平凡社 世界大百科事典

変速装置

入力軸の回転速度を,必要とする出力軸の回転速度に変換するための装置。変速機ともいう。いま,自動車を例にとると,自動車の駆動車輪の回転速度は,状況に応じていろいろと変化する必要がある。駆動車輪は原動機から動力の供給を受けて回転しているが,もし,車輪の軸と原動機の回転軸とが直結されているならば,自動車の走る速さは原動機の回転速度を調節することによって行わなければならない。現在,自動車の原動機の大半を占めている内燃機関の回転速度は,供給する燃料と空気の量を調節することにより変化させることができるが,内燃機関の回転軸と車輪の軸とが直結しているとすると,次のような不都合が起こる。すなわち,(1)自動車は発進時の遅い速度のときに,車輪を回すための大きい回転力(回転トルク)を必要とするが,内燃機関の給気を絞って回転速度を低下させると回転トルクが低下して,自動車の抵抗力(走行抵抗力)に負けて機関の回転が停止してしまう(エンスト),いい換えると,内燃機関はある程度以上の高速回転の領域において,はじめて十分大きい回転トルクを発生する性質をもっている。(2)内燃機関はエネルギー変換の効率,すなわち燃料経済の面からみても,高速回転の領域で回転を続けるのが有利である。したがって,エンストを起こさない程度ではあっても経済回転速度よりも遅い回転速度で運転することは不経済である。

 以上のような理由により,自動車を内燃機関で駆動するには原動機である内燃機関と車輪との間に変速装置を入れて,原動機の回転速度は内燃機関に有利な一定の範囲の値に保ったままでも車輪の回転速度を変化させることができるようなくふうをすることが必要となる。このような事情は電動機についても当てはまる。電動機の中には,それ自身が変速可能のものもあるが,もっとも耐久性があり保守が容易な誘導電動機は,一定回転速度の性質をもっているので,工作機械などの作業機械を駆動する場合には,変速装置を誘導電動機の回転軸と作業機械の回転軸との間に入れて,作業機械の回転軸の回転速度を作業条件に応じて変化させる必要がある。

 入力軸の回転速度をNi,出力軸の回転速度をNoとしたとき,両回転速度の比iNo/Niを速度比と呼び,変速装置の性能を表す重要な数値である。この速度比を階段的にしか変化させることができないものと,ある一定の速度比の範囲内の任意の値に連続的に変化させることができるものとがあり,後者は無段変速装置と呼ばれる。動力伝達系統からみると一般に変速装置は伝動装置の一部を,場合によっては全部を形成するとみることができる。動力伝達においては回転速度の制御だけでなく,回転力すなわち回転トルクの伝達の制御も重要な役目であるので,変速装置の特性を評価するにあたっては,変速の性能とともに伝達トルクが速度比とどのような関係にあるかを示すトルク特性にも注目しなければならない。例えば,速度比がいろいろ変化してもトルクは一定であるような定トルク特性,回転速度とトルクとの相乗積が一定であるような定出力の特性などがある。

 変速装置の変速原理からみた分類は伝動装置の分類と同じ体系になるが,大別すると機械式変速装置,流体変速装置,電気式変速装置の三つとなる。機械式変速装置には歯車を用いるもの,ベルト伝動によるもの,摩擦車を利用した摩擦伝動によるものがある。歯車式は有段の変速装置としてもっともすぐれており,広い用途をもっている。ベルト式は有段および無段変速装置として用途があり,摩擦車式は有段の変速装置としての利用もあるが,無段変速装置として使用することが多い。流体変速装置としては電動機〉の項目を参照されたい。

北郷 薫