平凡社 世界大百科事典

太陽風

高温な太陽コロナが,外方で弱くなっていく太陽の重力場でとらえきれずに流出する現象を太陽風という。地球近傍で粒子密度1~10cm⁻3程度,温度105K程度のプラズマが秒速数百kmという高速で太陽から吹きつけているのが1960年代の初期の人工衛星により発見され,太陽風と名付けられた。この太陽風は地球近傍で10⁻4ガウス程度の弱い磁場をもち,その符号が地球に相対的な太陽の回転につれて反転を繰り返すことから,太陽風磁場は図2に示すような2葉または4葉の磁場のセクター構造をもっていることがわかった。太陽風の流速はこのセクターの境界では300km/s程度と遅く,その中間では700km/sに達する。太陽風についてはパーカーE.N.Parkerがすい星の尾が吹き流される現象の説明のために,人工衛星の上がる直前に基本的な理論的説明を与え,これが人工衛星によって検証されるという劇的な発見史をもつ。太陽面からの脱出速度は600km/s程度で,これより小さい速度で投げ出された物体は重力で引き止められて再び太陽面に落下してしまうはずである。太陽表面近くで別に速い流出が見られないのに,なぜ地球近傍に速い流れがきているのであろうか。これはパーカーの理論によれば,運動が自由弾道運動の場合には,確かに脱出速度以下の速度では太陽から飛び出せないが,この流れは連続的な圧力こう配による流れであり,高温コロナ中で高さとともに圧力こう配は減るが,半径逆自乗で減っていく重力の減り方のほうが早いので,外方ではコロナが太陽重力では引き止めきれなくなって加速が続き,ついに超音速流となって流れ出してしまうのである。しかし,パーカーの理論は球対称の簡単な場合のものであり,磁場と関係して300km/sから700km/sに達する異なる流速の流れがどうしてできるかなどは説明できない。これらの速い流れ,遅い流れがそれぞれ太陽のどんなところから出ているかについて,スカイラブ衛星によるX線による太陽像の観測の結果は非常に意外なことを示した。すなわち,速い流れはX線で明るく輝く黒点近傍の高温域からではなくて,むしろ明るいコロナが存在していない部分,すなわち,いわゆるコロナ・ホール(穴)からきていたのである。これはパーカーの熱膨張風理論では説明がつかず,問題を投げかけた。これを説明するためにコロナの明るいところ,すなわち,黒点活動域周辺では磁力線は閉じていてプラズマを逃がさないのに対し,コロナ・ホールの部分の磁力線は上空に向かって開いており,この開きぐあいによって太陽風の加速が強まるという理論が提出されたが,これも吹き出すべき高温プラズマの圧力が十分でない場合は困り,むしろ単純熱膨張風でない,例えばアルベーン波Alfvén wave(磁場をもつプラズマ中を伝わる低周波の一種。この波では振動は磁場の向きと直角方向で,その速度vは,Bを磁場の強さ,ρを密度とすると,

である)などによる別の加速機構が働いているのではないかと考えられている。

 太陽から吹き出している太陽風は初め磁場により導かれて流れるが,外方では逆に弱くなった磁場を引きずって流れる。この間に太陽は自転をするので,結局,太陽風はスパイラル状に流出している。これは電波を出す高エネルギー電子流が太陽面爆発から流出するのを追跡することによっても証明されている。このようなスパイラルに沿う太陽風の流れは,その動圧が太陽周辺をとり巻く星間雲の圧力と同程度になるあたりまで押し進むと考えられるが,この範囲が太陽圏heliosphereと呼ばれる。この領域の大きさは,太陽系をとり巻いているのが通常の中性水素領域だとすれば,太陽~地球間の距離の数十倍ということになり,とくに太陽がこの星間雲に対し相対速度をもたなければ,太陽圏の形は球形あるいは空飛ぶ円盤形となっているだろうと考えられるが,最近の軟X線観測によると,太陽系周辺はかつて太陽の比較的近くで起こった超新星爆発残骸の高温プラズマでとり巻かれている可能性が示唆されている。この場合は太陽圏はちょうど地球の磁気圏が太陽風により吹き流された形状をしているのに似て,単純な球形または円盤ではなくて一方向に吹き流された形状をもっている可能性もある。太陽圏はときおり太陽で起こる太陽面爆発から放出される高速プラズマ雲によっても乱される。外から太陽圏に向かって入ってくる宇宙線が,磁場をもつこの高速プラズマ雲によって妨げられるフォーブッシュ効果Forbush effectによってこの事情を推察することができる。

内田 豊
図1~図2
図1~図2