平凡社 世界大百科事典

ホムンクルス

ラテン語homo(人間)の指小形で〈小さな人〉の意。解剖実験用の人体模型を指すほか,とりわけ魔術師が人工的に造り出すと考えられた人造人間に対して使われる。その方法に関するもっとも有名な記述は,パラケルスス著とされる《物の本性について》に見られる。人間の精液を蒸留瓶に密閉し腐敗させた後,馬の胎内と同温度にして人間の血でこれを養うと,一定期間を経て五体完全な小人が誕生するというのである。ルネサンスの自然魔術の系譜を踏むこの人間造出は,小宇宙(実験室)の中で原物質の死(腐敗)を通じて無垢(むく)の原人〈アントロポス〉を生む,死と復活の密儀思想を背景にもつ。したがってそれは,卑金属が死の関門をくぐった後黄金として蘇生すると考える錬金術の哲学と密接な関係にあった。いわゆる〈賢者の石〉の象徴にホムンクルスがしばしば用いられたのは,そのためである。これは文学にも深い影響を及ぼし,ゲーテの《ファウスト》2部2幕には,ホムンクルスが登場して活躍する。

有田 忠郎