平凡社 世界大百科事典

安慧

インドの大乗仏教の学僧。一説に510-570年ころの人ともいう。瑜伽行唯識派(ゆがぎようゆいしきは)の所属で十大論師の一人。サンスクリット名はスティラマティSthiramati。西インドのカーティアーワール半島にあるワラビーValabhīに生まれ,徳慧(とくえ)の教えをうけた。安慧の学説は,〈無相唯識〉といわれ,同時代に活躍した護法(ダルマパーラ)Dharmapālaの学説〈有相唯識(うそうゆいしき)〉と区別される。その特色は,すべての心作用を根底から規定している潜在意識,すなわちアーラヤ識は究極的には否定され,見るものと見られるものの区別を失った絶対知が得られる。その時,個体には最高実在だけがあり,アーラヤ識はない,とするものである。《唯識三十頌釈論》《大乗荘厳経論釈》《中辺分別論釈》《大乗広五蘊論》など唯識説関係の諸注釈のほか,《大乗中観釈論》や《俱舎論実義疏》などの中観派や小乗仏教の論書に対する幅広い研究も残している。→唯識説

田中 教照