平凡社 世界大百科事典

雅歌

原語では〈歌の歌〉で,最もよき歌の意。旧約聖書中のいわゆる〈諸書〉に属する。この書が経典としての旧約に入れられた理由については,種々の説があるが,健全な男女の愛を神がよしとされたと見る見解が,現代ではいちばんわかりよいであろう。事実この書に含まれるものは男女間の愛を歌っており,その根幹は東地中海世界(エジプトを含む)にいちばん深く接したソロモン王の時代にさかのぼると思われる。しかしこの点については種々の説がある。この書の構成についてもいろいろの見方があり,断片的,民間的な歌を集めたものと見る人,ドラマ的構造を想定する人,抒情詩として一貫性を認めようとする人などがある。社会が一応安定したダビデ,ソロモンの時代に,ほかにも抒情詩が世俗的なものを媒介として成立しているところから見て,雅歌の根幹の成立をもそのような背景から解したい。その際エジプトの恋愛詩の影響を想定するのが最近の有力な説である。この書にギリシア語,ペルシア語と結びつくヘブライ語が出てくるが,後から入れられたものと見れば,この説の反証にはならない。なお,雅歌が日本の新体詩に影響していることは,島崎藤村の《若菜集》に見られる〈ぶどう〉や〈狐〉の修辞的表現からも知られるといわれる。

関根 正雄