上の問題を興味本位に扱う」イメージを識者コメントで強調し、今回の記事の評価を貶める手法はアンフェアだ。


 読売新聞は19日付夕刊でも、週刊新潮への音声データ提供を批判的に報じた。記事には、TBSが坂本堤弁護士のインタビュー映像を放送前にオウム真理教幹部に見せたケースなど、他メディアの5つの事例を表にして、「取材情報を第三者に提供した過去の事例」として添付している。


■同じように悪質なものだという印象を与えたいのか

 読売新聞は、自分たちが何を報じているのか分かっているのだろうか?


 今回は、自社では適切に対応してもらえなかったセクハラ被害者が、報道目的で報道機関に被害の証拠を提供したケースだ。


 他方、TBSのケースは、敵対する両者のうち、一方の取材情報を他方に提供したというもの。しかも見せた相手は、当時すでに『サンデー毎日』などで反社会的体質が指摘されていたオウム真理教だった。まさに言語道断の行為で、今回のセクハラ告発とは構図も目的も異なる。他の4事例も、警察の情報を捜査対象に教えたり、民事訴訟の原告の記者会見の音声データを被告側に渡したりといった、今回とはまったく関係がない事例ばかりだ。


 まったく無関係なものを並べ立てて、今回のケースも、それと同じように悪質なものだという印象を与えたいのだろうか? だとしたら、悪質な印象操作でしかない。


■放っておけば今後も自他に対する重大な人権侵害が続く

 読売新聞はさらに、20日付朝刊掲載の社説でこう書いた。


〈取材で得た情報は、自社の報道に使うのが大原則だ。データを外部に提供した記者の行為は報道倫理上、許されない。


 取材対象者は、記者が属する媒体で報道されるとの前提で応じている。メディアが築いてきた信頼関係が損なわれかねない〉


 しかし、今回の音声データは、「取材で得た情報」というより、取材の場で受けた被害を記録した証拠である。


 しかも、自社が報じず、放っておけば今後も自他に対する重大な人権侵害が続くと予想される中、その証拠を抱え込むのではなく、事実を世の中に知らしめるために使うことは、被害者の行いとして正当であるばかりでなく、ジャーナリストとしてもまっとうな行為ではないのか。


 私たちフリーランスの記者だけでなく、新聞社やテレビ局、出版社などの組織に所属する記者も、もちろんジャーナリストである。会社員として組織に忠実である以上に、報道を通じて、人びとに事実を知らせ、様々な問題解決に役立ててもらうことこそ、ジャーナリストの倫理に適う、と思う。


 読売は、会社が適切な対応をしない以上、彼女が諦めて被害を自分の胸に納め、証拠も表に出すべきではなかった、と言いたいのだろうか。


■人権が損なわれながら維持される「信頼関係」とは

 今回の一件が報道された後、多くの女性記者が取材の過程でセクハラ被害に遭った体験を明らかにしている。取材先でいきなり胸をわしづかみにされるなどの被害を受けながら、「取材先との信頼関係を損ねる」ことを恐れ、あるいはそれを懸念する上司に指示されて、泣き寝入りを強いられてきた体験も語られている。このように、記者の人権が損なわれながら維持される「信頼関係」とは何だろうか。今、まさにそこが問われているのだ。


 この社説は、記者を守らなかったテレ朝を批判する。それ自体は適切な指摘だと思うが、それでは聞きたい。自分の会社には、取材先でセクハラを受けながら、黙って堪え忍んできた記者は1人もいないと言い切れるのか。これを書いた論説委員は、あまりに現場を知らないように思えてならない。


 各メディアは、テレ朝を批判するだけでなく、取材先から自社の記者が被害にあったことがないかを確かめ、記者たちを守るためにどうするかを考えるべきだ。その際、くれぐれも、女性記者を現場に出さない、というような後ろ向きな対策にならないようにと願いたい。


(江川 紹子)


注: この記事は配信日から2週間以上経過した記事です。記事内容が現在の状況と異なる場合もありますのでご了承ください。

コメント 91

  • 匿名さん 通報

    一番の問題は、セクハラされたテレ朝女性記者の訴えを、当初完全無視したテレ朝幹部達だ。事が大きくなったら慌てて財務省に抗議。今更遅いよ。部下の信頼に応えられない上司はさっさと退職してもらいたい。

    161
  • 匿名さん 通報

    録音した音声を全てだせないのは、やましいところがあるからは明白である。ぐだぐた言わずにオリジナルの会話データを全て出せ。問題提起はその後である。

    129
  • 匿名さん 通報

    なんでオリジナルの録音データを出せないのかな?出すとよほど都合が悪いんでしょうね。あやしい~

    117
  • 匿名さん 通報

    渦中の記者を批判される方は自分の配偶者やお子さんがハラスメントを受けてもニヤニヤ笑って「長い物には巻かれろ」と諭すのでしょうか?テレ朝は社内の検証が必要。

    106
  • 匿名さん 通報

    はっきり「おっぱい触っていい?」「抱きしめていい?」「浮気しようね」とか言ってるやん(笑) 福田元次官の声で。 どういう場所でも、相手が誰でも、アウトでしょ。

    70
コメントするニャ!
※絵文字使えないニャ!