長年、熱戦を見てきた“甲子園通”の目には、春と夏の違いがハッキリわかるという。スタンドの風景、選手の服装からプレーの質まで、その差を解き明かそう。


同じ甲子園で行なわれる大会でも、夏の選手権大会と春のセンバツでは有形無形いろいろな違いがある。

まず、単純に甲子園の全体の風景。春は観客の服装が黒や濃いめの色が多く、落ち着いた空気であることが多い。スタンドが白一色に埋め尽くされ、熱気が強烈な夏とは大きく異なる。

開会式のやり方にもいくつか違いがある。まず、入場時の行進曲。
夏の定番『大会行進曲』に対して、春は毎年異なる曲を演奏する。1961年の第33回大会までは既存の行進曲や外国の音楽だったが、62年の第34回大会で坂本九のヒット曲『上を向いて歩こう』が採用されて以来、話題曲が定番となった。今年の大会は、ディズニー映画『アナと雪の女王』の劇中歌『Let It Go~ありのままで~』が演奏される。

また、選手入場時に各校のプラカードを持つ先導役は、夏が地元・西宮高校の女子生徒であるのに対し、春は2007年までボーイスカウトの高校生が、08年以降は各出場校の生徒が務めている。

古いファンなら、センバツ時の外野フェンスに歴代優勝校名が書かれた白地の看板が並んでいたのを覚えているかもしれない。だが、84年の佐賀商対高島で、ワンバウンドしてラッキーゾーンに入った打球がホームランと判定された事件を契機に撤去された。


1月の終わりの出場校発表もセンバツならではの“儀式”だ。出場校で校長が通達の電話を受け、その後、生徒や部員が歓喜する姿が報道される流れはもはや“お約束”。

出場校の選考では、地区ごとの枠をめぐり当確ギリギリの候補校が並んでハラハラさせられることも。過去には「地域性」などの理由により、成績的に下位の学校が選ばれ、論議を呼んだこともある。

春の出場がやたらと多いチームも存在する。甲子園に春夏合わせて5回以上出場している中では、国士舘と上宮(うえのみや)が現在のところ双璧で、春8回、夏1回の“最高春率”を誇る。


ちなみに、春だけ5回以上出場していて夏は未出場、というチームは存在せず、逆に福岡(岩手。春0回、夏10回)など“春率ゼロ割”の学校があるのは不思議な現象だ。

春を得意とする監督も多い。上甲(じょうこう)正典(宇和島東・済美[さいび])、中井哲之(広陵)、門馬敬治(もんま・けいじ)(東海大相模)は、2度の全国制覇がいずれも春。阪口慶三(東邦・大垣日大)も優勝1回+準優勝2回と春に強い。

打者では、PL学園・清原和博(元西武)、上宮・元木大介(元巨人)、星稜・松井秀喜(元ヤンキース)、大阪桐蔭・中田翔(日本ハム)といった、後年プロへ進む選手が春に2打席連続本塁打を記録。


夏の甲子園も清原の2度をはじめ、金村義明(元近鉄)、水野雄仁(元巨人)、福留孝介(阪神)、平田良介(中日)、筒香嘉智(つつごう・よしとも)(DeNA)らが達成しているが、春夏どちらの活躍が将来の大物ぶりを占う指標になるかは、今後も検証していく必要がありそうだ。

最後に、テレビ放送の比較を。試合のダイジェストを放送するテレビ番組として、夏は朝日放送による『熱闘甲子園』が有名だが、春は毎日放送による『みんなの甲子園』が関西ローカルやCS放送のGAORAなどで放送されるのみとなっており、全国ネットでの放送が望まれる。

(取材・文/キビタキビオ 取材協力/寺崎 敦)

■週刊プレイボーイ13号「総力特集13P 春のセンバツ 伝説の瞬間」より(本誌では、センバツ高校野球の伝説的名勝負や小ネタを厳選紹介!)

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