平凡社 世界大百科事典

クレーン(Stephen Crane)

アメリカの小説家。ニュージャージー州にメソディスト派牧師の子として生まれた。大学を中退してニューヨークに出,新聞記事を書きながら創作に従事した。在学中に書き始めた《街の女マギー》は,ニューヨークの貧民街に住む少女の過酷な運命を描いたもので,アメリカ最初のすぐれた自然主義小説といわれるが,出版社が忌避し,1893年自費出版する(改訂版1896)。W.D.ハウエルズ,H.ガーランドに認められたもののほとんど売れず,生活は困窮した。やがて南北戦争に従軍した一兵卒の心理を描いた《赤い武功章》(1895)を発表する。戦争の虚飾を払拭した心理的リアリズム,大胆かつ詩的な印象主義的手法はまずイギリス,続いてアメリカで好評を得,一躍有名となる。西部,メキシコなどにも取材の足をのばすが,97年1月キューバ独立戦争の報道に赴く途中乗船が難破し,厳冬の海に漂流する。その経験をもとにして,すぐれた短編《オープン・ボート》(1897)を書く。だが私生活,作品にみられる彼の偶像破壊的姿勢はアメリカ文壇の激しい揶揄(やゆ)を浴び,居をイギリスに移す。ギリシア・トルコ戦争,米西戦争にも従軍記者として参加したが,無理がたたって肺を病み,28歳の若さで死去。代表作にはほかに短編《青いホテル》(1898),《怪物》(1899),詩集《黒い騎手》(1895)などがある。ヘミングウェーなどに大きな影響を与え,また現代詩イマジズムの先駆者としての役割を果たした。

板橋 好枝