平凡社 世界大百科事典

固体物理学

固体の物理的・化学的性質(物性と呼ぶ)を微視的立場から研究する学問分野。対象とする系は,規則的な原子配列を無限の領域にもつ完全結晶から,不純物,格子欠陥などを含む不完全結晶,さらにガラス,非晶質半導体,スピングラスなどの不規則固体に至るまで多岐にわたっている。近代的な固体物理学は,1912年にM.vonラウエが結晶内の原子の規則的配置をX線を用いて実験的に検証する方法を発見したときに始まる。現在ではX線,電子線,中性子線を用いて固体内および固体表面の原子配列あるいはスピン配列を調べる方法は,固体物理学における重要な研究手段の一つとなっている。固体内の電子状態を理論的に明らかにする固体電子論も固体物理学の重要な分野の一つであるが,この分野は量子力学誕生後の30年代にその基礎が作り上げられた。今日では固体内電子,原子を,一体近似を越えた多体系として取り扱う理論体系も発展し,超伝導の機構を明らかにしたJ.バーディーンらの理論,ジョセフソン効果,近藤効果,線形応答理論やグリーン関数法などの量子統計力学の解析的方法などの輝かしい成果を生むとともに,固体物理学のあらゆる分野に大きな刺激を与えている。また固体物理学における実験的手法もこの30年間に飛躍的な進歩をとげ,測定の精密化やコンピューターを駆使して理論計算との精密な整合などにより,精密科学としての真価を発揮するとともに,トランジスターをはじめ固体エレクトロニクスなどの技術の基礎を強固にするのにもおおいに威力を発揮している。最近は超低温,超強磁場,超高圧,広範なエネルギー領域のスペクトロスコピー,高励起など極限状態における物性研究,またスケーリング理論からくりこみ群を用いた不規則系をはじめ固体物性の示す種々の相転移の研究,さらには層間化合物をはじめ種々の低次元物質,超格子や超薄膜,液晶,種々の超伝導物質などの新しいカテゴリーの物質の研究で新生面が開かれつつある。

上村 洸