平凡社 世界大百科事典

トラス

いくつかの直線棒状の部材の端部を回転自由なヒンジで互いに結合し,適当な形に組み上げた骨組構造。橋,塔,屋根などに用いられる。このようなヒンジ結合の部材からなる構造が安定であるためには,各辺の長さが定まれば形の定まる三角形の骨組みを基本単位として構成されることが必要である。部材の会合点を節点といい,荷重はこの節点に作用するように設計される。したがって,ヒンジ節点であれば,それぞれの部材は引張りか圧縮の軸方向力しか受けない。近代のトラス構造では節点は実際にはヒンジとなっていないが,部材がその長さに比してよほど太くなければさして問題はない。トラスはトラス面が平面であるか否かによって,平面トラスと立体トラスに大別される。橋や鉄塔などでは4面あるいは3面の平面トラスを組み合わせた構造とするのがふつうで,任意の外力に対しては立体トラスとして働くことになるが,この場合でも設計の便宜上,一般には面内荷重の作用する平面トラスとして扱う。

 何本かの木材を組み合わせた骨組みを最初に用いたのは16世紀イタリアの建築家A.パラディオであったが,その工法は一般には普及せず,建物などに使われるようになったのは18世紀に入ってからである。初めて橋桁にトラスを用いたトラス橋を架けたのはスイスのグルベンマン兄弟Johannes Grubenmann,Hans Ulrich G.で,18世紀中期にライン川上流などに支間長50mを超える木造トラス橋をいくつか建設している。その最大はチューリヒ郊外の119mの支間長の橋と伝えられているが,事実とすれば古今を通じ最大の木造トラスである。しかしこのころからヨーロッパよりむしろアメリカにおいてトラス構造は発展を遂げ,19世紀にかけての鉄鋼材料の普及と相まって,各地に多くのトラス橋がつくられた。当時骨組みの形に関する特許が次々と申請され,図に示すハウトラスHowe truss,プラットトラスPratt truss,ワーレントラスWarren trussなど,考案者の名を冠したいくつかのものは現在でも使われている。しかし時代とともにいたずらに複雑な骨組みの構造は姿を消し,簡明で軽快な形状のものが残った。橋や屋根においてはこのようなトラスの両端を支持し,その中間に作用する荷重を支えるのがもっとも基本的な使われ方であるが,この場合トラスは全体としてはりと似た作用をする。すなわち鉛直下向きの荷重が加わるとき,下弦材(下側の部材)は引張力を,上弦材は圧縮力を,そして上・下弦材を結ぶ斜材や垂直材はその配置のしかたと力のかかる位置によって圧縮力,引張力のいずれかを受ける。例えば図のうちaのハウトラスの斜材は主として圧縮力を,bのプラットトラスの斜材は主として引張力を受ける。このため引張強さの大きい鋼を材料としてつくられる場合にはプラットトラスが,逆に圧縮に強い木やコンクリートを用いたトラスにはハウトラスが用いられる。また最近の鋼トラス橋には形が軽快で製作面でも有利なワーレントラス(図のc)がよく用いられる。図中のKトラスやダブルワーレントラスは両方向から荷重を受ける場合に適する。トラスは力の流れに沿って部材を配置したむだの少ない構造であるので,巨大な構造物を比較的軽く,しかもじょうぶにつくることができる。しかし方向の異なる部材から構成されるため,美観の面では有利といえない。

 トラス構造の発端は木造であったが,現在はほとんどが鋼構造であり,おのおのの部材は山形鋼,H形鋼,鋼板を溶接してつくられ,H形あるいは箱形断面をしている。大きな力を受けない引張材にはケーブルや丸棒を使うこともあり,また海中構造物などには流体抵抗の小さい円管部材を用いる。プレストレストコンクリート部材でトラス構造がつくられることもあるが,きわめてまれである。鋼トラス構造としては,塔では古いものでパリのエッフェル塔(高さ約312m),日本では東京タワー(333m)が代表的。メキシコ湾の石油掘削用プラットホームにはこの両者をしのぐ巨大な構造物がある。橋としては,カナダのケベック橋(中央支間長548m),大阪の港大橋(中央支間長510m)などが代表的なものである。トラス構造はこのように独立した構造物として存在するほか,建物の屋根,アーチ橋の主部材,つり橋の補剛桁,あるいは他の形式の主構造を結ぶ二次的構造要素としてなど,構造物の一部として用いられることも多い。→骨組構造

伊藤 学
図-平面トラスの例
図-平面トラスの例