平凡社 世界大百科事典

社会化

以下の三つが考えられる。

(1)生産の社会化 生産過程の一単位が大規模となり,機械,原材料,補助材料,労働者の数の面で,他の生産過程との結びつきが社会的規模の緊密さを高めるなかで,生産手段がごく限られた数の人々によってでなく,多数の株主によって,あるいは政府のような公的な組織に所有され,生産が社会的広がりをもつ組織によって経営されるようになることを〈生産の社会化〉という。株主を幅広く多数擁する株式会社制度の普及は一種の〈生産の社会化〉である。また20世紀には,社会主義による生産の社会主義化=生産の社会化Sozialisierungが強く主張され,かつてのソ連などで統制経済のすがたで生産の社会化がある種の完成をみている。また第1次大戦後のドイツ・ワイマール共和国で社会化委員会のもとで経済の国家管理の試みがなされ,第2次大戦後のイギリス労働党政権下で重要産業の国有化政策がとられた。これらはすべて〈生産の社会化〉の名でよばれている。

(2)市場の社会化 市場社会において市場の自己調整的作用の破壊的・攪乱的影響から社会を防衛するために,市場がさまざまな社会的措置にとりまかれるようになることをいう。K.ポランニー《大転換》(1957)に依拠した観点である。これによれば,自己調整的市場によって支配された社会は,19世紀以来,社会の実在としての人間,自然,生産組織の防衛を意図する〈社会〉の側からの絶えざる反撃を受け,しだいに市場の自己調整的機能は制限されるにいたった。社会保障,カルテル,消費協同組合,労働組合,環境保護,公共事業,公営企業,教育制度,農業保護等,労働や土地,生産組織を市場の圧力から防衛するための制度が現代社会ではすでに網の目のごとく広まっている。日本ではさらに政府の行政指導や中央銀行(日銀)の窓口規制,日本的雇用慣行(終身雇用制)も加わって市場の自己調整作用に対する社会の防衛は,とりわけ強固になっているといえよう。

(3)生の社会化 耐久消費財の大量生産方式,マス・メディアの発達,民主主義的制度の普及に支えられて,大衆消費社会が成熟するにつれ,生活の階級的特性・矜持(きようじ)・差異が失われ,大組織や技術に個々人のほうが管理されるようになり,生が画一化し規格化され,生の全体が陰に陽に社会的規制のもとにとりこまれ,つぎつぎに移りゆく流行の先端をいくことだけが個性であるとみなされるようになった現代の状況を,〈生の社会化〉という。G.ジンメル,オルテガ・イ・ガセットなどによって指摘されている。

大塚 忠

教育関連科学における社会化

生物としてのヒトは,社会的存在たる人間となる素質をもって生まれてくるが,自然のままに放っておいて人間になるわけではない。オオカミに育てられた野生児が,人間としての行動様式をまったく獲得していなかった例が端的に示すように,ヒトは社会的環境の中で育てられてはじめて人間になっていく。この過程が社会化socializationであり,それは個人が社会の一員として必要な知識や技術,行動様式や規範を習得していく過程である。したがってそれは,子どもが一人前の社会人としての人格を発達させていく過程としてみることもできる。社会の側からみれば,それは次の世代へと文化を伝達し,社会を存続,発展させるための後継者をつくりあげていく過程であり,家族や学校,地域社会やマス・メディアなどの種種の集団や制度がそれを担っている。また個人の側からみれば,それは基本的生活習慣から価値観や道徳意識にいたるまで,その社会の一員たるにふさわしい文化内容を習得,内面化し,社会にうけいれられていく過程である。しかし,それは個人が社会の期待する鋳型にはめられ,個性を失って画一化されていくことを意味するわけではない。性や気質,その他の個人的条件のちがいによって,社会化のされ方が規定される側面があるとともに,社会化されていくなかではじめて人間としての個性をももちうるという意味で,社会化の過程は,その人がその人らしい個性を形成し,発揮していく〈個性化〉の過程でもある。

 近年,社会が複雑化し,急激に変化,発展していくなかで,社会がどのように成立し,存続するのか,個人がいかにしてその社会の担い手になっていくのかという問題が,あらためて問われるようになり,心理学や社会学,文化人類学などの領域で,この社会化をめぐっての研究がさかんになってきている。とりわけ1960年代以降,〈初期経験〉の研究をはじめ,人間の行動の変化に及ぼす経験の効果を明らかにする研究が進み,この面での新たな知見が蓄積されてきているなかで,子どもが一人前のおとなになっていく発達の過程を理解するのに際して,生物学的な成熟の側面よりも,経験や学習の効果が重視される風潮が強まってきており,その面から社会化をめぐっての研究が促進されてきている。

高垣 忠一郎