平凡社 世界大百科事典

スピン

静止している粒子の角運動量をスピンといい,粒子の自転の角運動量と解釈することができる。量子力学によれば角運動量の大きさは,ħ(プランク定数hを2πで割ったもの)を単位にして0,1/2,1,3/2,……という整数,あるいは半整数に限られる。ある素粒子,あるいはある状態の原子核はつねに一定の大きさのスピンをもつので,スピンはその粒子を特徴づける量子数の一つに数えられる。例えば電子,核子はスピンが1/2であり,α粒子やπ中間子はスピン0,重陽子などはスピン1である。スピンの大きさをS(×ħ)とするとき,スピンを空間のある方向へ射影した成分は,SS-1,S-2,……,-Sという離散的な値のみをとりうる。したがってスピンSの粒子は2S+1個の状態(スピンの方向)をもつことになる。例えばスピンが1/2の電子は,主量子数,方位量子数など軌道で決まる状態のおのおのに対し,スピンが上向き,下向きの2種の状態がある。

 電子のスピンは原子スペクトル中の二重項(接近したスペクトル線の対)の存在,異常ゼーマン効果などを説明する中で導入された。すなわち,アルカリ元素のスペクトルはボーアの原子論では理解できない二重項をもち,また磁場をかけたときのエネルギー準位の分離のしかたに異常性を示すが,1925年にウーレンベックGeorge Eugene Uhlenbeck(1900-1988)とハウトスミットSamuel Abraham Goudsmit(1902-78)は,電子が内部自由度をもち2個の状態をとりうるとすれば,これらの現象を説明できることを明らかにした。電子が二つの状態をもち磁場によって分離することは,銀の原子線が不均一磁場によって2本に分けられることで直接確かめられた。また元素の周期表を説明するためには,一つの軌道に2個まで電子が入りうることが必要で,これは電子のスピンが1/2(とりうる状態が2個)であることを示す。スピンは軌道角運動量と相互作用し(スピン軌道相互作用),両者が平行であるか反平行であるかによってエネルギーに差を生ずる。これによって原子のスペクトルに超微細構造をつくり,これから原子核のスピンの大きさを推定することもできる。一般に原子核のスピンは磁気モーメントの測定などから決めることができるが,短寿命のものや素粒子のスピンは,それらの崩壊,反応の角分布のようすなどから決められる。

 粒子のスピンと統計とは密接な関係があり,スピンが整数のものはボース統計に従い,スピンが半奇数のものはフェルミ統計に従う。原子核の場合は,その構成子である核子がスピン1/2のフェルミ粒子であるので,その複合体の統計およびスピンが整数であるか半奇数であるかは,核子数が偶数であるか奇数であるかによって決まる。素粒子のスピンと統計の関係は,パウリによって相対論的場の理論から証明された。粒子はそれに固有の定まったスピンをもつのだが,一般により大きいスピンをもつ励起状態が存在する。素粒子のこのような励起状態の一群をレジェ系列という。ただし電子などのレプトンのレジェ系列の存在は明らかでない。

宮沢 弘成