平凡社 世界大百科事典

スピカ

おとめ座のα星。この名はラテン語で麦などの穂を意味する。おとめ座は,正義の女神アストライア,穀物神デメテルの娘ペルセフォネ,あるいはデメテル自身の姿に見立てられ,スピカは女神の手にした麦の穂の位置に輝いている。おそらく西欧古代において,この星の出没が麦その他の穀物の収穫期を認知するのに使われたと思われる。日本では同じ春の1等星の一つアークトゥルスに〈麦星〉の名があるが,この星の和名は広まっていない。一部の地方で〈しんじぼし〉(真珠星の意であろう)と呼ばれた。中国名は角。アークトゥルスの大角とともに巨大な竜の角に見立てている。おぼろげな春の宵に清楚(せいそ)な光を放つスピカは乙女のイメージにふさわしい。天文学上,この星はミザルの主星に次いで発見された分光連星として知られている。また,脈動変光星の仲間でもある。概略位置は赤経13h25m,赤緯-11°10′。午後9時の南中は5月下旬。実視等級は1.0等。B1型のスペクトルをもつ巨星で,半径は太陽の約5倍。距離は約142光年。

茨木 孝雄