平凡社 世界大百科事典

シュメール語

古代メソポタミア南部で使用されたシュメール人の言語。前3100年ころから前50年ころまでの文献が発見されている。シュメール語が現用語であったのはおそらくウル第3王朝までで,それ以後は徐々に死語化するが,一種の文化語として古代オリエントで長く使用された。シュメール語の系統は今のところ不明で,孤立した言語である。構造的には典型的な膠着語であり,接頭辞,接中辞,接尾辞などの接辞が発達し,文法関係を示す。屈折語に見られる母音交替とか語順による文法関係の表示は認められない。文法的には有生クラスanimate class(人間,神を含むクラス)と無生クラスinanimate class(動物,無生物,抽象概念を含むクラス)の対立が存在する。例えば与格dativeは有生クラスにのみ許され,無生クラスには認められないし,複数構成も有生クラスにのみ許される。動詞は継続相durativeと瞬間相punctiveのアスペクトの対立を基礎とする。言語変化では母音同化現象がきわめて特徴的である。シュメール語は一般にエメ・ギルeme-girと呼ばれる標準語ないし文語と,エメ・サルeme-salと呼ばれる女性語ないし口語に区別される。エメ・サルと呼ばれる語詞は大部分がエメ・ギルの音声的に変化した形を示している。エメ・ギル,エメ・サルのほぼ完全な対照表が,アッカド語訳を付して残されている。

 バビロン第1王朝時代に入って,シュメール語を文化語として学習するために膨大な語彙表,文法テキスト,シュメール語・アッカド語対訳資料その他が作成された。その一部がアッシュールバニパル王の図書館からも発見されたため,シュメール語はアッシリア語を通して二次的に解読されたと考えられている。シュメール語について一般に〈解読〉という言葉が使用されないのはそのためである。シュメール語研究の基礎はペーベルArno Poebelの《シュメール語文法概要》(1923)によって確立され,ファルケンシュタインAdam Falkensteinによって継承された。ダイメルAnton Deimelの《シュメール語辞典》4巻は1928-33年に刊行され,ランズバーガーBenno Landsbergerによって37年に開始された《シュメール語辞典資料》の出版も,現在までに14巻を数えている。→シュメール

吉川 守