平凡社 世界大百科事典

ツワイク(Stefan Zweig)

オーストリアの作家。富裕なユダヤ人実業家の子としてウィーンに生まれた。新ロマン主義の詩人として文学的な出発をしたが,その活動はすこぶる多角的で,詩,戯曲,翻訳,小説,評論,伝記など,文学のほとんどあらゆる分野にわたっている。文学的にはホフマンスタール,ベルハーレン,フロイトらの影響を受け,ロマン・ロランとは第1次大戦中にスイスで親交を結び,共に平和運動にたずさわった。作家としてだけではなく,国際的な知識人,代表的ヨーロッパ人としても彼の存在は重きをなした。大戦後まもなくファシズムの暗い影がヨーロッパを覆い始め,平和主義者でありユダヤ人である彼は身の危険を感じて,1919年以来住み慣れたザルツブルクを去って35年にイギリスへ,41年アメリカへ,さらにブラジルへと亡命したが,ついに精神的不安を克服することができず,42年にリオ・デ・ジャネイロ近郊ペトロポリスで第2の妻ロッテと共に服毒自殺をとげた。彼の作品は多数にのぼるが,感情移入の能力,博読多識,収集癖,よい意味での詮索好きなど,彼の特質が存分に発揮された伝記小説の分野にすぐれたものが多い。《ジョゼフ・フーシェ》(1929),《マリー・アントアネット》(1932),《エラスムスの勝利と悲劇》(1934),遺稿《バルザック》(1946)などがそれであるが,古きよきヨーロッパをなつかしむ長編評論《昨日の世界》(1944)も逸することのできない作品である。

関 楠生