平凡社 世界大百科事典

ステンレス鋼

鋼は加工性,溶接性,機械的性質などに優れた性質をもつが,大気中や水溶液中でさびやすいのが欠点である。これを改善するためクロムなどの合金元素を添加した鋼をステンレス鋼という。不銹(ふしゆう)鋼とも呼ばれる。一般的には普通炭素鋼などとくらべ耐食性は優れているが,まったくさびないという意味ではなく,ある環境におかれた場合には,局部的な腐食,たとえば孔食,すきま腐食,粒界腐食,応力腐食割れなどを起こす。ステンレス鋼の耐食性が優れているのは,その表面に形成されている不働態皮膜と呼ばれる酸化膜のためである。不働態皮膜が表面に形成されると,素地の鉄を保護し,それ以上さびるのを防ぐ働きをする。自然環境において鋼が十分な耐食性を得るにはクロムが12%(重量)以上必要である。クロムと同時にニッケル,モリブデンなどを合金化すると,耐食性がさらに向上し,化学工業薬品などの特殊環境で使えるようになる。

 ステンレス鋼は,そのおもな金属組織,組成によりマルテンサイト系,フェライト系,オーステナイト系,オーステナイト-フェライト2相系等に分類される。

 (1)マルテンサイト系ステンレス鋼 クロム12~18%,炭素0.10~1.20%を含み,焼入れ・焼戻ししてマルテンサイトあるいはマルテンサイト+クロム炭化物の組織として使用する。この系のステンレス鋼の一種に析出硬化型ステンレス鋼があり,これはNi3Ti,Ni3Alなどの析出硬化により強度を高めた強力ステンレス鋼である。非常に硬く,強いので,耐食性と同時に硬さ,耐摩耗性の必要な部材,たとえば刃物,外科用器具,工具などに使用する。(2)フェライト系ステンレス鋼 クロム12~27%,炭素0.20%以下を含む。大きく分けると13クロム鋼,18クロム鋼,25クロム鋼になり,最近では,製鋼技術の発達により応力腐食割れ等を起こしにくい鋼種として,炭素量を減らしモリブデンを約2%添加した高純度フェライト系ステンレス鋼がつくられている。焼入硬化性がほとんどなく,耐食性も比較的よく,ニッケルをほとんど含まないため,オーステナイト系よりも安価である。食器等の家庭用品,建材,化学工業用装置等に使用される。(3)オーステナイト系ステンレス鋼 クロム13~30%,ニッケル6~20%,炭素0.10%以下を含む。代表的なものは18-8ステンレス鋼と呼ばれ,低炭素で,クロム18%,ニッケル8%を含む鋼である。耐食性をさらによくするために,モリブデンを1~3%程度添加した鋼もよく使用される。ステンレス鋼の需要の大部分はこの系のステンレス鋼であり,耐食性とともに高温での耐酸化性も優れているため,家庭用品,建材のほか化学工業・石油工業用装置,原子炉関係などの用途がある。(4)オーステナイト-フェライト2相系ステンレス鋼 クロム18~30%,ニッケル6~12%,炭素0.10%以下を含み,熱処理などによりオーステナイトとフェライトをほぼ半々にし,それぞれの結晶粒を細かく調整した,耐食性,加工性のよい,強度の大きいステンレス鋼である。石油工業,化学工業,耐海水用装置などに用いられている。

今井 八郎