平凡社 世界大百科事典

胞子

胞子体上にできる無性生殖のための小さい単一の細胞で,発芽,生長して別個体になる。胞子は藻類,菌類では栄養細胞または単細胞性の無配生殖)を行う植物では,胞子がつくられるとき減数分裂しないか,しても染色体の倍化も起こり,胞子体と同じ核相をもつようになり,それからできる配偶体も同じ核相である。種間の交雑によってできた雑種が不稔の場合は,それからできる胞子はふつう形は異常かつ不定形で,発芽能力も著しく低い。

さまざまな胞子

胞子には鞭毛をもった運動性の動胞子planosporeと,鞭毛をもたない非運動性の不動胞子aplanosporeがある。動胞子はふつう花粉とよばれ,成熟した花粉はすでに細胞分裂し,雄性配偶体ができている。

胞子の特性と分散

藻類の胞子は水中に放出,散布されるので,胞子壁は厚くないが,コケ植物や維管束植物など陸上生活を営むものでは,胞子は乾燥に耐えられるように,多層からなる厚い胞子壁でおおわれ,さらに周皮によって包まれている場合もある。胞子壁はスポロポレニンsporopolleninとよばれる物質からできている。トクサ植物の胞子の表面には胞子壁の肥厚によってできた2本の弾糸がまきつき,周囲の乾湿によってほどけたり,まきついたりするので,胞子の放出に役だっている。同様に,コケ植物では蒴(さく)中にできる不稔の細胞である弾糸によって胞子が放出される。胞子は,減数分裂における分裂面の位置によって,条溝の数に違いが生じ,一稜形と三稜形に分かれ,その形は二面体形,球形,四面体形などさまざまである。胞子壁の表面模様は種によってきまっている。

 陸上植物の胞子は空中散布するので,乾燥のほか,低温,放射線などに対して強い抵抗性があり,葉緑体をもち短命な胞子(ゼンマイなど)を除くと,ふつう数ヵ月から数年の長い寿命をもつことが実験的にも確かめられている。胞子は適当な温度,湿度,光の条件下で発芽する。胞子によって発芽に光を要するものや,一定の暗黒期間を要するものがあり,胞子中にあるフィトクロームのような色素が光受容体として発芽に重要な役割を果たしていることがわかってきている。また,胞子繁殖するコケ植物やシダ植物では,胞子の分散はその分布と密接な関係がある。

 それらは一般に種特有の分布域をもち,種の分布は胞子の分散・発芽能力と他の要因(温度・湿度・土壌などの無機環境要因,植生・競争などの生物的要因,地史的要因)によって規定された複雑な現象であるといえる。胞子壁をつくるスポロポレニンは,化学的にきわめて安定した物質であるので,胞子は化石として残りやすい。そのため,埋土した胞子を調査研究する花粉分析は,陸上植物の起源,系統進化などを解明する上で有効な方法である。それによって,最初の陸上植物の胞子は同形胞子,三稜形で単純な表面模様であったこと,コケ植物やシダ植物あるいはその片方が,その大型化石が発見されていない古生代の中部シルル紀(4億1500万年前)にはすでに存在していたこと,中部デボン紀にはすでに異形胞子に分化していたことなどがわかっている。また,地史的にみて新しい新生代(6500万年前以降)の地層からでる胞子を現生植物の胞子と比較して,当時の植物の分布,植生,古環境の変動なども明らかにされてきている。

加藤 雅啓