平凡社 世界大百科事典

溶剤

均一液相をなす混合物を構成している成分のうち,液体成分の一つを溶剤または溶媒といい,他の成分を溶質という。また金属工学でも製錬において溶剤が使用されるが,これは通常フラックスと呼ばれている。気体または固体が液体に溶解して均一な溶液をつくる場合には液体を溶剤といい,液体間で溶液をつくる場合には相対的に量の多いほうを溶剤とみなす。

 溶剤は固体または液体の溶解,濃厚液の希釈に用いられるのみならず,化学反応を生起させる反応媒体として用いられる。また,液体および固体の原料から,液液抽出または固液抽出により,有用成分の抽出および不要成分の除去精製を行うさいに用いられる。油脂類,香料成分などの採取,潤滑油,香料などの精製はこの例である。

 溶剤の溶解作用は溶解前後の自由エネルギー変化によって与えられる。溶解が自然に生じるためには,自由エネルギー変化が負でなければならない。自由エネルギー変化は,溶解前における溶剤分子間および溶質分子間の同種分子間相互作用と,溶解後に同種分子間の相互作用が壊れて溶剤と溶質の異種分子間の相互作用が生じることによるエネルギー変化,および溶剤中に溶質が混合し,溶液を形成する場合のより安定な状態を示す確率とによって与えられる。これらは分子間の結合の種類,分子の大きさおよび形などによって異なる。一般に,類似した性質の物質は相互に溶けやすい性質がある。たとえば,炭化水素類は相互に溶けあうが,水にはほとんど溶けない。水はアルコール,有機酸,フェノール類のように水酸基をもつものをよく溶かす。したがって,溶質の溶剤に対する溶解性は相互の組合せにより,一般的には論じられない。系が希薄溶液を形成する場合には,気体の溶解度は〈分配律により表され,各相の溶質の濃度間に比例関係が存在する。しかし,これらの法則は限られた狭い範囲内でしか適用できないので,溶解度は一般には実測値により求められなければならない。これには図1に示すような実測値から作成した相互溶解度曲線による。この図で閉曲線内は2液相領域,その外側は均一液相領域である。点A,Bは上部および下部臨界濃度といい,それ以上および以下では,全濃度にわたって均一液相となる。また図2はプロピオン酸-トルエン-水系の液液平衡を示す。2液相領域で互いに平衡な2相の濃度がタイラインで結ばれている。これが一点に収斂(しゆうれん)したのがプレート点Pで,均一液相となる。

 液液抽出における溶剤を抽剤といい,これが具備すべき条件として,(1)溶解度が大,(2)選択性が大,(3)回収性がよいなどがあげられる。液相反応において,溶剤は反応速度,平衡関係に大きな効果を及ぼす。これを溶媒効果といい,溶剤の誘電率,イオン強度などに依存する。一般に,溶剤として広く用いられているものの例として,石油軽質留分,アルコール,トルエン,エーテル,アセトン,ハロゲン化炭化水素などがあげられる。

佐田 栄三
図1~図2
図1~図2
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溶媒

溶体をつくる媒体,すなわち極性

橋谷 卓成