平凡社 世界大百科事典

脊髄損傷

なんらかの原因で脊椎に圧力がかかり,脊椎が損傷を受け,この結果,二次的に脊髄が損傷を受けることによって,運動知覚障害が起こったもの。脊椎が受ける損傷の部位によって,症状は異なる。全脊椎のうち最も損傷を受けやすいのは,第5~7頸椎,第4~7胸椎,第10胸椎~第2腰椎の3ヵ所である。頸髄の損傷では四肢麻痺をきたし,体幹機能障害,呼吸機能障害も起こる。胸髄レベル以下の損傷では両下肢の麻痺(対麻痺)を生ずる。そして以上のいずれの場合にも膀胱機能障害を合併する。

 日本では年間1500人から2000人の脊髄損傷患者が発生するといわれる。受傷原因には,労働災害として転落事故や下敷事故が多いが,最近では交通事故が増加している。またスポーツによる事故も多い。とくに老年者で脊椎管狭窄がある例には,外傷により容易に脊髄圧迫を起こすので,実数としては上にあげた年間2000人を超えると思われる。第2次大戦以前には脊髄損傷の多くは合併症のために死亡したが,現在では正しい治療と合併症の防止により一般の平均寿命に近いものが期待されるようになった。

 最初はまったく周囲に依存する生活であっても,適切な医療と訓練によって再び独立生活にもどりうる。脊髄損傷の直後は,脊髄ショックの状態に陥る。反射は消失し,筋緊張は弛緩する。しかしやがて反射が回復して,ついに痙性を示すようになる。脊髄損傷の管理は以下の7項目に分けて考えることができる。すなわち,(1)全身の医学的管理,(2)呼吸管理,(3)骨折や神経損傷に対する処置,(4)尿路管理,(5)消化管管理,(6)褥創(じよくそう)防止,(7)運動機能の再教育と心理的援助である。リハビリテーションに成功して社会復帰が行われると,当然車椅子生活の時間が長くなるが,その行動範囲もしだいに拡大しつつある。現在では神経損傷レベルに対応したリハビリテーション工学の参加も期待されている。

岩倉 博光