平凡社 世界大百科事典

ホウレンソウ

葉を食用にするアカザ科の一・二年草。アフガニスタンからトルキスタンあたりの西アジアが原産地と考えられ,この地域に近縁野生種S.tetrandra Stev.が分布する。ヨーロッパには11世紀に伝わり,アメリカには16世紀の初期にヨーロッパから導入されている。中国へはシルクロードやネパールをへて導入されたといわれ,華北での栽培が盛んで,多くの品種が分化している。日本へは江戸時代に唐船によって長崎に伝えられた。これが今日の在来種で,その多くは種子に角状のとげのある角種子種で秋まきタイプである。明治以後になって,ヨーロッパやアメリカから導入された西洋種の多くは種子にほとんどとげのない丸種子種で春まきタイプである。さらに日本で育成された両者の交雑種には優れた品種が多い。雌雄異株で,一般に雌株のほうが生育は旺盛である。やや多肉の赤色の直根を有し,それに叢生(そうせい)する葉は長三角形,長楕円形,卵形で,欠刻・ちりめんのあるものもある。春に抽だい(とうだち)し,高さ約50cmになり,小さな緑色の花をつける。種子の発芽適温は約20℃であり,生育適温は15~20℃で,冷涼な気候を好み耐寒性はあるが,夏の高温には弱い。このため平坦地での夏まき栽培は困難である。収穫までの日数は,4~7月までの好条件下ではわずかに30日であるが,冬季は長くなる。土壌の酸性に弱く,pH5.5以下では生育は不良となり枯死する。野菜のなかで酸性に弱い代表的なものの一つである。花芽分化後は,温暖長日下で抽だいし開花する性質があり,春まき栽培は抽だいしやすい条件になるため,もっぱら抽だいのおそい西洋種が使用される。ほとんどの夏まき栽培は冷涼な標高1000m前後の高冷地で行われている。秋まき栽培は日本のホウレンソウ栽培の主体をなし,古い歴史をもっている。播種(はしゆ)期は9~12月,収穫期は10~3月である。収穫が冬になるため,霜除け,ビニルなどを利用しての防寒が必要である。以上のような種々の作型によって周年出荷が可能である。ホウレンソウは輸送がむずかしいため,都市近郊での栽培が多い。主生産県は埼玉,群馬,千葉など。

 ホウレンソウは無機養分とビタミンの供給野菜として需要は多く,可食部100g中に鉄分3.7mg,ビタミンA1700I.U.,B10.13mg,B20.23mg,C65mgを含み,葉緑素にとんでいる。一般にはゆでて利用するが,油いため,蒸し煮,なべ物にも用いる。アメリカでは冷凍食品として早くから注目され,冷凍にむく品種が開発されていて,その需要は多い。また乾燥して保存食品にもする。

高橋 文次郎

料理

ホウレンソウの〈菠薐〉は原産地であるペルシア(現,イラン)のことで,中国には唐代までに伝わり,日本には江戸初期までに渡来したらしい。林羅山の《多識篇》(1630)に名が見え,カラナとしているのは唐菜かと考えられる。《料理物語》(1643)には〈はうれん〉とあり,適する料理として煮物,酢の物,汁,あえ物をあげている。《和漢三才図会》(1712)には,鉄漿(かね)を忌むといい,歯を染めたばかりの婦人が食べたところ,血を吐いて死んだという話をのせている。カロチン,ビタミンCのほか鉄分に富むが,シュウ酸が多く,あくが強い。このため生食はまれで,ふつうはゆでてあくを抜き,おひたし,ゴマあえ,汁の実などにする。油脂とよく合い,西洋料理,中国料理にも用いられる。アメリカでは缶詰品も盛んで,その宣伝漫画の主人公が〈ポパイ〉である。

松本 仲子
図-ホウレンソウ
図-ホウレンソウ