平凡社 世界大百科事典

分光化学系列

多くの遷移金属錯体は,非結合性d電子の遷移に基づくいくつかの比較的弱い吸収帯をもっているが,この吸収帯は配位子が変わると移動し,遷移金属錯体の各種の色の原因となっている。槌田竜太郎は,この吸収帯をコバルト(Ⅲ)およびクロム(Ⅲ)の錯塩について系統的に調べ,配位子を配位子場吸収帯の吸収極大が短波長にあるものから順次長波長にあるものへと並べると一つの系列ができることを見いだした(1938)。その後の知見を加えて現在は次のような系列が得られている。

 CN⁻>NO2⁻>SO32⁻>2,2′-ビピリジン(下式(a)),1,10-フェナントロリン(下式(b))>エチレンジアミン(NH2CH2CH2NH2)>NH3>ONO⁻>NCS⁻>H2O>C2O42⁻(二座)>NO3⁻,SO42⁻>OH⁻>CO32⁻(二座)>CH3COO⁻>C2O42⁻(単座),CO32⁻(単座)>SSO32⁻>F⁻>N3⁻>Cl⁻>CrO42⁻>Br⁻>I⁻

これを分光化学系列あるいは浅色系列hypsochromic series(吸収帯が短波長側に移動すると色は浅くなる)といっている。これは後,コバルト(Ⅲ)やクロム(Ⅲ)だけではなく,すべての金属イオンについて適用できることがわかった。またこの系列は,配位子場分裂の大きさ10Dq,すなわち金属錯体中の中心金属イオンに対する配位子の相互作用の強さ,配位子場強度の順序と一致することがわかった。したがって中心金属イオンと配位子との相互作用の強さの目安として,錯体の構造,安定度などの研究に重要である。→配位子場理論

中原 勝儼